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「―――では二人共。恙無くお願いします」「はい」「お任せ下さい、司教様」


 “黄の星”、首都シャバム。GW真っ只中にも関わらず、大教会地下には二人の現地大学生がいた。

 煌々と灯る純銀製燭台を拝領し、四年生のラント・アメリアは一礼。先輩に倣い二年生、宝 那美も聖水の硝子瓶を手に黙礼した。

 今日は教会祭事でも特に重要とされる、年に一度の合同慰霊祭だ。初めに聖具を携えた司祭五人が、死者達の永久なる安寧を願い、約十分掛けて聖句を詠唱。その後静々と奥の階段、地下六階まで続く大霊廟へと歩き去っていく。一方、彼等の出立を見届け、司教は逆方向の階段より地上へ。祭壇前に設置された献花台にて、全員帰還まで祈りを捧げるために。

 等間隔に照らす灯火をバックに、薄暗い空間内に取り残された男女。勿論若気の至り的な展開になる筈も無く、彼等は極々真面目にボランティア活動を開始した。

 霊廟は東西南北共約二十メートル、ほぼ正確な正方形の空間だ。東西に九列、生前の聖人を模した陶器製人形が整然と安置され、各列前後に通路として凡そ二人が並べる幅の歩行スペースが設けられている。そして全部の人形の前に立てられた、点火待ちの新品の蝋燭。では、年長者が手前の一体を指差す。

「先程の打ち合わせ通り、本官は鎮魂の火と聖句を担当。那美君は祈りの後、人形の頭に聖水を数滴垂らしてくれ」

「了解しました。にしても、聖人って意外と大勢いるんですね。最下層までずっとこんな感じですか?」

「いや。ここはまだ歴史の浅い、割合近年に認定された聖人の霊廟だ。認定後三百年を越えると最下層へ移され、以降は使徒何某と呼ばれ奉られるようになる」

「ふーん。あれ?だったら残りの四階層は」

 首を傾げる後輩へ、慰霊は何も信仰の徒だけの物ではない、燭台を持ち直しつつ説明を続ける。

「二階から四階までは、この一年間に亡くなられた人々。五階は生前素晴らしい功績を残した偉人達の安息の場所だ」

 ああ、要は一般枠ですね。持ち前の必殺蹴りと同じドストレートの物言い。場違いな台詞に厳粛な雰囲気も忘れ、ラントは盛大に噴き出す。つくづくこの後輩は面白い。真面目一辺倒な自分に、これでもかと新たな視点を与えてくれる。

「そんな、TVのバラエティ番組みたいに……くくっ!はははっ!!」

「?そんなに面白かったですか、今の」首を捻り、「相変わらず先輩のツボは良く分かりません」

 何とか笑いを収めるも、まだ口元がむずむずする。霊廟が薄暗くて助かった。こんな締まりの無い顔を見られたら憤死物だ。

 そんなこんなで手順に従い、最前列の左端から慰霊開始。燭台の火を移し、略式の祈りを唱え、十字を切る。信徒が隣に移動すれば、次は那美の出番だ。黙礼し、つるりとした陶器の頭部を清めの雫で濡らす。 

 初心者が儀式慣れした頃、ようやく一列目の端に到達。終着点はこれまでの物より一目で新しいと判る、しかも一対の人形だ。膝を折り、両手を組む女性。そして彼女の肩へ直立した男性が手を置いた、実に仲睦まじい表像だ。

「へえ。ここはペアでワンセットなんですね」

「彼等は半年前に聖人とされたばかりだ。少々特殊な家系で、夫婦での認定が妥当だろう、と」

「でも死なないと認定?されないんですよね。と言う事は、この御夫婦も」

「ああ、十八年前に他界されている。一般の感覚だと審査が遅いかもしれないが、これでも異例に早い部類だ。普通はゆうに三、四十年掛けて精査に精査を重ねる」

 一連の動作を行った後、まあ、場所を譲らないまま呟きを漏らす。

「彼等の場合、死因も加味されたお陰で審査が早まったのだろう。凡そ通常の亡くなり方ではなかったからな」

 再度十字を切り、若き信仰者は重々しく頭を垂れた。


「鎮森神父、並びにシスター・千花……どうかお二人に、主の御許での安らかな眠りが齎されん事を―――」




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