表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/67

13



 ベッドから上半身を起こす娘は、鎖骨下から胸部に掛けて包帯が巻かれていた。左腕には二種類の点滴、ベッドヘッドには心電図。仕事柄見慣れているとは言え、我が子となれば痛々しいばかりだ。

 だが年頃の娘にとっては重傷より訪問者への、より具体的には約一名の同級生への羞恥が勝るらしい。慌てて左手で開いた胸元を閉じ、ごめんなさい、縮こまって謝罪。

「夏休み前に『星編みの姫』の続演をって話だったのに、選りにも選って入院だなんて……」

 俯き加減のまま、ママにも謝らなきゃ、ベッドの傍に座る母親をチラッ。

「折角原稿の締切を押してまで、お芝居の台本を書いてくれたのに……」

「そう気に病まないで、ナナちゃん。思い詰めたら傷にも障るわ」

「そうだぞスピカ。幸いまだ告知のビラも刷ってねえし、次回公演の件は退院してからゆっくり決めようぜ」

「でも」

「スピカ」

 一人離れて入口脇にいた異能者が、親愛の情を以って朗笑。想い人のレアな表情に頬を染め、は、はい……、反射的に幾度も頷く娘。

「ま、こんな機会でも無いとお前は骨休め出来ないからな。特に急ぎの課題も無いんだろ、頑張り屋さん?」

「あったらこんなに悠長にしていませんよ。あ、課題で思い出しました。アンタレスさん、昨日言っていた補習は無事終わりましたか?確か今日が提出期限」

 瞬間、ICU内に野太い絶叫が響き渡り、キム君を除く全員が身を撓らた。当然血相を変え、廊下で待機中の院長達も飛び込んで来る。

「いや、何でも。ちょっと厭な事を思い出しただけで、つい」

 本当か?剣呑な表情の上司へ、まあ学生も色々大変なんですよ、視線で釈明する。幸い理解が得られたらしく、彼女は不機嫌に腕を組んだ。

「……フン、だが二度目は無いぞ。何せナナちゃんは昨夜、生死の境を彷徨ったばかりなんだ。率直に言えば即刻君を抓み出し、院長室で小一時間説教したい程度には怒っている」

 ズキューン!あ、しまった。アンタレス君、確か滅茶苦茶守備範囲広かったんだっけ。

「いいえ、自分で出て行かせて頂きます!貴女の御手を煩わせるなど、俺にはとても出来ない!!」バタバタッ!くるっ。「院長先生!今度お会いするまでに俺、もっと男を磨いてきます!!」

「は?」

「いや、ナンパの前に課題やれよ手前は」

 親友の忠告も虚しく、アンタレス君はそれはもう颯爽と姿を消していた。一方、当の本人は無表情に閉ざされたドアを一瞥後、溜息混じりに部下を呼ぶ。

「今の学生、相当趣味が悪いぞ。他人の子ながら将来が心配だ」

「おや、そうですか?」

 今年で四十八歳とは言え、鳩木院長は清楚系美人な上、未だ独身だ。それを本能的に見抜いた慧眼は評価に値すると思うが。

 はぐらかすような返答がお気に召さなかったのか、まあいい、女医は踵を返す。僕も妻の肩を叩き、目線で出入口へと促した。

「ええ、そうね。じゃあ、後は若い者同士で」

「えっ?ちょ、ママ!?」

 ひらひらと手を振る彼女を最後尾に、僕等は二人を残し足早に退室した。 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ