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8:もっと奥にください

 この世界に来た時よりも少し暑くなってきた。

 ここにきて1カ月くらい、いや2カ月くらいは経ったのだろうか。

 自分でも思い出せないくらい昔のような、そしてつい最近のような気がする。

 なんにせよ夏が近いようだ。


「この前植えた、『バルダン』がそろそろ食べ時かもしれませんよ」


「バルダン?」


「また忘れちゃったんですか? この前畑に植えた、えっと、長くて黒くて硬くて……」


 そういって身振りを交えながら一生懸命に俺にそれを説明してくる。

 ちなみにバルダンとはゴボウの様な野菜だ。

 俺は知っている。

 が、毎回忘れたふりをしてこの説明を聞いていた。

 まぁ、ゴボウらしく土の中にいるせいで、まさか今が収穫時だとは思っていなかったというのもあるが。


「大量だ~!!」


 そんな、軽いセクハラなど興味のない子供たちは、我先にとゴボウをを引っこ抜いていく。


「こりゃ食い切れないなぁ」


「大丈夫ですよ。きちんと処理すればひと月くらい持ちますから」


「いや~でもホントにユキネさんが知っててよかったですよ。あのまま腐らせるところでした」


「いえいえ、夏の暑さが始まるころに父がよく取ってきてくれてたので。獲物が獲れないときなんかは特に」


 そういって、少しだけ悲しそうに笑う。


「えっと、エルフはどうやってこれを食べるんですか?」


「どうって……煮て食べますよ」


 ユキネは何を聞かれているのかわからないように首をかしげる。

 どうも、エルフたちは食への探求心が薄いようだ。

 以前も別の食材で同じことを聞いたが「煮る」か「焼く」しか出てこない。

 しかも味付けなど度外視である。


「とりあえず、鶏肉と一緒に茹でますか」


 俺は、適当にぶつ切りにした鶏肉とゴボウを鍋にぶちこむ。

 ついでに、塩豆(ソルトビーン)もぶちこんだ。

 このソルトビーンは塩分をたっぷりと含んだ枝豆である。

 どうやら土中の塩分をその身にため込んでいるようだ。

 この植物にとっては塩害なんてのは天国と同義語なんだろうな。


 ちなみにエルフたちは、塩飴代わりにこれを食べるらしい。

 そのせいで調味料というものができなかったのかもしれない。

 いや、日本人ならなにはなくともこの豆とどんぐりあたりを煮込んでいる気がする。

 きっとエルフは根本的に食事に興味がないのだろう。

 そんなことを考えながら、俺は最後に捌いた際に出た鳥の骨を叩き折って鍋にぶっこむ。


「兄ちゃん。僕たち骨を食ったりせんよ。兄ちゃんじゃないんだから」


「いや、俺も骨をバリボリ食わねぇから。え? 食ってそうに見えます?」


 俺がユキネに視線を送る。


「別に……」


 ユキネはちらっと眼を逸らした。

 俺を悪鬼羅刹だと勘違いしてるのだろうか。

 そこへ、ライウがやってくる。


「いい匂いがするね」


 フウもまた、骨のことなど忘れたかのように鍋の香りをかいでいる。


「僕の分はある?」


 食事に興味がないといっても、味覚や嗅覚がないわけではない。

 このままいけば食文化なんてのもできるかもしれないな。

 とりあえず、調味料辺りから作ってみるか。


「全員分あるから安心しろ。ただし、塩豆を30個持ってきたやつからだ!!」


 この塩豆は村の周囲の至る所に生えている。

 子供たちはそれを競うように集め始めた。


「あの……私は……」


「俺達は少し味見しときますか」


 俺は、にやりと笑いながら二つの器に汁をよそい、ユキネに手渡した。


「あ~ずるいんだ~」


 と、どこに隠れていたのかフウがじとぉっと見ていた。

 くっそ、てっきりどこかへ行ったものだと気を使ってなかった。


「僕も味見がしたいなぁ」


「わかった。ばれないように器を持ってこい」


◆◆◆


 俺は、塩豆を大量にゆでた汁を延々と火にかけていたところ、いつの間にか夕方になっていた。

 そこへ、ユキネが晩御飯を持ってやってきた。


「今日はずっと何をしていたんですか?」


「塩作りです」


 俺は、瓶の底の白い粉をつまんで見せる。

 ユキネはそれを不思議そうに見つめながら俺の隣に座った。

 今日の晩飯は、焼いた豚肉である。


「二人分…… 食べてないんですか?」


「さっきは二人で食べられなかったので」


 ユキネはクスクスと笑う。


「その塩をどうするんですか?」


「こうするんですよ」


 俺は肉にその塩を振りかけた。

 ユキネがうげっという顔をする。


「まぁ、食べてみてくださいよ」


「はぁ……」


 俺が自分の肉に塩をかけるのを確認するとユキネは肉を口に運んだ。

 そういえば、昔酸っぱい木の実でだまされたことがあったな。

 それの仕返しと思われたのだろうか。


「おいしい!! お肉がおいしいです!!」


「そりゃよかった。酸っぱくなくてよかったですね」


 俺は口に運びながら、あの酸っぱい木の実でソースを作ってもいいかもしれないと思った。


「おいしかったです! まさか、塩をかけただけであんなに違うなんて。今日のお昼のスープもおいしかったですけど」


「そいつは良かった」


 俺が満足感に満たされていると、ユキネが申し訳なさそうに一本の棒を差し出してきた。

 細くて先端が小さなスプーンのようになっている。


「耳かき?」


「はい、私、耳かきされるのが好きなんですけど……あの子たちはまだ小さくて頼めなくて……」


「フウとか……」


 そう言ってから、俺とユキネは同時に首を振った。

 フウ辺りに頼んだら、いつ右耳と左耳がつながってしまうかわかったものではない。


「えっと、じゃあ、ここに頭置いてください」


「はい、お願いします」


 そういって、ユキネは俺の太腿に頭をのせる。

 これを膝枕というのはおかしいのではないだろうか。

 そんなアカデミックなことを考えていなければ俺の意識は空の彼方へと吹っ飛んでいきそうなほど妙な緊張がある。


「はじめてですか?」


「えぇ、人のをやったことはなくて……」


「マキトさんにも初めてってあるんですね。なんかうれしいです」


 なんか変なことで感心されてしまった。

 俺はとりあえず、耳にかかった髪の毛をどける

 きれいで柔らかい髪の毛だ。

 そして、そのとがった見慣れない形をした耳を触る。


「ひゃ!」


「ご、ごめんなさい」


「いえ、くすぐったかっただけです。ほら、触ってみてください。鳥肌立っちゃった」


 そういうとユキネは俺の手を取り首筋にあてがった。

 確かに、そのきめ細やかな肌が粟立っている。


「ゆっくりでいいんで。少しくらい痛くても我慢します」


「いや、痛いのはまずい気がしますけど……では、失礼します」


 俺はゆっくりと穴の中に棒を差し込む。

 最初は入口をこするように壁に棒を押し当てながら差し入れすると、ユキネは気持ちよさそうに声を出した。


「ふわぁぁぁ。そこ、気持ち……いいです……」


「ここですか?」


「はい。もう少し力を入れてください……」


「え? もっとですか?」


「あぁぁぁ……そうです。そこ、そこ気持ちいい……もっと……」


 俺は、その部分を重点的に刺激する。

 ユキネの目がとろんとしてきた。


「はい、もう少し早く動かしてくれても……」


「えっと、こうですか?」


「そう、上手です。もっと奥まで……もっと奥にください!」

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