70:スキル喪失
ケンの剣がフユミの身体を貫いた。フユミがその男を見つめる。
しかし、その男は興味なさげに剣を引き抜いた。
フユミの身体は人形のようにその場に崩れ落ちる。
「何してやがる!」
俺の身体は自然と動いていた。
次いで狙われたナツキとケンの間に身体を割り込ませようとする。
しかし、身体が言うことを聞かない。
身体の周りを魔力が取り囲んでいる。
目の端のリュートが笑顔で俺を見ていた。
「クソ!」
リュートの妨害のせいでほんの一瞬出遅れた。
そして、その出遅れの結果、ナツキが腹に大穴が開いた。
「2人とも少し、そこで休んでいて」
ケンは落ち着いた声でそういう。
2人とも、口をパクパクと動かし、何とかその命を留めているような状態だ。
もう1人――俺は身体を動かす。
しかし、それよりも先に竜の首に剣が刺さった。
「よかった。これで君達はもう大丈夫だよ」
地面の上が赤く染まっていく。
その目が虚ろになっていく代わりに、ケンの瞳は奇妙な色を浮かべていた。
それが意味することは分からない。
一つ言えることはもう言葉でどうこうできないということだ。
狂いきった人間にかける言葉などない。
「次は、マキト君。君を助ける!」
その言葉とほぼ同時にケンが踏み込んできた。
先ほどとは段違いの速さ。
袈裟斬りの一撃を半身で躱すが、その勢いのまま肩から体当たりを決められた。
勢いを殺すべく後ろに跳ねるが、ケンはさらにもう一歩踏み込む。
「マキト君、安心してくれ!」
――何をだ。
ツッコむ暇はない。
逆袈裟で斬り上げられた切っ先が、額の皮を切り裂いた。
舞う鮮血を拭う暇もない。
俺は、がら空きになった脇腹に拳を叩き込む。
ケンは無理矢理、身体をひねってそれを肘で受けた。
今度はその腹に靴裏を叩き込む。
「マキト君、僕に体を任せるんだ!」
「お断りだ、糞野郎」
俺は、【魔眼】を発動する。
詠唱も何もないそれを、ケンはどこで判断したのか、躱した。
そしてその口が詠唱を行う。
「舞え、狩場の月」
俺は、距離を開けんと後ろに跳ねた。
空間が切れた音がして、その場所を銀閃が走る。
態勢を整えると、ケンの周りに9本のナイフが浮かんでいた。
「トリックか?」
眉をひそめた俺はそこで額から流れ出る血を拭う、振り。
俺は、再度糸を放った。
煌めく銀線。空間を刻む。
が、それに合わせてナイフが動いた。
「自動防御?」
ケンの視線は動いていない。
しかし、見えていないはずの場所でもナイフは知っているかのように動いて糸を斬っていく。
「これならどうだ!」
さらに糸を増やす。
10本を50本に。50本を100本に
しかし、ケンもまたその瞬間に魔法を詠唱していた。
俺の放った糸が近づくそばから燃え上がる。
燃やしきれなかった糸は、ナイフと剣で斬り落としていく。
「落ち着くんだ!! さぁ、力を抜いて!!」
「断る!」
俺は、攻撃に紛れさせて糸に伏せていた糸を一気に引き上げた。
ケンに斬られた隕石がその勢いでケンに向かって弾き飛ばされる。
それに合わせて俺も肉薄する。
前後左右上下、全方位からの波状攻撃。
糸の攻撃をナイフで防ぎ、隕石の突撃を両手で掲げた剣で受け止めた。
そして、俺の拳の一撃もまた、受け止められた。
新たに背中に生えた腕によって――
「なんじゃそりゃあああ!!」
さすがに驚いた。腕が生えるとは。
驚きもつかの間、生えた腕が俺の腹にぶち込まれる。
腹筋が引き千切れるような痛み。沸き上がる留飲。
踏鞴を踏んだ俺の顔面にさらに数発、拳がぶつけられる。
勢いに押されて俺は吹き飛んだ。
地面に背中を強かに打ち付ける。
肺から押し出された空気と一緒に胃液を吐き出した。
空中に舞ったその飛沫越しにケンが飛びかかってくる。
俺は、地面をゴロゴロと転がりそのそばに剣が何度も突き立つ。
「痛くないよ、痛いのは最初だけ」
立ち上がろうとした俺の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばされる。
そのまま、仰向けに転がった俺の腕と足にナイフが突き刺さり地面に縫い付けられた。
糸を射出するも、切り裂くよりも先に燃え落ちる。
悠々と近づいてきた四本腕の異形勇者は、ケンを振りあげた。
満面の笑み。
逃れようと動いた。
がしかし、その切っ先が腹部に突き立った。
痛みはない。ただ熱い。
俺はうめき声を歯の食いしばりでこらえると、その剣を掴んだ。
そして、力づくで引き抜く。
この程度のけがであれば、【再生】で元に戻るはず。
しかし、その目の前に文字が浮かんだ。
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【実績「粘液系生物の撃破」が削除されました】
実績ボーナススキル【癒着】を喪失します。
開放されたスキル【再生】を喪失します。
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削除? スキル喪失?
立ち上がるが、腹部の傷は熱を持ったままだ。
痛みが俺の意識を刈り取ろうと脳内を駆け巡っている。
「魔王の瘴気、僕が全部切ってあげる」
俺の視線にリュートは笑って答える。
「君の強さはジョブによる『加護』だ。
その剣は、それを斬る。
君は今から丸裸にされるんだよ」




