表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/74

68:月まで吹っ飛べ

 勇者達は3人と竜が一匹、合わせて4。

 相対するこちらは、5人。数の上では勝っている。

 問題は、その内3人がまともに動けないということだ。


「マキトさん……逃げましょう」


 俺は声をかけられて振り返った。

 ユキネが必死の形相で立っている。

 そして立っているユキネでさえ、立っていることがやっとで足はまともに動かないだろう。


「ユキネさん。逃げましょうか……」


 俺は振り向きもせずにそう言った。

 ユキネは逃げないだろうし、逃げられない。

 だからこそ、ユキネは俺に逃げろと言ったのだ。

 そして、それは無理な話である。

 ただの1人でも置いて逃げるわけにはいかない。

 俺の気持ちを知らないフユミが口を開く。


「聞いたでしょ? ケンは『危険だ』って言ったのよ。

 逃がすわけが――」


 最後まで聞いてるやる義理はない。

 両手を八の字に開いて俺は走り出す。

 「マキトさん」叫んだの声が聞こえた。

 話を聞いてあげる余裕がない。


 繰り出した糸をケンが剣で切り払った。

 その合間を縫うように氷の矢が飛んでくる。

 冷気の尾を引いたそれをギリギリまで引き付けると、空中へ跳躍。


「がぁ」


 それは狙われていた。

 金竜が大口を開けている。

 喉の奥がぱっと赤くきらめいた次の瞬間、熱線が放出された。

 空中で身動きが取れない俺は、ただの的である。

 しかし、それについて先手を打っていた。


 先ほどばらまいた糸の内、数本を周囲の地面に打ち込んでいたのだ。

 即座にそれのうちの一本を引っ張る。

 俺のいた場所を炎の渦が通り過ぎていった。

 乾いた空気が俺を打つ。

 地面に叩き付けられる寸前に体をひねって着地。


 と、視線の先でナツキが何か唱えている。

 地面の中で、何かがうごめいている感覚。

 バク転の要領でその場を退()くと植物の根が地面を突き破ってきた。

 鞭のように振るわれる根を屈んで避ける。


「白魔導士ってのは、回復専門じゃないのか?」


「回復を利用しただけよ」


「どんな利用だよ」


 俺の嘆きをあざ笑うかのように地面から巨大な植物が現れる。

 茎を叩き付けてきたので、糸で斬り飛ばした。

 しかし、即座にそこから新たな茎が生えてきた。

 仕方なしに、距離を開けようとすると葉を飛ばしてくる。


 俺は足を止めて、その葉をすべて撃ち落とした。

 その隙をつくように金竜が近づいてくる。

 そして、巨大な丸太のような前脚を俺にぶつけてきた。

 退くか? いや、間に合わない。俺は覚悟を決める。

 糸で身体を地面に固定すると、その前脚を両手で受け止めた。

 体中の骨がきしみを上げる。

 【頑丈】のおかげで僅かな裂創で済んだ。


 が、次に来たのは足元からの衝撃だった。

 地面を植物の根が押し上げたのである。

 空中に放り出された俺を金竜が狙うかと思い視線を送るが、金竜は大きく羽ばたくとその場から離れていく。


 ――なぜ?


 と、頭上から轟音が響いた。

 見上げて思わず叫ぶ。


隕石魔法(メテオ)!?」


 巨大な岩、赤く燃えている。

 避ける……どこへだよ!!

 思考を迎撃へロックすると、全指から糸を繰り出した。

 頑強な、鋼のイメージの糸を隕石に叩き付ける。

 その熱には耐えたが、その分糸が脆くなったせいで砕くに至らない。


 クソったれ!

 俺は、スキルを確認する。


 魔眼《振動操作》:対象の振動を操作する


 赤竜を倒した時のスキルが変化している。

 さっきの【地力】のおかげらしい。

 前は増やすだけだったが減らせるようになっているのだ。

 即座に、隕石の、いや隕石を構成する全分子の振動数を操る。


 絶対零度。


 隕石の温度を極限まで下げる。

 赤熱がなりを潜め、白い湯気を上げだした。

 今なら余裕で砕けるだろう。

 しかし、俺はそれを糸で編んだネットで包み込んだ。


 そして、空中の空気の急激に冷やして簡易の足場を作ると体勢を整える。

 ハンマー投げの要領で回転。

 目標。100メートル先。

 偉そうに突っ立っている男とその取り巻きの女と竜。


 砲弾かくや、放たれた隕石。

 それは剣に直撃する瞬間に澄んだ音を鳴らした。

 ケンが隕石を真っ二つに叩き切る。

 

 きっと俺の鼻を空かしたと気分がよかったのだろうが、直後にその顔が歪む。

 隕石の後ろに俺が隠れていたことに気が付いたからだ。


「月まで吹っ飛べ」


 俺の拳がケンの顔面に叩き込まれた。

 残念ながら月まで行くことはなく、地面に一本の線を引きながら吹き飛ぶ。


「ケン!!」


 ナツキが叫んだ。

 外れた視線をかいくぐると、フユミの足を刈るように蹴り地面に叩き付ける。

 そこで、やっと気が付いたのか呪文の詠唱を始めたナツキの鳩尾(みぞおち)に拳を叩き込んだ。

 ひゅお、と空気を吸い込む奇妙な音を喉から鳴らして顔面から地面に倒れ込む。

 そして、飛び立とうとした竜の足をつかんだ。

 こいつだけは、ずっと俺を見ていた。

 しかし、周りに仲間がいたせいで行動が取れなかったのである。

 俺は、掴んだ腕に力を籠めると、負けじと竜もはばたいた。

 地面に風が叩き付けられ、フユミとナツキの身体が吹き飛ぶ。

 持ち上げられそうな身体を俺は制御すると、そのまま竜の身体を地面に叩き付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
是非よければこちらも

忍者育成計画
https://ncode.syosetu.com/n7753es/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ