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67:本気でやったら敵うはずないだろ?

「魔王になりませんか?」


 何を言っているんだ? この男は。

 俺の疑問など無視するかのように、リュートは自分勝手に話し始めた。


「私は、世界の心理を探す者、魔導士と自称している者です。

 この世界を研究していて一つの心理に辿り着きました。

 大いなる流れというものが存在しているということです。

 そこに意思があるのかないのかはわかりませんが、世界をこう定めた枠が存在している」


 俺はリュートの胸倉をつかんでいた手に力を籠める。

 だが、苦しむ素振りすらない。


「あ、さきほど殺すとおっしゃっていましたね。やってみま――」


 俺は力任せに壁の空になった本棚にリュートの身体を投げつけた。

 男の身体がゴムボールのように部屋を跳ね、打ち所が悪かったのか右腕の肘が曲がってはいけない方向に曲がっている。

 そこから折れた骨が突き出ていた。

 しかし、やはりその顔には涼しげな笑みが浮かんでいる。


「いや~800年生きてきましたが、初めてですよ。

 私の不死身性を説明しようと思って殺せと言って心臓を刺されたり、首を落とされたりしましたが、

 ノータイム、いや食い気味に投げられたのは」


「なら、絞めて、刺して、折って、千切って、刻んでやろうか?」


「構いませんが、あちらにそんな時間ありますかね?」


 スクリーンにはカーラが魔法障壁を張っている映像が映し出されている。

 その中でレットは間一髪直撃は免れたのか、ユキネに手当てをされていた。


「私の話が終われば、あちらに戻します」


 リュートは微笑んだままで右手で顎をさすった。

 その手は何もなかったかのように治っている。


「私は研究をしていて一つの結論に至りました。

 流れの違う、異なる世界が存在しているのではないか、と。

 そして、実際に存在を確認しました。

 すると、気になるではありませんか。

 異なる世界の住人が別世界に渡ってくるとき、その世界の流れはどう変わるのか。

 私はさっそく異世界から呼び出すために、ヒトを1人改造しました。

 あの、妹のことですよ。

 あれは、私のことを兄だと思っていますが、ただの奴隷なんです。

 幾人か呼び出した結果、その召喚式では、勇者と呼ばれる人間しか呼び出せないことがわかりました。

 勇者は、枠組みの中では強いんですけどね……それだけです。

 だから、私はもう一度召喚式を組み直しました。

 次は勇者以外を呼び出すために。

 それがあなたです」


 リュートは俺を指差した。

 そして、今までとは違った質の嫌な笑みを浮かべる。


「あなたは、今までの被召喚者とは違う。

 この世界の枠組みから半歩だけずれています。

 私が待ち望んでいた存在なのです」


「俺に何をさせたいんだ」


「特には……ただできれば世界をひっかきまわして欲しい。

 その時世界がどう変化するのか、気になりませんか?」


 ――ならない。


「戻せ。話は終わったんだろ?」


「よろしくお願いしますね。世界に混沌を……」


◆◆◆


 俺が戻ったときには戦況は決していた。


「君達は危険だ」


 ケンは、倒れたトーソンのそばで俺を見やってそうつぶやいた。

 カーラは全てを使い切ったのか、レットのそばに倒れ込んでいる。

 ユキネは、その2人を背にして立ってはいたが、その足は疲労からかがくがくと震えていた。


リュート(あの男)のことを知っていたのか?」


「あぁ、知ってる。あれは魔人とかそんな類の化け物だ。

 欲望に忠実で、能力もあって……」


「それに踊らされてるお前はなんだ?」


「……この世界のためだ」


「駒にされてもか?」


「帰るため……だ」


「仲間を異形に変えてまで、か?」


 俺の視線とケンの視線がぶつかった。

 次の瞬間、同時に動き出す。


====

【実績が解除されました】 

●至高vs究極

――勝つとき必ず何かに負ける


【実績解除ボーナス】

地力:対戦相手が究極である場合に限りその能力をわずかに上回る

====


 俺は即座に自身のステータスを確認した。


――――

マキト アイクラ

ジョブ:実績蒐集家(アーカイブマスター)

筋力   EX+

魔力   EX+

耐久力  EX+

精神力  EX+

持久力  EX+

反応速度 EX+

――――


 ケンの全ステータスはEXだ。

 恐らく完ストというやつだろう。

 それのわずかに上、ということか。

 それなら勝てる、というようにうまくはいかない。


 ケンの振りかざした剣を半身で避けると、その勢いのままケンに拳を叩き込もうと突き込んだ。

 読んでいたケンが距離を取るべく後ろに跳ねる。

 俺は、距離を開けまいと一歩踏み込もうと重心を前に倒した。


 熱、予感、悪、死。


 俺は前傾姿勢になった身体を足の筋力だけで無理矢理横に跳んだ。

 その場所を熱線が通る。

 髪の焦げた匂いがして、今度シャンプーを作ろうと思った。


「邪魔をするな!!」


 放ったのは金色の竜であった。

 満足そうに口から煙を吐いている。


「それはお前だ!!」


 俺の言葉にフユミが返す。

 それと同時に、俺のそばを烈風が抜ける。

 かまいたちだ。

 目に見えない空気の刃が俺を切り裂く。

 勘だけで致命傷を避けたが、その間にケンは体勢を整えていた。

 そのそばには、ナツキが。

 どうやら、ケンに何か魔法をかけたらしい。


「君一人と僕たち4人……本気でやったら敵うはずないだろ?」

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