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66:魔王になりませんか?

 兵が大きく引いていくと、俺達と兵士の間に金色の竜が降り立った。

 その背に乗っているのは記憶にある3人だ。


「久しぶりですね……マキト君」


「ああ」


 勇者ことケンは、竜の背からひょいと飛び降りた。

 その服装は、何やらごちゃごちゃと着飾っていて動きにくそうだが、着ている本人は気にならないのだろうか。


 それに続くように、ヒーラー然とした白いローブを身にまとったナツキと、これまた魔術師然とした黒いコートに身を包んだフユミが降り立つ。

 3人ともどこか目が虚ろだ。


「思い出話に花を咲かせる間柄でもないだろ、俺達は。

 とっとと後ろの役立たずども連れて帰ってくれないか?

 こっちは、こっちで化け物をなだめなきゃいけないんで」


 俺がトーソンに視線を送ると、トーソンは心外そうに「誰がバケモノだ」と呟いた。


「そうしたいのは山々なんだが……君達は危険すぎだ」


「危険ってなあ……ところでよ……」


 俺はふと思い出していた。


「1人足り無くないか? あの金髪の……」


 なんとなく口にしたその言葉に黒ローブ(フユミ)がギリリと俺を睨みつける。


「いるわよ、ここに」


「ここに?」


「この竜がアキよ……」


「はぁ?」


 俺は目の前の竜を見上げる。

 そういわれるとどことなく面影があるようなないような……

 特に色味が。


「なんでヒトが竜になるんだよ」


「僕たちがこの世界に呼ばれた理由を覚えてるかい?」


 ……俺は頬をかいた。


「私達はこの世界に現れた魔の森を消すために召喚されたんじゃない」


 白ローブ(ナツキ)は苛立ちも隠さずに言い放つ。

 俺は後ろを振り向くとレットが首を振った。


「まず、お前らの会話の意味もわからん」


 カーラも肩をすくめている。


「あなたは逃げたから知らないでしょ!

 私達はずっと森の魔物達と戦ってきたのよ!

 そのせいでアキちゃんは!!」


 涙声になった白ローブ(ナツキ)の肩をケンは抱いた。


「森の呪いだそうだ。

 ちょっと前までは意識もあったんだけどね」


 ケンはさみしそうに笑う。

 しかし、俺としては聞き捨てならない言葉を吐かれた。

 (はら)に黒い物が溜まる。


「……逃げた? 追い出したの間違いだろうが……」


 一度口をついた苛立ちは、止めようと思って止まることはない。


「それで、仲間をタクシー代わりとはな」


 口から漏れた黒い物に、ローブの2人は目をむいた。


「あなたにはわからないわよ!

 これだけの! こんなことをしておいてヘラヘラしてられる奴に!!」


 辺り一面に広がった血、肉、腑。

 死の匂い。

 それに突かれたのだろうか。

 俺の苛立ちは一気に頂点まで達した。


「黙れ! お前達だってそうだろうが!

 その腰の物が血を吸ってることくらい、見ただけでもわかるぞ!」


 俺の言葉にケンは動揺を示した。


「ああ、殺したよ。魔物もヒトも……

 でも、君ほどじゃない」


「言ってろ! お前達は嘆いてなどない! 偽善者め!

 罪悪感を感じてる振りをするなよ!

 お前らの精神力は、最初から俺より上だろうが!」


 フユミとナツキの精神力はSSでケンはEXだ。

 この場で全てのステータスがEXなのは、俺とケンだけである。


「何、訳の分からないことを言ってるのよ!」


「やっぱり君は危険だ……」


 ケンは呟いた。

 そして、懐から赤い石を取り出す。


 ――しまった。


 俺の焦りは半瞬遅かった。

 足元で弾けたその石は、俺を包み込む。


◆◆◆


「初めまして。マキト君」


「誰だ? ここはどこだ?」


 俺は辺りを確認した。

 どこかの書斎のようで壁一面に本棚がある。

 しかし、本のほとんどは床に散らばっていた。


「私はリュートと言います。

 あなた達をこの世界に召喚したササラの兄、と言えば十分ですかね?」


 切れ長の目元に薄らと笑みを浮かべた男は俺をうれしそうに眺める。


「あぁ、十分だ。殺される前に俺を戻せ」


 俺はリュートの胸倉をつかんだ。

 しかし、男は笑顔を浮かべたままである。


「何を慌ててるんですか?

 落ち着いてください。

 あ、今どうなってるか見ます?」


 男が指で軽く合図すると壁がスクリーンのようになった。

 映し出されたのはユキネ達が必死にケン達に攻撃している様子である。

 しかし、当然のように相手にならない。

 唯一、トーソンだけは、ケンを相手になんとかなっている。

 しかし、防戦一方だ。

 と、直後、レットが炎弾に呑み込まれた。


「戻せ! 俺をあの場所に!」


「戻せって。

 あなた精神力バカあがりしてるんじゃないんですか?

 なんでそんなに慌ててるのですか?」


 何を言ってるんだ?


「あなたは、一つ勘違いをしています。

 精神力をいくらあげても、平常心や罪悪感に関係なんてありませんよ?」


「何を?」


「防御力を上げても痛みはあったでしょ。

 つまり、ステータスの精神力とあなたの考えている精神力は大違いなんです。

 あなたは元からそういう人間なんですよ」


 訳が分からない。


「そうでなければ、困る。

 そうだから、お呼びしたのですよ。

 この世界に」


「この世界に……呼んだ?」


「ええ、あの方々は『勇者』としての素質があり、私の妹がお呼びしました。

 あなたは、私が術式を捻って呼び出したのです」


「術式を捻って……?」


「ええ、あなた魔王になりませんか?」


 魔王だと……

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