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65:死地への駄賃

 戦闘開始ののろしを上げたのはカーラであった。

 超巨大な火炎弾を敵集団のど真ん中に打ち込んだのである。

 爆音と共に地面が大きく揺れ兵士たちが吹き飛ぶ。


 ついで、前線から突出した兵にユキネが矢を撃ち込んでいく。

 その正確な射撃は一撃で兵士を沈黙させた。


「ひるむな! 敵は少数だ!!」


 敵の進行がわずかながらに遅くなる。

 それを敵の指揮官らしき男が鼓舞するように叫んだ。

 兵士達が前へと足を進めようとする。


 そこへ、俺とトーソンが食らいついた。

 先に到達したのはトーソンである。

 巨大な槍を持ったまま軽々と兵士たちの頭上を飛び越え、そしてそのど真ん中に飛び込んだのだ。


「お、お……オークだぁぁぁぁ!!」


 トーソンの槍が無遠慮に横なぎに振るわれる。

 そこにいた者は平等に半円状に弾き飛ばされた。

 叫び声と喚き声が響き渡る。


 ――俺、いらないんじゃないかな……


 などと思っていたが兵士からしたら俺が一番の的だったらしい。

 敵が俺目がけて殺到してくる。

 そら、遠距離から魔術や矢を射かけてくる奴らや、筋肉ムキムキの化け物を相手にするよりかはマシに見えるだろうしな。


 一番最初に突っかかってきたのは、やけに派手な兜を付けた兵士だった。

 頭上から槍が叩き付けられる。

 しかし、それよりも速く相手の懐に潜り込んだ。

 男の顔が歪む。

 俺がその勢いのままに拳を叩き込んだせいだ。

 しかし、男は倒れない。


 槍を手放すと、腰の剣に手を伸ばした。

 俺は、叩き付けた拳を引くと即座にその場で独楽のように回転する。

 抜きざまに斬り上げられた剣筋が俺のそばを通り抜けていった。


 「見えていたのか」男の口がそう動く。

 しかし、それへの答えの代わりに回転を生かして回し蹴りよろしく(かかと)(へそ)の辺りに叩き込んだ。

 次こそ男は、後ろから来ていた兵士を巻き込みながら吹き飛ぶ。


「隊長!! た……隊長がやられたぞ!!」

「こ、こいつも化け物じゃねぇか……」

「ふざけるな!! 商国への圧力だって聞いてたんだぞ!」


 なるほど、兵士たちは物見遊山気分で集められていたのだろう。

 可哀そうに。かわいそうに。

 目の前の惨劇のせいか、兵士たちには明らかに動揺が走っていた。

 足が止まり、俺達の前にいるのは後ろに押されていやいや出てきたような感じの者たちになってきている。

 あと一手で四分五裂に、散り散りに逃げ出すだろう。

 そう思った瞬間に、軍の後ろから声が響いた。


「退くな! 退いたものは、不名誉の名の下、私が殺す!!」


 どうやら、この軍の指揮官らしい。

 全軍に一瞬動揺が走った。明らかに恐怖の匂いだ。

 しかし、次の瞬間、兵士たちの目に血が走る。


「今の声の奴は、前にもやったことあるぞ。

 じゃなきゃ、こいつらが本気になる理由がない」


 いつの間にか横に並んでいたトーソンが俺に笑って話しかけてくる。

 どうやら、俺が押し込んだ前線がトーソンに届いたようだ。


「だからヒトはバカなのだ。

 恐怖は生きるために使うものなのに、こいつらは死地への駄賃にする。

 獣でも恐怖を感じたら一目散に逃げるのにな」


 恐怖に打ち勝つ勇気、といった考え方は野生にはないのだろうか。

 まぁ、確かにこの場合、勇気というよりも蛮勇という方があっているのだろうが。

 蛮勇である証明のようにトーソンは大きく吠えた。


「向かってこい!! (みなごろ)す!!」


 決定的に俺、今蛮族ズの一員よね。


 叩き込まれ、突き込まれ、差し込まれ、射込まれ。

 叩き込み、突き込み、差し込み、殴りぬく。


 足元が地面なのか、それとも野戦病棟なのかわからなくなってくる。

 いい加減、退けよ。

 俺がそう思った時、遠くからでかい飛行物体がやってきた。

 う~ん、どこかで見たことあるシルエット……


「竜……竜だ!!!」


 マジかよ……

 俺の感想とは裏腹に、兵士達に興奮のような感情が見える。


「皆さん! 退いてください!!

 あとは私達がやります!!」


 恐ろしいほどに通った声が響く。

 どこかで聞いたことある男の声だ。

 どこだったっけな……


「勇者だ!! 勇者が来たぞ!!」

「勝ったぞ!!」


 うおぉーーーと歓喜の声が連鎖していく。

 とりあえず、これで終わりだろうか。

 トーソンがつまらなそうに上を眺めている。

 いや、違うな。あれは獲物を見定めた目だ。


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