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64:オーク並み

 商国から逃げ出したギャロン達が乗っている馬車を追っていた俺は、奇妙なことに気が付いた。

 ギャロン達を護衛していた男達が、どうも帝国兵臭いのだ。


「お前ら……帝国兵か?」


「答えられるか」


 馬車の中で退治していた男は、俺に剣を突きつけたままで動かない。

 どうやら、外で護衛していた人間とは質が違うように見える。

 そういう荒事が得意というように見えない。

 実際、その手は震えていた。


 傭兵やそれに類する人間であればこのようなことはないような気がするし、いよいよ帝国兵疑惑が高まる。

 しかし、これ以上ここで問答を続ける暇はない。


「邪魔だ」


 俺は、男の腕を絡め捕るとそのまま外に放りだす。

 そして、その行く末など見ることもせずに最後の馬車に視線を移した。

 御者が必死に馬を走らせている。

 それを命令する声には聞き覚えがあった。


「ログルート!!」


 俺は、その馬車に糸を飛ばす。

 先に糸が付くのと同時にそれを使って跳躍し、飛び移った。

 匂いがする。ユキネだ。

 俺は、屋根に乗ったままで馬に【調教】を発動した。


「な、おい! 止まるな!! 言うことを聞け」


 御者が必死に叫んでいる。

 しかし、申し訳ないがこれ以上進めるわけにはいかない。

 馬を操る御者台と、人が乗っている荷台の付け根を糸で切断する。

 それと同時に馬に遠くまで走るように命令をかけた。


 バランスを失った荷台はそれでも、バランスを崩すことなく制止した。

 それを取り囲むように残った護衛達が取り囲む。


 しかし、俺はそれを無視して荷車の屋根を切り取った。

 中には、後ろ手に縛られ、口に布を噛まされたユキネが見える。

 ログルートは、慌てたようにそのユキネにナイフを突きつけた。

 恐ろしいほどにその光景が鮮明に映る。

 俺の耳にクリアな音質でログルートが素敵な言葉を届けてくれた。


「そこを退()け!! 今なら見逃してやる!!」


「見逃してやる? 見逃す? 誰がだ? 誰をだ?」


「はぁ?」


「俺はお前らの慣例に倣ったつもりだ。

 慣れない交渉事も何もかも、お前達の流儀に従ってやった。

 なのにだ。これがお前たちのやり方か? 最後のメソッドか?

 なら俺ももう一度その(・・)手段に乗ってやる

 俺がわざわざお前たちのスタイルに乗ってやったということを思い出させてやる」


 俺は、ぐるりと辺りを見渡した。


「誰一人だ。唯一のたったのただ1人も。この場から見逃さん」


 次の瞬間、護衛の1人の頭にナイフが突き立った。

 そして、炎弾が降注ぐ。

 轟音が響き渡り、護衛の半数が消えた。

 護衛達が慌てて態勢を整えようと声をかける。

 しかし、そこに槍を構えた緑銅色のオークが突っ込んだ。

 叫ぶ暇もなく、護衛達は崩れ落ちた。

 俺が視線を移すと、こちらに寄ってくる影。

 レットとカーラ、そしてトーソンだ。


「やっと追いついた。マキト、お前暴れすぎ」


「おい、逃げるぞ」


「え、いや、俺たった今啖呵切ったばっかりなんだけど……」


「バカ! こいつらの目的は帝国兵との合流だ。

 商国に反乱の疑いあり、という偽報を流しやがった」


「信じた根拠は?」


「信じてはいない。

 しかし、帝国議会はドランザが単独で動かした私兵を止めなかった……」


「なんでだよ!!」


 カーラはユキネに肩を貸して立たせる。

 ユキネは、どこか痛めているのか顔をしかめた。

 カーラは応急処置的に魔法でユキネを癒しながら口を開く。


「反乱を起こす気なら抑止力になるし、もし、そのまま制圧できれば……

 それはそれで良しということよ」


 血なまぐさい奴らばかりじゃねぇか。

 胸のムカつきを吐き出すように唾を吐き捨てた瞬間、地面が大きく揺れた。


「俺じゃねぇぞ……」


 次いで、地平の彼方に土煙が立ち上がっている。

 どうやら、そのドランザの私兵とやらだろう。


「見てみなさいよ、あなたの短気のせいよ。

 まったく、ユキネのことになると見境なくなるんだから。

 悪い癖ね。よく似てるわ」


 カーラが呆れたように首を横に振った。

 失礼な奴だ、俺はもう少し考えてる。

 とりあえず、どうするかな。


「逃げきれるか?」


 俺の言葉にトーソンが鼻を鳴らす。


「俺はお前たちほど足は速くない。特に逃げ足はな」


「トーソンさん、どうして来てくれたんですか?


「ん? 何でって……

 お前にいなくなられるとうちの娘たちの機嫌が悪くなる」


「私も、トーソンさんにいなくなられたら、娘さんたちに申し訳が立ちません。

 それに、いま商国にはエルフ(あの子たち)がいます」


「あらそう、まぁ、ユキネがするなら手伝うわよ」


 俺はレットと目を合わせた。

 同じ気持ちなのか、2人で大きくため息を吐く。


「何で、うちの女どもはオーク並みに気が強いんだよ……」


「マキト……あれもこれも全部お前のせいだ」


 俺はログルートを縛り上げると馬車の端に乗せた。

 生きてれば役に立つこともあるかもしれん。

 その辺が思いつく辺り、少しは頭が冷えたようだ。

 まぁ、死んでもかまわないけど。


「レットはユキネと一緒に戦場をかく乱してくれ」


 俺の言葉にレットとユキネがうなずいた。

 レットは乱戦ではそれほど力にはならない。

 しかし、戦況を見極める目は間違いない。

 レットは自分の乗っていた馬にユキネを引き上げた。


「カーラは遠距離からとにかく敵を減らすことを考えてくれ」


「わかったわ。巻き込まれても恨まないでよ」


 カーラはその小さい唇を大きくゆがませた。

 さてと、俺がトーソンを見ると同じように笑っている。


「俺に指図する気か?」


「欲しいのか?」


「くれてみろ。

 そっくりそのままケツに叩き込んでやる」


 何とも野蛮な。

 俺は、首を大きく回す。


「何人だろうな、あれ」


 俺は土煙の方を指さした。

 戦闘は見てとれる距離まで迫っている。


「100。……いや、500?」


「一人当たり100か。この前は何人で100と対峙したんだっけ?」


「安心しろ。俺が490で、お前たちに残りをくれてやる」


 俺の言葉にトーソンが真面目に答える。


「まぁ、今回は人間よ。それに、名誉も糞もない戦未満の戦場。

 50も削れば逃げていくわよ」


「なら1人10か」


「いや、俺、馬に乗ってんだから数に入れんなよ」


「レットさん、任せてください。

 マキトさんも……気を付けてください」


 ユキネが俺に向かって握りこぶしを固めた。

 俺はその手を軽く握る。温かい。


「よし、始めるか。EO商会(寄せ集め)大貴族(既得権益)の大喧嘩だ」

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