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63:化け物

 奇妙な嫌悪感。

 虫の知らせとでもいうのだろうか、心臓が異常なほどに跳ねている。


「ユキネはどこだ!!」


「どうしたの? マキト兄ちゃん」


 フウが俺の顔を見て驚いていた。

 吐き気がする。目の奥が熱を持っている。


「マキト! いるか!」


 レットが部屋に飛び込んできた。

 村から呼び出していたカーラも一緒のようである。


「どうした?」


「落ち着いて、よく聞け。

 ログルートとギャロンは商国の国庫からの麦の窃盗の罪で追われていたんだが、帝国へ逃げた。

 そして、そいつらがエルフを連れていたらしい」


 脊髄に氷柱を差し込まれたような感覚。

 目の前が赤く染まっていく。


「待ちなさい!」


 扉に手をかけた俺の袖をカーラが掴んだ。


「離せ」


 俺は反射的に使いそうになった【威圧】をギリギリで抑えると、最低限必要な言葉だけを口にする。

 それ以上は、別の事に脳の処理を回していた。


「3時間前なんだ。この街を出て行ったのが。

 ガザンの旦那に情報がたまたま上がった。

 そのエルフがユキネだとは断定されてない」


 俺の勘が、間違いなくユキネだと告げている。


「方向は帝国方面か?」


 カーラが俺の目を見て顔を引きつらせる。

 そして、ゆっくりと手を離した。


「あぁ、そうだ。マキト、今ガザンの旦那が――」


「――子供たちを頼む」


 俺は工房を飛び出すと、即座に城門へ向かって走り出した。

 門番が2人、俺を制止しようと立ち回る。

 しかし、俺は次こそ止められなかった。


退()け!」


 俺の【威圧】に身体を硬直させた門番の横を走り抜けた。


◆◆◆


 追いついたのは、陽が傾いてからであった。

 3台の馬車が、かなりのスピードで荒れた道を走っている。

 その周りには護衛だろうか、数十人がそれに随伴していた。

 相当、無理をさせられているのか馬の疲労が風に漂って俺の鼻をつく。

 と、護衛がそこでやっと気が付いたようだ。


「おい、なんだ……あれ」


「馬に追いつく気か」


 そうだよ。俺は一段階、速度を上げた。


「化け物か? 矢だ! 足を止めろ!!」


 俺に向かって矢が射かけられる。

 足だと言っているが馬上で狙いが付けられないのか、まともに俺に飛んでくる矢はない。

 幾本かはまぐれ当たり的に俺に向かってきたが、到達する前に叩き落とす。

 馬車の窓からギャロンが首を出した。


「止めろ! あの男を馬車に近づけるな!!」


 ギャロンの命令に護衛が動く。

 何か奇妙な違和感があったが、護衛達の半分が馬を反転させると俺に向かってきたので思考を断ち切った。

 護衛の男たちは、俺に向かって突撃してくると手に持った槍を叩き付けてくる。

 しかし、それよりも先に俺は空中へ跳躍していた。


「バカめが!」


 後追いの男たちが空中の俺に向かって槍を突きつけた。

 その槍を、這うようにきらめく細い繊維。

 俺の這わせた糸が、音もなく槍を細断する。

 そして、それを持っていた男たちも同様に血煙と成り果てる。


 ――ヒヒィィン!!


 突然、背中が軽くなったせいか。

 それとも、急に指示がなくなったからか。

 馬達が、大きくいなないた。


 俺は即座に馬に【調教】を発動。

 おとなしくなった馬に糸を仕掛けると馬を出鱈目に走らせた。

 馬の間にわたらせた糸が、その間にいた人間の頭と首を斬り飛ばしていく。

 そして、その糸が一台の馬車の車輪に絡まった。

 突然車輪が止まったせいか、馬車は一度大きく沈み込んで上に跳ね上がる。

 中から、ギャロンが滑り落ちた。


「貴様ぁぁぁぁ!!」


 ズドンと地面に叩き付けられたが、それでも気は失わなかったようだ。

 奇妙な方向へ曲がった左腕を抱えて、それでも俺の方を向いて何かを喚いている。

 が、それもその次にやってきた馬の(ひづめ)が顔面に叩き込まれて沈黙してしまった。


 残り二台。俺は即座に手近の馬車の屋根に飛び移った。

 その屋根の下から剣が生える。

 どうやら、俺を斬りつけようとやたら目ったらと刺しているらしい。

 俺はお返しに、拾った槍を屋根上から馬車に向かって突き刺した。

 突き立つ剣の量が減った。

 俺は、穴だらけになった屋根を糸で丸く斬りぬいて馬車内に侵入する。

 どうやら、こちらは護衛の男たちが乗り込んでいたらしい。

 狭い車内に剣を携えた男が4人いた。

 うち一人は腹から槍を生やして血を流している。


====

【実績が解除されました】 

●槍人

――古来、アルイック地方の人間は槍を使う人間を槍人(槍マン)と呼んで尊敬してきた。


【実績解除ボーナス】

槍術:槍を使うときにわずかに能力がアップする

====


「貴様! 何も――」


 叫びながら立ち上がろうとした男に向かって、俺は答える代わりに足裏を叩き込んだ。

 男は、口から赤いものをまき散らしながら車外に蹴りだされ、それに巻き込まれる形でもう一人が地面に叩き付けられた。

 そして、もう一人の男が狭い車内の中で無駄に華美な剣を構える。

 そこで、違和感の理由に気が付いた。


「お前ら……正規軍か? 帝国……か?」

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