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6:私こそ炎と鍛冶の神キュクロープスが地上に遣わしたドワーフ一族の末裔、ローニだ!

 うれしい誤算があった。

 ヤマキャロはどうやら二十日大根的な植物だったらしい。

 牛に耕させた畑に1つ植えたら種が10採れた。

 それを10植えたところ1週間程度でなんとか食べられるまで成長したのだ。

 サイズはそれほど大きくはないが、初めて安定して食べられるものが手に入った。

 ヤマキャロばかりでは困るが、現在イモやらなんやらごったに植えている。


 問題は、道具の損壊率だ。

 打ち捨てられた農具などの道具を使っているため強度がない。

 使っているうちに壊れるのは仕方ないにしても、それが速すぎる。

 牛にひかせたりと無理させてるので仕方ないのだが。


「どうしたんですか?」


 鳥を射落としていたユキネが俺に声をかける。


「いえ、あそこを住めるようにするにはもう少し何とかしないとなぁ、と」


「そうですねぇ、寝る所ももう少し何とかしてあげたいです。織機はあったので糸さえあれば布を作ってあげられるんですけど……」


 今は小屋にあった粗末な布をつぎはぎしながら使っている。


「糸ですか……」


「糸高いですからねぇ。作るとしても材料がないし……」


「糸ねぇ……あ、鳥だ」


 俺は、指から糸を発射し捕まえる。

 それを見てユキネが、あ、といって笑いだした。

 俺は首を傾げた後で、吹き出す。


「これ使えますかね?」


「どうなんでしょう。出してる人は使えると思います?」


「いや、なんともかんとも、やってみますかね」


 糸問題は解決したようだ。

 今後、糸を作る人として生きていくと思うと泣けてくるが。


「で、マキトさんは何を考えていたんですか?」


「道具です。鋤や鍬がもう数がありませんし……」


「それも困りましたね」


 はぁ、と二人してため息をついたところで、俺の鼻が異臭をとらえた。

 ユキネの耳もぴくぴくと動いている。

 それにしても、この匂いって……


「アルコールか?」


 その匂いの発生源はこちらへ近づいている。


「マキトさん、来ます!!」


 ユキネが叫ぶ。

 と、現れたのは赤い髪にどでかいハンマーを担いだ長身の女であった。

 その女は、ふらふらと歩いている。


 それにしても、でかいな。

 お尻も大きいし。


 などと観察していると、こっちを見つけるとニタァと笑いかけてきた。

 俺とユキネは構える。


「おい、少年たち、酒はないか?」


「酒?」


「あぁ、酒がなくなっちゃったんだ」


「いや、がっつり飲んでるじゃないですか……」


「いや、ないんだよ。お酒がないの! 私お酒がないとダメなのぉぉぉぉぉ!!!」


 バサバサと鳥が飛び立っていった。


「ダメです、この人ドワーフですよ。お酒大好きなドワーフです」


 ユキネが耳打ちをしてくれた。

 ドワーフって背が低いのかと思ってたが、そうでもないんだな。

 ん? ドワーフ?


「鍛冶とかできるんですか?」


「うん? 少年、よく聞いた! 私こそ炎と鍛冶の神キュクロープスが地上に遣わしたドワーフ一族の末裔、ローニだ! キュクロープス神の怨敵、バッカスを打ち倒してやるから酒もってこぉい!! うぇへへへへぇ」


 そういいながら俺に抱き着いてきた。

 でかい。当たってますよ、ローニさん。うぇっへっへ。


「ちょちょちょっと! 何やってるんですか!!」


 ユキネが俺とローニを引きはがす。


「どうします?」


「どうするもこうするも、捨てて帰るわけにはいかないし……」


 結局俺が背負って連れて帰ることになった。

 村について出迎えてくれたのはフウだった。


「兄ちゃん、お帰り~。ポチがこっちも耕してくれたよ」


「ポチ?」


「うん、いつまでも牛じゃかわいそうだから名前つけたの」


「あ、牛の名前ね……ポチ!?」


「それより、それなに?」


 フウが俺の背中を指さした。


「あ~ドワーフのローニさんだ」


「う~ん、ドワーフかぁ」


「ん? 嫌いなのか?」


「食べたことないからわかんない」


「食べないから!!」


◆◆◆


 翌日、ローニは目を覚ますと大量の水を欲しがったので、仕方なく瓶ごと渡す。


「くっそ、頭が痛い。バッカスめ、今度こそ退治してやる」


 そういいながら、瓶の水をすべて飲み干してしまった。

 その体のどこに入っていったのだろうか。


「ありがとう。君たちは誰だ? ここは……どこだ?」


「エルフのユキネです。この方は、ヒトですが私たちを助けてくれてるマキトさんです」


「エルフ? もっと森の奥に住んでるはずだろ。こんなところに居たらヒトにやられるぞ」


「えぇ」


 そういってユキネがさみしそうに笑った。


「そうか、そういえば噂でエルフの里が一つ潰れされたと聞いたが、そこの娘か。思い出させたようで、悪かったな」


 いえ、とユキネは相槌を打った。


「助けてもらった礼がしたい。何かできることはないか?」


「実はこちらからもお願いしようと思ってたんですが、道具が壊れてまして……」


「いいぞ、やってやろう。持ってこい」


 そういうと、頭を押さえながらふらふらと外へ出て行った。

 本当に大丈夫か?

 などという心配は杞憂であった。

 どこからか持ってきた木々を、いつの間にか作った簡易の炉で燃やし始める。

 そして、その火を使って金属製品をどんどんと打ち直していく。

 炎と鍛冶の神がうんぬんというのは、真っ赤な嘘というわけでもなさそうだ。


「酒が足りない……バッカスの陰謀か」


 バッカスについては真っ赤な嘘だと思うが。


「ところで、普通に使ったか? 壊れ方が奇妙なものがいくつかあるのだが」


 ローニは鋤を片手に首をかしげている。


「実は牛にひかせてまして……」


「牛に?」


 俺は、畑へと連れて行った。

 ちょうど、フウがポチを使って畑を深く耕しているところだった。


「ほお! 面白いことを考えたな!! あれなら子供だけで畑が作れる。お前か? 考えたのは」


「いや、昔ながらの知恵と言いますか……」


 先駆者の知恵である。ありがとう、ご先祖様。


「だとすると、ちょっと待て。あれでは強度が足りないはずだ」


 ローニは何か嬉しそうに地面に絵をかき始めた。

 どうやら図面の様だ。


「よし、待ってろ。あれ様の鋤を作ってやる」


 そういうと、飛んで火の方に戻っていった。


「悪い人じゃないみたいですね」


 心配そうだったユキネだったが、今はニコニコとしている。

 恐らく包丁を研ぎ直してもらったからだろう。

 でも、それ持ってうろうろするのはやめてください。


◇◇◇


 夜、ご飯を終えた子供たちは機織りに勤しんでいた。

 これも、ローニが直してくれたものだ。

 子供たちはほとんど遊び感覚だが、機織り自体は小さいころから学んでいるらしく上手に織っていっている。

 その横で俺は人間糸巻きとして指から糸を出し続けていた。

 気になったんだが、出しすぎたらなんかリスクとかないよな?


「ローニさん、もしよかったらここに住みませんか?」


 切り出したのはユキネであった。

 ローニは遊んでいたエルフの子供の頭をポフポフと叩きながらにこりと笑う。


「それはいい話だね。でも、しらふでするには詰まんない話だ」


 遠回しに断っているのだろう。

 酒がないことがかなり重要か。


「まぁ、でもまだ十日ぐらいはいるよ。それに、ちょくちょく顔を出すくらいはするから安心してくれ」


「それまでにはお酒、準備しておきます」


 ユキネはクスクスと笑う。


「ところで、族長ユキネはいいとして、少年マキト。君は何なんだ?」


「なんなんだというと、何のことで?」


「いや、君はこの村のためにいろいろやってるだろ? 族長ユキネの補佐、になるのか?」


「お手伝いだなんて! もったいなさすぎます! それにマキトさんはエルフではありませんし……」


 どうやら、役職の話の様だ。これだけの人数しかいないのでどうでもいい気がするのだが。


「ないのか…… ならば私が決めてあげよう。」


 ローニは首をひねる。


「村長か……書記長だな……」


 書記長!? 村長も微妙だけど書記長はやばいだろ!! 全然関係ないし!!


「う~む……やはり書記長の方が……」


「村長がいいです!!」


「何? しかし、書記長の方が……」


「村長マキトの方が……センスがいい!!」


 ローニの目が怪しく光ってうれしそうに子供の頭を撫でまわし始める。

 とりあえず、書記長マキト爆誕は免れたようだ。

 と、ユキネが俺に近寄ってきた。


「えっと、村長さん、これからもよろしくお願いしますね」


 そういって、ユキネが耳打ちしてきた。

 まぁ、喜んでくれてるみたいだし。いいか。


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