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57:助ケテクサイー

 小麦の相場ズリ下げ大作戦は順調に進んでいた。

 現在、以前の7割ほどになっている。

 そうなってくると困るのが、小麦の卸売業だ。

 そして、この国では、ギャロンたった一人が大損をこいている最中である。


 そんなギャロンに俺は一つの話を持ってきた。


「本当に買い取ってくれるのか?

 この額で?」


「ええ、ギャロン様がオークのせいで損をしてると伺ったもので」


 俺の言葉にギャロンは噴火寸前のように顔を真っ赤にする。

 そして、ユキネを指さしてそれが弾けた。


「何がオークのせいだ!

 貴様達エルフのせいだろうが!!

 オークと組んで売ってるあのイモのせいだ!!

 貴様ら蛮族どもは物の適正価格というものを分かってない!

 長い時間をかけて社会が作り上げた神聖ために必要なものを

 ズカズカと土足で踏み荒らしよって!!」


 麦で作ったパンの半額以下。

 それが、俺達EO商会で売り出したイモ餅の値段だ。

 最初は、貧乏人御用達といった感じだったが、いまでは普通に市民が食べるようになっていた。

 その結果麦余りが起こり値段が下がったのである。


「いえいえ、私達もあのオークに脅されてやっているんです。

 なあ、ユキネ」


「ソーテスー。ぎゃろん様ー、助ケテクサイー」


「ほら」


「ほらって。脅されてるってより、読み上げているようだったが……」


 それにしても、手篭めにされかけたギャロンに対してユキネがさっぱりしているので驚いた。

 逆を言えば、あの時のユキネはそれだけギリギリだったのかもしれない。

 もしくは、子供たちのためならというユキネの悪癖が出ているのかもしれない。


 連れてくるのを渋った俺を、絶対に役に立つからと言い張ったので連れてきた。

 そして、確かにユキネがいたからここまで来られたと言っても過言ではない。


 疑いの視線をユキネに送るギャロンを余所にユキネは、自分の演技に満足したのか、少しほっとしている。

 まあ、なんにせよ、次こんなことがある時は連れてくるのはフウにしよう。


「そんなことより、どうしますか?

 私達はあのオークに一矢報いたいと思いこのような話を持ってきましたが、

 受け入れられない、というなら仕方ありません」


 そう言って、ギャロンの持っている書面に手をかけた。

 しかし、その書面をギャロンは離そうとしない。

 俺達の事を疑っているのだ。

 だから、そのリスクを負っても惜しくない金額を、俺はその書類に記載した。

 ギャロンは、苦虫をかみつぶしたように眉間に皺をよせる。


「分かっ……た……」


「うん? 何か言いました?」


「分かったと言ったんだ!! 糞ガキめ!!」


◆◆◆


 ギャロン邸宅を出ると、目の前に赤で塗られた豪華な造りの馬車が止まる。

 そして、その目が覚めるような赤い馬車から、一人の女性が降りてきた。

 その細腕には、似合わない安定感でフェイが抱きかかえられている。


「マキト様、よくお目にかかりますわね。

 そして、ユキネ様。初めまして。

 スカーレット商会のフェイト申しますわ」


「初めまして、えっと……ユキネです。

 マキトさんからお名前は伺っています」


「あら、うれしいわ。と、いけない。

 高いところからご挨拶なんてはしたない真似を」


 そういって車椅子に乗り込む。

 そして、さも世間話のような口調で質問をしてきた。


「ご無事に商談はまとまりましたか?」


 なんとも挑戦的な視線だ。

 幼気な服装と挑発的なボディが相変わらずミスマッチである。

 その空気に飲まれるわけにもいかない。


「ええ。おかげさまで」


「不思議ね。麦を売る質問をしたあなたが、麦を買うだなんて」


 何で知ってんだ?

 今回、ギャロンとの会談をまとめたのはレットだ。

 レットが情報を流したのか……

 それにしちゃあ、お粗末すぎる。


 カマをかけた、といった風でもない。

 ギャロン側にフェイかその父親の手の者がいるのだろう。

 俺は、気にしていないように微笑んで見せた。


「エルフの子供にお菓子でも作ってやろうかと」


「あら、ご馳走になりたいですわ。

 (わたくし)の妹もお菓子に目がなくて。

 それに、私自身もお菓子作りが趣味なんですの」


 フフフッとフェイ笑うがその目は一切油断がない。

 そして、その瞳に色が浮かんだ。


「それにしては量が多いような気がしますわ。

 少しずつ少しずつ、本当に少しずつ市場からも買っていますわね?

 何をなさっていて?」


 商人は地獄耳。

 俺は曖昧に頷く。


「ついでに、街の素敵なパン屋さんでも開こうかなって」


「あらそうでしたの。それは楽しみですわ。

 私、パン作りにも一家言ありますのよ」


「伊達にレストランを経営していないってことですね」


「そういうことですわ」


 フェイはそういうと「それでは」と言い邸宅に入っていった。

 それを見計らってレットが現れる。


「おいおい、俺はフェイの所と事を起こすために紹介したわけじゃないんだぜ?」


「俺だってそのつもりだよ」


 はぁと俺は長く息を吐き出した。


「大丈夫ですか?」


 ユキネが心配そうにのぞき込んできた。

 その優しさが胸に染み渡る。


「ありがとう。大丈夫だ」


 心配なのは、フェイが何をしに来たのか、その一点だけだった。

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