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52:ぷるぷるぷるん

 斬れず殴れず。

 こんな敵をどうやって倒せばいいのか。

 俺が自身のスキルをもう一度確認していると、【魔眼:振動増幅】に気がついた。

 振動が増幅……つまり、熱を発生させられる。

 俺は、即座にスキルを発動。


 キンと、発動した瞬間脳内に音が響き、次の瞬間ジュワっと音を上げてシャンブラーが燃え上がる。

 やったか!

 しかし、次の瞬間にはその部分を切り離して襲い掛かってきた。

 魔眼の範囲が狭いのか、スキルを使い慣れてないせいか……


 仕方ないので、熱を与える方法を別の手段に切り替える。

 距離を取ると、今度は近くの巨大な岩を泉に放り込んだ。

 飛沫がシャンブラーにかかるとその部分がドロリと溶ける。

 そして、戻る様子はない。

 これでも行けるのか……

 高温、と言っても100℃以下で十分死ぬようだ。


 と、俺の意図に気が付いたのか、シャンブラーの攻撃が激しくなった。

 完全に俺のことを敵と認識しているらしい。

 いったい、どこの器官で認識し、判断しているのだろうか。

 いつか調べてみたいが、そんな時間はないようだ。


 岩をもう一度泉に投げ込む余裕がなくなった。

 カーラでも連れてきて炎系の魔法をぶちこませれば早いんだろうが、できないことを悩んでも仕方ない。


 俺は、再度布を編み上げる。

 今度も先ほどのことを忘れたかのように、いや、先ほどよりも二の轍を思いっきり踏むかのように網目が大きい布を編み上げる。

 しかし、その広さや重さは先ほどの比ではない。


 全体を覆われたシャンブラーの攻撃が一瞬だけ収まる。

 岩を取りに行く余裕がないこともないが、すでに隙間から俺を狙ってシャンブラーの身体が浸透を始めていた。

 もしも、岩を取りに行けば足を絡め捕られていたかもしれないが、俺の狙いはそれではない。


「これ使いすぎたら目がぶっ壊れるとかないよね」

 

 俺は、今度は布を狙って【魔眼:増幅】を発動。

 布がボオッと音を立てて燃え上がった。

 シャンブラーは炎から逃れようと身をよじるが、俺を攻撃しようと布に身体を浸透させていたせいでうまく取れない。


 ギィギィと燃え上がる音を何かの叫び声の様に上げながらその身が燃え落ちていく。

 そして、最後には灰となり消え失せた。

 俺は、未だにブスブスと(くすぶ)っている地面を【闇箱】ですくってみる。

 どうやら、シャンブラーはもういないようだ。


====

【実績が解除されました】 

粘液系生物(スライム)の撃破

 ――ぷるぷるぷるん


【実績解除ボーナス】

癒着:肉体の欠損部位を同種族の肉体に限って結合する


【特定スキル取得によるスキル解放】

治癒+頑丈+癒着

再生:治癒能力上昇の上で、肉体の欠損部位が再生する。ただし再生には栄養摂取並びに充分な休息が必要

====


 再生って……いつか腕が八本とか生えてこないよな? 怖い。

 俺は、スキルに対して突っ込みを入れながら自分の袖口の匂いをかいだ。

 どうにも甘ったるい匂いが染みついている。

 毒気は無いようだが気分が悪い。


「早く帰って風呂入ろ……」


 俺はシャンブラーがいたあたりの土を泉に落とし込んでいると、足元で何かが動いた。


「いえい!

 お、兄ちゃんあのバケモン倒したんか?

 やるやんけ」


「まあな」


「ホンマに毒効かんのやな。

 たぶん、初めてちゃうか?

 真っ正面からシャンブラーを倒したのは」


「どうだろうな」


「で、今は何をしとんねん」


「殺菌だよ」


「殺菌?」


 山一つが、一体のキノコの菌糸に覆われていた。

 何てことを聞いたことがある。

 幼体らしいので、山一つ、ということは無いだろう。

 しかし、土の中に菌糸が残っている可能性もあるので、土を熱湯に落としているのだ。

 手伝え、と言いたいがその小さい身体には不可能だろう。

 俺は、手を動かしながら口を開いた。


「お前こそ、ホントに復活するのかよ」


「せやで。尊敬したならハム様と呼んでもええで」


 俺は、手を動かしながら、足でハム様を泉に叩き込んだ。


◆◆◆


 帰ってきた俺を、ユキネや子供達は嬉しそうに迎えてくれた。

 代わりにカーラとレットは、その目を大きく見開く。

 そして、食堂に入ると2人はいすに座って、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


「ありえないわ……

 どうやったら、そんなことできるのよ」


「近づいて燃やすのがコツだな」


「普通それができないんだよ……

 毒で近づけないんだから」


「なら、毒が届かない遠くから炎をかけろ。

 炎系の魔法でもしこたまぶちこめ。

 そうすりゃ、退治()できる」


「シャンブラーに毒の山にされるよりはマシって解決方法ね……」


「ドラゴンに攻め込まれるようなもんだけどな」


 2人は合わせたように眉間の皺を揉み込んだ。


「まぁまぁ、終わったことですから。ご飯にしましょ!

 お肉もらいましたから!」


 俺の視線の先にはニコニコと笑顔を浮かべる悪来族(オーク)のイチカがいた。

 その横ではフウが肉を抱えて小躍りしている。

 オークはフウと仲のいいミツミなど妹達も揃って来ているようだ。

 口々にお帰りと言ってくれている。


 相変わらず、うちから野菜や料理を持って行ってるのだが、そのお返しに来てくれたのだろう。

 それに、最近ではフウと仲のいいミツミだけではなく、その他の妹たちも遊びに来るようになっていた。

 カーラは他種族と交わることがないと言っていたが、恐らくは警戒心が強いだけなのだろう。

 俺は、ぴょんぴょんと跳ねるフウを見ながら別の疑問がよぎった。


「今ふと思ったこと聞くんだけどさ。

 これ、ヒトとかエルフの肉じゃないよな……」


「え゛」


 フウは肉を頭の上で掲げたままで固まった。

 それを見てイチカはふふふと笑う。


「大丈夫よ。ただのシカのお肉だから。

 私達オークは会話できる生物は食べてはダメなの」


 ゴブリンは……聞くのが怖いな。

 いや、他種族の文化をとやかく言うのは失礼だな。

 食べたくないならこっちが気を付ければいいだけだ。


「ところでさ、イチカさん」


「どうしたの?」


 イチカやその妹たちは最近よく遊びに来るので問題ない。

 全員がそろっているのは初めてだが、それこそ”珍しい”で済む話である。


 しかし、”珍しい”では済ますことができないことがあった。

 俺は一体の獣じみた生命体を指さす。

 その生物は床が抜けるのではないかという勢いで貧乏ゆすりをしながら、俺をにらみつけていた。


「なんでトーソン(お父さん)はあんなにぶち切れでここにいらっしゃるの?」

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