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51:詐欺だ!!

「くっさいなぁ。このキノコ……

 ってか、キノコっていうのか? これ」


 恐らく、この世界の住人はジメジメした環境に住み着くよくわからない生物をキノコとでも呼んでいるのだろう。

 しかし、恐らく粘菌とかに近い生物なんだと思う。


 その腐れ茸(シャンブラー)が泉から数メートル離れたところに集まっていた。

 広さにして畳一畳分くらいで、厚みも畳くらいである。

 わずかに緑がかった表面がウネウネとうねっていて気味が悪い。

 俺の肩に乗っていたハムが俺に声をかける。


「で、どうするんや?」


「俺の秘密兵器を投入する」


 そういって、【闇箱】を発生させる。

 そして、それをシャンブラーの方へ移動させた。


「なんや? それ」


「触れるもの皆飲み込んじゃう、吸引力の落ちないただ一つの最終兵器です」


 ゴブリンも、奴隷狩りも、ドラゴンもついでにトーソンも最初からこうすればよかったのだ。

 キッタハッタが不要になれば、みんなハッp――あれ?


「なんや? 何も起きんやんけ」


 【闇箱】がシャンブラーに触れた瞬間に弾かれてしまった。

 おかしい、もう一度飲み込ませようとするが同じように弾かれる。


「……もしかして、生きてると飲み込めない?」


 嘘だろ?

 植物はいけたからいけると思ったのに!!


 と、シャンブラーがずるりと動いた。

 明らかな意思を持った動きで、俺の方へ鎌首をもたげた蛇のように襲い掛かってきた。


「くっそ!!」


 身体から伸びた見た目よりも素早い動きで振るわれる触手を右左と躱す。

 それに合わせてあの甘ったるい匂いが辺り一面に広がった。


「あ、ワイあかん。ほな」


 肩からぽとりとハムが落ちた。

 どうやら、あの匂いこそが毒の正体の様である。

 ハムが身をもって教えてくれたのだ、ありがとう。

 心の中で瞬間的な感謝と毒への耐性が確定したことを安堵するが、即座に思考を切り替える。


 俺は糸でシャンブラーの触手を音もなく両断した。

 しかし、その触手はすぐに元の形を取り戻すと、また、襲い掛かってくる。

 襲い掛かる触手を叩き切ると、今度はそのまま本体まで糸を伸ばした。

 そして、全身を粉みじんになるまで切り刻む。

 どこかに、核があると予想したからだ。


 が、しかし、手ごたえなし。

 斬ったそばから再生していく。

 核なんてものは見当たらない。


「嘘だろ?

 スライムっぽい魔物の弱点っつったらコアが相場じゃん!!

 詐欺だ!!」


 切断は無意味、即座に布を織りあげると、俺は眼前に展開した。

 ただの時間稼ぎである、

 ドスドスっと布に当たるが、俺の糸の硬度は伊達じゃない。

 何度当たったところで破れることは――


「マジで!?」


 慌てて編み上げたせいか、糸と糸の隙間にはわずかながらに隙間がある。

 その隙間から染み込むように、シャンブラーが通過してきたのだ。

 俺の右目を狙ってきた一撃を、独楽の要領で回転し避ける。

 そして布ごと吹き飛ばして、そのまま後方へ飛び退()く。


「再生する敵ってのがここまで厄介だとは……」


 斬ったところで再生する敵をどうやって倒すか。


 ならばあれを殴る?

 何が起こるかわからない以上お断りだ。

 俺はユキネのためにも無事で戻らなければならない。

 だいたい、効くとも思えないし。


 ならばあの村をあきらめる?

 脳内の最終手段を俺は全力で否定した。

 まだ、俺の全てを出し切ってない。


 【調教】無駄、【威圧】役に立たず。


 俺はもう一度、シャンブラーを注視した。

 先ほどより、移動していて、サイズも大きくなった気がする。

 どうやら、地面に沈み込んでいた分が盛り上がっているようだ。


 しかし、大きくなった割りには違和感がある。

 なぜか、泉の方への浸食が弱いのだ。

 というよりも、全く泉の方に行きたがらない。

 塩分が苦手? 植物に近いから?

 いや、この森は塩豆が群生するくらいに塩分過多だ。

 となると……熱が苦手なのか?


 俺は、自信を鑑定し直す。

 何かいいものがあった気が……

 そして、ドラゴン退治の時に手に入れていた【魔眼:振動増幅】に目が止まった。


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