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5:ツイテナイ

「兄ちゃん…… ホントこれ役に立つの?」


「わからん、わからんけど我々は生き延びねばならんのだよ。フウ」


 そういって俺は、フウと一緒に畑を作っていた。

 現在、エルフが15人と俺1人で合わせて16人いる。

 水は残っていた(かめ)をごしごしと洗い、俺が定期的に組みに行っている。

 しかし、その水も2日もすればなくなってしまう。

 水汲みは俺の能力を使えばいいので問題はないのだが、俺がいない間に何かあった場合が危険だ。


 食事の方も、俺とユキネが1日分を取ってくるので精いっぱいである。

 イノシシのように大物が獲れたとしても、収穫量が少ない日に消費してしまうので、ためておくことは不可能だ。

 冬になってしまった時のことを考えるとできるだけ食料の備蓄が欲しい。

 かといって、いまエルフの子たちを採取や狩猟に行かせるのは危険すぎる。

 せめて何か武器が欲しい。


 そして、ユキネ曰く、冬の寒さ対策も必要だという。

 衣類や、寝床、薪なども考える必要があるそうだ。

 頭が痛い。

 こんなに考えることって今まであったっけ。


「兄ちゃん、手が痛い。腰が痛い。どこもかしこも痛い。僕も水浴び行きたい」


「わかってる、あとで連れて行ってやるから、手を動かせ、手を」


 確かにフウの、どうにも細い指と、白いつるつるとした肌、細っこい肉付きでは畑での肉体労働が向いている感じではない。のだが、致し方あるまい。

 子供たちにも頑張って覚えてもらうしか生きる道がないのだから。

 だいたい鍬を振るうにしても上っ面をさっさっとなでているくらいなもので、でかい石や木の根っこなどを排除しているのは俺なのだ。

 ちったぁ、黙ってやらんかい。


「兄ちゃんって何歳?」


 あ~だのう~だの疲労感を表したり、文句を言っていたフウがあきらめたかのように黙って鍬を振るっていたのだが、突如として疑問に切り替わった。


「17歳だ」


「あっそ。何でそんな変な服着てるの?」


 俺は召喚時から身に着けている黒い学生服を見渡した。

 たったの数日であちこちが汚れている。

 しかし、それを差し引いたとしても、そこまで言われる筋合いはない。


「さる高貴なお方が下さった由緒正しい正装だぞ、これ」


「うっそだぁ」


「ホントだっての。嘘だけど。お前は何歳なんだ?」


「僕はじゅう……10歳?」


「いや知らない。そういえば、ユキネさんは何歳なんだ?」


「ユキねぇはねぇ、54歳!!」


「なにぃ!?」


 と、背後の空気がピシッと冷たくなった気がした。


「フウ? バカなこと言うのやめてくれる?」


「ゆ、ユキねぇ!?」


「マキトさんも信じてませんでした?」


「滅相もございませんです」


 実際は、俺達の世界だとエルフは長命だとかで、一瞬そうなのかと信じてしまったが内緒にしておこう。

 今日のご飯を減らされても困る。


「はぁ、代わりますから、水浴びに行ってください」


 やったぜ! とフウはいの一番に鍬を放り出して俺のところに来た。

 はぁ、とため息をつきながら頭をポフポフとなでてやると猫のように目を細める。


「あの、女の子もいますからその……」


「安心してください。別に興味ありませんから」


 連れて行くのは5歳とか6歳とかの小さな子たちだ。

 なんのうろたえる理由もない。

 もう、完全にお父さんの気持ちである。


「フウも気を付けてね。あなたも14歳なんだから」


「大丈夫だよ、ユキねぇ心配しすぎだよ」


「あの……ところで……ユキネさんって何歳でして?」


「37歳です」


「はぁ……」


 ……


「信じてませんか? 私あなたと同じ歳なんですけど……」


 ゆきねさんじゅうななさい。


「信じてませんよ! えぇえぇ、そんなわけはないと思ってましたから!!」


◆◆◆


 小川へ行くのは5人だ。

 子供たちというのはあっちへ走りこっちへ走りと、ふらふらとしている。

 が、フウが上手にあしらってくれるので非常に助かる。

 うまいこと丸め込んで木の実などを拾わせる手腕はなかなかのものだ。


「エルフ族はみんなが家族みたいなもんだからね」


 そういって屈託なく笑っていた。

 そんな笑顔を見ながら考えるのは、村の存続におけるバランスである。

 現時点で、やはり俺とユキネに比重が大きい。

 できれば、フウ辺りが戦力になってくれれば非常に助かるのだが……


 そう思って弓を使えるか聞いたところ、引ける弓がまだないのだそうだ。

 弱い弓であれば引けるが、そうすると確実性や安全性が考慮できない。

 もう少し成長してもらうまで待つしかないのだろうか。


 それまで持ちこたえられれば……ということだが。

 持たないとしたら、奴隷に身を落としてでも生き残る方がいいのだろうか……


「兄ちゃんってなんでいつも眉間(ここ)にしわ寄せてんの?」


「あ? 寄ってた?」


「うん、こんな風に」


 そういってからかうように指で変な顔をしてみせる。

 そうだ、この笑顔をユキネは守りたかったのだ。

 絶対に守り切って見せる。


「あ、着いたね。よし、ガキども! 服を脱いで川に突っ込めぇぇぇぇ!!」


 フウが子供たちに指示を出すと、子供たちはそれに従い、わぁぁ~っと走って行ってしまった。


「兄ちゃんも入る?」


「う~ん…… いや、俺はいい。入ってきてくれ」


 俺は少し悩んだが、もしものことを考えて入るのをやめた。

 あとで一人で入りにこよう。

 そして、闇箱から針を取り出す。

 裁縫用らしい針を強引に曲げて作った即席の釣り針だ。

 餌はその辺にいた虫を使うことにする。

 竿の方はそこら辺の枝を使い、糸だけは使いたい放題だ。

 釣れるかな……


「兄ちゃんは遊びが足りないなぁ。まぁ、いいか。んじゃ、僕も入ってくるわ」


 そういって、フウは服を脱いだ。

 うん? あれ? ツイテナイ?


「フウ…… フウちゃん? ツイテナイ?」


「ついてない? 何が?」


「フウちゃん……女の子?」


「うん、じゃぁ浴びてくるから待っててね」


 気を付けろってこのことか!!

 がっちりばっきりと見てしまった。

 説明はン拒否するゥ。


====

【実績が解除されました】 

● 伸びた針

――釣れるも八卦。釣れぬも八卦。


【実績解除ボーナス】

太公望:釣れる時は釣れるが、釣れない時はとことん釣れなくなる

====


◇◇◇


 釣果小魚3匹。

 フウが全員の身体を適当に拭いた後で帰路についた。

 まだ、陽は高いので作業を進めたいところだ。

 ヤマキャロとかいうニンジンを植えてしまいたい。

 さらに、子供たちが手に入れたイモやらなんやらを適当に植えてどうなるか調べなくてはいけない。

 本当は狩猟に出たかったが、今日の所は木のみとかで我慢するか、と思っていたところでふと鼻を衝く野生の匂い。


「止まれ」


 フウもそこで耳をぴくぴくとさせ始めた。


「これは……やばいかもよ、兄ちゃん」


「何がだ?」


「この鳴き声は、毛長牛(ウィードブル)だ…… 山の暴れん坊だよ」


 それは確かに牛のようであった。

 俺の知っている牛より毛が長い。

 俺は、フウに子供たちを預ける。


「兄ちゃんはどうするの? あれ今日のご飯?」


「いや、どちらかと言えば、ご飯の種」


 慎重に牛に近づくと後ろから牛の首に糸を巻き付けた。

 切断しないように太さを調整し、さらに各指から何本も出してロープのようになったそれは、牛の喉元に食い込む。

 苦しくなったのか、それとも驚いただけなのか。

 牛が暴れ始めたが、俺はその背に乗ると覚えたスキルを発動する。


【調教:理性の薄い生命体を調教することができる】


 体を震わせ、背中の俺を振るい落とそうとしていた牛がだんだんとおとなしくなっていく。

 どうどうと、喉のあたりを何度もたたいていると、完全に動きを止めた。

 そして、何事もないかのように下草を食べ始める。


「おおおお!! 兄ちゃんすげぇ!!」


 子供たちが牛にじわじわと寄ってくる。

 そして、指先でチョンと触っては逃げていく。


「乗ってもいいぞ。振り落としはしない……はずだ」


 ケンカになった挙句、フウを含め子供たち全員が器用にウィードブルの上に載ってしまった。

 しかし、さすがは牛というべきか、そんなこと何の荷にもなっていないように村まで歩いてくれた。


「な、どうしたんですか!? なんでウィードブルを連れて?」


「飼うんですよ!」


 そういって、屋根のない元倉庫まで連れていくと、ロープを結わえ付ける。


「飼うって、飼ってどうするんですか? 食べる?」


 狩猟民族は、獲物→食事と直結しているようだ。

 まぁまぁ、と俺は鋤を適当にロープに結び付けてその先を今度は牛の首に巻き付けた。

 苦しくはなさそうだ。さすが牛。


「見ててください」


 そういって、畑に連れていくと鋤を地面に突き立てる。


「よ~し、歩け!!」


 牛はモォ~とひと鳴きして歩き始めた。

 鋤が地面に食い込む。

 が、それを無視して牛がずんずんと前へ進み、それに合わせて鋤も前へ進みだした。


「おぉぉ! 僕がやってた分が一瞬で終わったよ!!」


「すごいですね、牛に畑を作らせるんですか?」


「そういうわけです。フウにはとりあえず、こいつの扱い覚えてもらいます。そうすれば、ここに俺がいる必要がなくなる」


「えぇぇぇ、食べられない? 僕」


 フウはそういいながらも嬉しそうに牛のお腹をポフポフと叩き始めた。

 畑の方は何とかなりそうな手ごたえを感じていた。

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