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45:お前の首か男の首

「手前らの村ってのはよ、

 ホントに”エルフのため”に作られた村か?」


 周囲の空気が一気に下がったように感じる。

 そして、次の瞬間それが弾けた。


 トーソンがいつの間にか握っていた巨大な戦斧を横なぎに振るったのだ。

 反応できなかったカーラを抱えて倒れ込む。

 と、それを見越していたのか、トーソンは倒れ込んだ俺たちに向かって斧を叩き付けてきた。

 斧の腹を足でけり飛ばして方向を逸らしつつ、退路を確認する。

 ご丁寧に家の外までの経路が確保されていた。

 家の中で暴れてくれるな、という配慮だろうか。

 今度は、イチカも止める気がないらしい。


「待ってくれ!」


「待つ?

 ヒトの性質ってのは良く知ってる方だぜ。俺はよ」


 カーラを抱えたまま外に飛び出す。

 とりあえず、いったん身を隠すか。

 俺が進行方向へ意識を向けたとたんにその方向へ短い斧が投げつけられる。

 家の外へ追い出しても、ここから逃がすつもりはないらしい。


「オークがなぜヒトに悪来(あくらい)と揶揄されたか。

 その由縁。せっかくだから味わって行けよ」


 再度、トーソンの突撃。

 右手にカーラをひっつかんだまま飛び、しゃがみ、走り回る。


「はな!! 離し、て!!」


 俺もちょうどそう考えていたところだ。

 兜割の要領で叩き付けられた斧を半身で避ける。

 それを読んでいたトーソンの回し蹴りを一歩引いて皮一枚で避けると、その勢いのまま藪木の中にカーラを放り込んだ。


「それがお前の得物か?」


 俺は即座に身体の周りに糸を展開させた。

 極細の糸は、俺の意図を持って生き物のように動く。


「あんた、なんか勘違いしてる。

 俺はエルフの村の村長で――」


 と、俺の話など聞く耳なしのトーソンは構わずに突っ込んできた。

 俺は即座に糸を操り斧を絡めとる。

 力比べか、俺はそれに備えて全身の力を溜める。

 がしかし、トーソンはすぐに斧を手放して、今度は素手で殴りかかってきた。

 力んだ分わずかに反応が遅れる。


 トーソンの右拳を腹部の直前で膝で打ち上げ、その爪先でトーソンの顎先を狙う。

 しかし、トーソンは首をひねってそれを避けると、左手で掴みかかっていた。

 俺は、その左手を右手で掴み止めると、今度は俺が掴もうとした左手を右手で止められる。

 手四つの体勢。

 お互いがお互いの力のみで相手をねじ伏せようとしている。


 どうにもこの戦い、変な感じだ。

 今までの戦闘であればいくらでも冷徹になれたのに、今の俺は高揚している。

 糸を出す気がさらさら起きない。


 力比べはどうやら俺に分があるようだ。

 トーソンの膝ががくりと折れる。

 もっと力を、とトーソンの顔がゆがんだ笑みを浮かべた。

 唐突に首を後ろに引いたかと思うと、俺の顔面に叩き付けられる。


 顔面の中心が熱い。

 鼻から何かが垂れて、それをなめると鉄の味がした。


「やってくれたなぁ!!」


 お返しの一発。

 発見――オークの血は赤い。

 次の瞬間、またトーソンの額が叩き込まれる。


 何発目か、右目が腫れてきてよく見えない。

 と、右の方から声がかけられた。


「パパ、このエルフ。お客さん? それともその敵の味方?」


 戦いに熱中しすぎていたのか、その存在に気が付けなかった。

 右目が腫れているせいで、そちらを確認しずらく、鼻は血の匂いしか嗅ぎ取れない。

 しかし、その声には聞き覚えがあった。


「兄ちゃん、僕捕まっちゃった」


 てへぺろ、という意味が含まれていそうな声色は間違いなくフウだ。

 俺は反射的にトーソンの腹部に足裏を叩き付けていた。

 そして、彼我の距離を空けてもう一度確認する。

 そこには、ナイフを突きつけられたフウがいた。


「おい、そこのあんた。仲間ならとりあえず、パパから――」


 俺の足に力が溜められる。


「シーカ! その娘を放せ!!」


「でも……」


「離せ、お前の首が飛ぶのと、俺がこの男の首を取るの。

 どっちが先になるかわからん」


 緊迫したようなトーソンの声に、シーカは恐る恐るフウから手を放す。

 確認すると、トーソンは全身の力を抜いた。


「悪かったな。

 戦闘中にあんだけ殺気がなかったのは気になったが。

 とんでもねぇもん持ってんじゃねぇかよ」


「あんたこそ、俺を殺す気なんかなかったんだろ。

 だからだよ」


「とりあえず、中入れ。話聞いてやるからよ」


 そう言って、家に踵を返したがすぐに俺の方に振り向いた。


「次に俺の娘に同じもんぶつけたら、殺す」


「それはお互い様だ」


◆◆◆


 俺たちは、トーソンの娘、ミツミの案内でコメの場所まで案内してもらっていた。


「うん。

 兄ちゃんはね、エルフの私達のために村を作ってくれてるの」


「へぇ、マキトっていい奴じゃん。

 やっぱパパは見る目ないね。

 だからママに出ていかれるんだよ」


 フウとミツミはどうも同じくらいの年齢らしく、一瞬で仲良くなっていた。


「最初からフウを連れてくるべきだったわね……」


「全くだ……」


「なんで兄ちゃんあんなに疲れてるの?」


「むしろ、パパと戦って疲れただけのマキトの方がすごいよ。

 もう顔のケガ直ってるし」


「あぁ、君のパパのおかげで多少マシな顔に変形したかもね」


「兄ちゃん。残念だけど全然変わってないから安心して……」


 なんで残念なんだよ。


「ここだよ、そのコメとかいうやつは」


「お~すごい! 僕が見たところよりもたくさんある!!」


 一面黄金の稲穂。

 いつか見た田んぼの一面分位の広さはある。


「これ全部を刈り取るのは、結構苦労しそ――」


 俺は、糸を操り稲穂をいくつかの束にまとめていく。

 そして、稲穂すべてにその作業を終えると、根こそぎ一発で刈って見せた。

 所要時間1分。


「あんた、帝国で農奴になったら一生安泰で暮らせるわよ」


「そんなのやだよ。とりあえず、トーソンの所に戻るか」


 トーソンの家に戻ると、イチカが出迎えてくれた。


「パパ、今奥で不貞腐れて寝てるわ」


「何で?」


「あなたに負けたと思ってるのよ」


「え? 俺勝ったの?」


「パパにとって勝てなかったってことは負けたってことなのよ」


 何とも難儀な性格だ。


「いろいろご迷惑をおかけしましたわね」


「いえいえ、こちらもあなた達がよくわかりました」


「今度僕達の村においでよ。

 おいしいものあるから!」


「うん!」


 仲良きことは良きことかな。


====

【実績が解除されました】 

●エクストラジョブ《大ふへん者》撃破

 ――喧嘩に種族は無関係。喧嘩は真の無礼講だ。


【実績解除ボーナス】

頑丈:身体の靭性が高まり身体欠損が起きにくくなる

悪来:オークから一目置かれるようになる

堅持:守るものがいる場合にステータスがアップする

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