44:しばきあってイかせ隊
「おい、手前ら……俺の娘に何してんだ?」
「お、お父さんですか? これには訳が……」
「誰が”お父さん”だ、こらぁああああ!!」
トーソンの覇気が膨れ上がるのと同時に、その足元が爆ぜた。
そして、次の瞬間には目の前にいた。
俺と男の間に距離などなかったのではないか。
という、意味もない感想が頭をよぎったが、それを振り払うと即座に眼前で腕を十字に組む。
そのガードにトーソンの拳が叩き込まれた。
ビキリと、骨がきしみを上げる。
恐らく、初めて俺の防御力を上回る攻撃が叩き込まれたのだ。
俺は、ほぼ反射で後ろに飛び退るが、男はさらにそれに追撃を仕掛けてくる。
防ぐのは危険だ。
撃ち込まれた右拳を首の傾きだけで避け、次いで飛んでくる左拳はそれに合わせて首を回転させて威力を殺す。
男は左拳を振りぬいた威力を殺すことなく、独楽のように回転したかと思うとそのまま俺の側頭部を狙って踵を叩き込んできた。
俺は、バク転の要領で回避する。
「待って、パパ」
声をかけたのは新手の女だった。
先ほど戦った女オークよりも少しだけ年上に見える。
鼻筋の通った造形は、肌の色と相まってきつく見えるが、わずかに垂れた目が雰囲気を柔らかくしている。
その胸の盛り上がりは、トーソンとは別の柔らかいものがたっぷりと詰まっているようだ。
そして、その声に男の動きが止まる。
「落ち着いてよ。その人達が本気なら妹達はそこで切り身になってる」
「イチカ、お前、こいつらの肩持つのか?」
その女、イチカはトーソンを無視すると槍で俺と戦った女の方に振り向いた。
「フタハ、何があったか教えて」
フタハは、事の顛末を説明する。
そして、イチカは大きくため息を吐いた。
「パパ、フタハ達の勘違いよ。あなた達もごめんなさいね」
「な、イチ姉! こいつら危険だぞ!
岩砕いて入ってくるなんて蛮族のやることだ!!
危険思想だ!!」
「それはこの馬鹿が力の加減を間違えたのよ。
こちらも謝罪するわ」
カーラが頭を下げた。
睨まれたので俺も頭を下げる。
「私達は、ある植物を探しているだけなんです」
「あら、なら我が家へどうぞ。おもてなしは特にできませんけど」
「イチカ! 俺はまだなにも――」
「だって、パパに任せてても埒が明かないんだもの」
◆◆◆
連れていかれたのは、傾斜のある山の洞窟を使った家、というよりも棲み処とでもいった方がしっくりくる所であった。
食料や、それを獲ったのであろう得物が雑然と積まれている。
奥の方は寝室やらなんやらになってるようだが、よく見えない。
そして、俺たちは中央に置かれたテーブル代わりの巨大な丸太の周りに座らされていた。
「で、お客さん方、ウチに何の用ですかね」
どかどかどか、とトーソンが足元を掘る勢いで貧乏ゆすりをしている。
「えっと……俺は、マキトでこっちがカーラです。
南に行った辺りでエルフの集落を作りまして……
え~引っ越しの、ご挨拶に?」
「知らねえよ! あぁあん?」
なんでそんなケンカ腰!?
「パパ、ちょっと。ごめんなさいね。
ママに出ていかれてずっとこんな感じなのよ。
この人はトーソン。私はその長女でイチカ。
他も全員娘で私の妹よ」
イチカは視線をめぐらせてその妹たちを見たので、俺たちも視線であいさつする。
「御託はいい。何しに来たんだ?」
「これを探してまして。
この辺りで見たという子がいたので探索しに。
恐らく水場にあるかと思うんですが」
カーラは慌てたようにカバンからコメの穂を取り出した。
イチカはそれを受け取ると、振り向く。
お父さんの方はそれを無視して俺をにらみつけている。
「ミツミ、あなた川の方によく行くけど……知ってる?」
「見たことあるよ。中の蜜が甘いんだ。
でもちょっとだけだからお腹は膨れなかったなぁ」
「だそうだけど、何に使うの?」
「えっと、食べる……らしいんですが……」
カーラが俺を不安げに見てきたので、俺は力強くうなづいた。
安心しろ、白米はうまいぞ。
他にもうまいものあるじゃん。
「もしよければ、一度うちの村でご飯を食べに来ませんか?
ピザってのがありまして」
「いざってときは孕まして!?
手前、うちの娘呼び出して何する気だ!!」
「いや、ピザだって!!」
「淫らって?
おい! イチカ、俺の得物持ってこい!
頭叩き割って中身調べてやる!!」
「パパ、頭叩き割って調べたいのは、私も一緒よ。
パパのだけど」
「しばきあってイかせ隊!?
イチカ! お前まで毒され――」
◆◆◆
「ふむ、では、俺の縄張りにその植物があるから探しに来たってことでいいんだな」
「は……はい」
あんな事されても普通に生きてるものなんだな。
オークってすごい。
「ところでよ、手前ら、エルフの村だっつったよな」
「はぁ……」
わずかに気温が下がったような気がする。
「俺たちはよ、エルフってのにあったことはねぇし、聞いたことしかねぇ。
なんでも、200歳くらいまで生きるとか、弓が得意だとか。
それに……人間には高く売れる商品らしいな」
空気が芯まで冷え切る。
しかし、導火線にはしっかりと火がついていた。
「なんでよ、ここにエルフが来なかったんだ?
手前らの村はホントに”エルフのため”の村なのか?」
地面が跳ね上がったかと思うほど大きく床が揺れる。
カーラが悲鳴を上げた。
いつの間にかトーソンの右腕には巨大な戦斧が握られている。
そして、俺とカーラをまとめて薙ぐように振るった。
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