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41:ヒトのは大きい、硬い

「あんた、あれ何か知ってるの?」


「いや、知らんよ」


 村に戻った俺達に向かって子供達が飛び出してきてから数十分経っていた。

 前回が前回だったので、今回はかなり緊張していただろう。

 とはいえ、カーラがいたのでそんなに心配する必要もないと思うのだが。

 ちなみに、カーラはずっと本を読んでいたらしい。

 子供たちを任せたんだから、お前は少しは緊張しろ。


 そのカーラは、俺達が連れ帰った客を見て読んでいた本を取り落とした。


「あの子たちは、小人族(ニンフ)と呼ばれる種族よ。エルフの先祖とも呼ばれてるわ。私も初めて見るくらい珍しい種族よ」


「へぇ、そう言われればどことなく似てる……ような?」


「エルフの平均寿命は180年だけど、小人族(ニンフ)は、一説によると千年、本人達も自分が何歳なのか知らないっていう種族なのよ。そのせいで、あの子たちみたいに連れてこられて、魔法薬の材料に……」


 うげ、助けて正解だったな。


「なら、あの子たちに調べさせてもらえばいいじゃん。あれ、10歳くらいだろ? お前の子供の子供の子供の子供くらいまで行けば先が見えるかもしれんぞ」


小人族(ニンフ)は、あの姿で生まれて死ぬまであの姿なの。たぶん、あの子たちはああ見えて、あなたよりも年上よ。だから、結局正確な年齢は不明ね」


「……マジか」


 フウが、一番小さいペンティア(緑リボン)を抱えては空に投げ上げて遊んでいる。

 こら、年上を敬いなさい。

 そこへ、イーシェン(白リボン)がやってきた。


「ありがとうデス。ちょっと疑ってましたデスが、さすがにあなた達を信じても良さそうデス」


「イーシェン……さん。だったっけ? えっと、ぜひゆっくりとごくつろいでいただいて構いませんデス、はい」


「何で急に言葉が硬くなったデスか? あんまり気にしないでくださいデス。ところで……」


「はい?」


 イーシェン(白リボン)は目を輝かせながら俺の手を握った。


「この建物見させてもらってもいいデスか?」


 それは、レットの建てた俺たちの家だった。


「はぁ……別にいいですけど……」


「あ、ズルいデスって! シャングア(橙リボン)も見たいデス」


 なんか、異常に興奮してるけど、大丈夫か?

 いつの間にか小人族(ニンフ)の7人は我先にと部屋の中に入っていく。


「お~やっぱり小人族(ニンフ)のより大きいデス!」

「素材も違うから硬いデスって!!」


 わきゃーと一通り見ていたニンフたちは、今度は我先にと飛び出してきた。


「あそこの木の板欲しいデス! ……と言ってもお渡しするものはないデスが……」


 最初の元気は何のその。イーシェン(白リボン)は、申し訳なさそうに眉をひそめた。


「いや、別にいいけど……木の板くらいいくらでも手に入るし……」


「本当に? あとで、何かよこせって言われても何もないデスからね!」


 と言うが早いか、木を持って村の空き地に走っていった。

 何をする気だ?

 どうやら、何かを建てようとしているらしい。

 どこから取り出したのか、道具でいろいろと始めていた。

 と、1時間後、そこには一回り小さい、しかし大きさ以外はレットの作ったものと全く同じ建物が建っていた。


「うそだろ?」


「ホントだよ。僕、ずっと見てたけど見る見る間にできていったよ」


 フウが目を丸くしていた。

 お前に頼んでおいた、畑仕事終わったのか? という疑問は後程しっかりと聞かせてもらおう。


「ありがとうデス。私たちは、大工仕事が大好きなのデス。面白いもの見ると同じものを作ってみたくなるのデス!」


「はぁ、すごいねぇ。僕なんかレットの手伝いした時に、金づちで指打ったから二度とやるもんかって決めたのに」


「それとは、一緒にしないで欲しいデスね」


 フェンヌ(赤リボン)がフウの言葉について心外そうに答える。

 が、俺の興味は別の所にあった。


「なぁ、お前達……大工仕事好きなのか?」


「そうデスよ」


「なら、これ作ってくれ!!」


 俺は、急いで部屋から水車の設計図を持ち出してきた。

 レットが描いていたものだが、いかんせん俺にはまだ作れそうにない。


「うぅ……フェンヌ(赤リボン)ちゃん、作れる?」


「フェンヌには無理デス……シンクゥ(紫リボン)は?」


「シンクゥは、字を見てたら……シュイツア(黄リボン)ちゃん、一緒に寝ましょ」


 ニンフたちは俺の依頼を、どんどんと拒否していく。


「ごめんなさいデス、マキト。ニンフは見たことあるものは作れるデスけど、そういった絵からは作れないんデス」


「うわ、何か職人っぽい!!」


 フウが妙なところで感心しているが、俺としては困ったものである。

 見たことあるものか……


「いや、待て。さっき作ったのは、見たものと大きさが違ったじゃないか」


「それくらいは、創意工夫でなんとでもできるデス」


「わかった!! ちょっとだけ待っててくれ。フウ、ちょっといいか?」


 俺はフウを呼ぶと耳打ちした。


「――フウ、ユキネの所に連れていけ。お茶でも出して絶対にこいつらを逃がすな」


「う、うん。別にいいけど……兄ちゃん、なんでそんなに目が血走ってるの?」


「いいから、じゃないと、さぼってたことユキネに言うぞ」


 フウは、満面のひきつった笑みで俺にウインクをした。


◆◆◆


 30分くらい経っただろうか。

 俺は、集会場に意気揚々と乗り込んだ。


「マキト、遅かったデスね。ユキネが今日は泊っていっていいって言ってくれたデスが、大丈夫デスか?」


「問題ない。というよりも、一つお願いがあるんだ」


「お願い?」


「とりあえず、これを見てくれ。こいつをどう思う?」


「なんですか? それ」


 俺が見せたのは水車の模型だ。

 中麦の生地を(のり)代わりに使って作ったものである。

 建築スキルはCだか、このくらいのものなら十分につくれた。


「どうしてもこの村で必要な水車だ」


「外して中を見てもいいデスか?」


 俺がいいという前には、ニンフたちは外して中を食い入るように見つめる。


「作れるデ――」


 飛び上がろうとしたシャングア(橙リボン)イーシェン(白リボン)フェンヌ(赤リボン)が抑え込む。

 そして、イーシェンが意を決したように話し始めた。


「イーシェン達はとても遠くから連れてこられました。帰れって言われても、もうイーシェン達に村がどこにあるのかわからないデス」


「ここに住まわせて欲しいデス」


 ユキネが期待するように俺を見つめている。

 最初からユキネがそうしたいことなどわかっていたので、反対するつもりなど元々なかった。

 が、しかし、今は事情が変わっている。


「さっき作った家はあんた達が好きに使っていい。飯だって、提供する。だから、この村に住んでくれないか? 大工として、だが」


 ニンフ達は、一度自分たちで見合った。


「シンクゥ達はねぇ、大工仕事好きデスよぉ。だから、問題ないデスよぉ」


「決まったデスね。それじゃ、シャングア達に任せるデスよ! もっと近くで水車とかいうのを見せるデス!!」

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