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40:任せろ

 俺達の村の近くに奴隷狩りがいた。

 しかし、エルフたちを狩りに来たわけではなく、手に入れた奴隷を運んでいるようである。


 それを見て、ユキネは顔を険しくしながら、無関係だといった。

 自分たちには関係ない。

 だから、助ける必要などない。

 自分に言い聞かせているのだろう。


 見ているこちらが痛々しくなるほど悲痛な表情だ。

 俺は、その頭にチョップを叩き込んだ。

 ユキネは、キャンと言って頭をさする。


「きゅ、急に何するんですか?」


「我慢すんな」


「はい?」


「なんもかんも背負い込もうとする。全責任を負って、自分は例え死んだってかまいやしない。たとえ正しいと思っても、他のことが頭をよぎってそれを成すことができない。ユキネの最悪な性格だ」


「さい……あく」


「最悪最低。商国で(めかけ)にまでなろうとして。馬鹿じゃないか?」


「ば……バカって」


 ユキネの目に涙が浮かぶ。

 やばい、思わず言い過ぎた。


「ご、ごめん……でも、もう、無理するのやめてくれ。子供のためにユキネは平気で犠牲になろうとするけど、残される子供たちのためになってくれよ……」


「で、でも……じゃあ、どうすれば……」


 これ、嫌われちゃったかな。

 でも、大事なことだ。


「人を頼れよ。相談しろよ。あんたいつまで1人で生きてる? なんで、サンが商国についてきたかわかるか? なんでフウやライウがローニやカーラ、それにレットの後にくっついて回ってたかわかるか?」


 そうだ、あのめんどくさがり屋のフウが大人から何かを吸収しようとしている。


「全部ユキネの役に立ちたかったからだ。大好きなお姉ちゃんのために何かになろうとしたんだ」


 ユキネは下を向いて肩を震わせる。


「あの子たちはあんたのために犠牲になろうとしてるんじゃない。ただ、助けたいんだよ。じゃないと、すぐに犠牲になろうとしちゃうユキネが心配でたまらないんだ……」


 ――それに。


「今は俺がいる。やりたいことがあるなら言ってくれよ。無理なら俺だってやろうなんて言わない」


 ユキネが俺の目を見た。

 そして、そのままずらさずに、奴隷狩りの方を指さす。


「あの人たちを……助けたい……」


 正直、助けることに利益なんてない。

 むしろ、不利益の方が多いだろう。

 ユキネの判断は正しい。

 暴れるだけで事が済むなんてことはありえない。

 確かに、正しいのだが――それは別の意味だ。

 そんなこと俺には無関係である。

 俺はユキネが苦しむ顔を見たくない。

 それだけだ。


「任せろ」


 足を男たちの方に向けたところで、裾を引っ張られた。


「気を付けて」


 俺は、にこりとだけ笑う。

 そして、走り出した。


◆◆◆


「おい、大丈夫か?」


 俺は、辺りの男どもの身ぐるみをはぎ終えると荷車の扉をノックした。

 中で、ヒィっと小さく悲鳴が上がるがすぐに収まる。


「安心しろ。助けに来た」


「……」


 俺ではダメなようだ。

 ユキネに視線で合図すると、ユキネはできるだけ優しい声を作る。


「大丈夫です。もう、怖い人たちはいませんから」


 いないわけではないのだが、その辺で土に還っているので問題ではないだろう。


「とりあえず、開ける。聞こえてるなら、扉から離れてろ」


 俺は扉を確認する。

 頑丈な鍵が取り付けられているが、糸による切断に何の影響もない。

 鍵を破壊すると、扉を開け放つ。


「きゃあ!!」


 中にいるのは、7匹の子猫? じゃないな。

 猫の耳をした少女達だ。

 とうとう獣耳まで出てきおったか。


 サンやライウたちと同じくらい、おおよそ10歳くらいに見える。

 頭にそれぞれ赤や黄色のリボンを付けた少女達が7人。

 それが、荷車の奥の方でガタガタと震えていた。


「大丈夫ですか?」


「た、食べないでくださいデス!」


「食べませんよう! とりあえず、出てきて下さい」


 プルプルと震える少女の手をユキネが握る。

 そして引っ張ると、そいつらは全員手をつないでくっつきながら出てきた。

 ジャコウネズミか何かか。


「あ、ありがとうございますデス。イーシェンは小人族(ニンフ)のイーシェンと言いますデス」


 そういって、イーシェン(白リボン)と名乗った少女がぺこりと頭を下げると、後ろで髪をまとめていた大きな白いリボンが揺れた。


「あ、私はエルフのユキネです。こちらの方は、ヒトのマキトさんです」


 と、オレンジ色のリボンでお団子を作った少女が俺の前に進み出てきた。


「シャングアはヒトに言われたデス! シャングアがミカンの皮を剥いてたら、剥かなくても食べられる伝説のミカンがあるデスって。着いてきたらそのミカンをあげるデスって」


 シャングア(橙リボン)は目に涙を浮かべている。


「ミカンはどこデスか!?」


「シャングア、それは嘘デスからあきらめるデス!! ホントにお前たちはフェンヌ(赤リボン)達の敵じゃないデスか?」


 フェンヌ(赤リボン)という名前らしい少女は、一度頭にカチューシャのように頭に付けた緑のリボンを揺らしながら俺の方を向いて指を突きつけた。


フェンヌ(赤リボン)達の敵じゃないデス。じゃない、です」


「そうデスよぉ、フェンヌ。私達を捕まえた人たちがぁ、みんな寝てますぅ。もし、敵だったらぁ今頃シンクゥ達食べられてるデスよぉ」


 紫色のリボンを付けた少女、シンクゥ(紫リボン)が俺のフォローをしてくれているようだ。

 こいつら、被食者なのかな?

 それにしちゃ、えらく間延びした話し方だけど。


「えっと、お疲れの様ですから、一度うちの村に来ませんか?」


 ユキネはそういってにこりと笑って見せる。

 その視線の先には、この中でもさらに年齢が低いらしい2人がいた。

 と、その1人がくしゃみをした。


「クチュン。ペンティアを見られても困るデス。シュイツア、起きて」


 ペンティア(緑リボン)シュイツア(黄リボン)を揺らす。


「や……」


 なんてわがままな子。


「どうせこの辺にいてもフェンヌ(赤リボン)達は食べられるだけだとフェフェンヌ(赤リボン)は思うですよ、イーシェン(白リボン)はどう思うデス?」


「そうデスね……あなた達をどこまで信じていいのかわかりませんが、助けていただいたお礼もできないようでは小人族(ニンフ)の名が廃りますデス。よろしければ、ご案内していただいてもいいデスかデス」


「こっちですよ。足元気を付けてくださいね」


 ユキネが、眠りこけている白リボン(シュイツア)を背中に担いで歩き出すと、隣に黄リボン(シャングア)がやってきた。


「ミカンはあるデスって?」


「ミカンはないデスって」

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