37:毒だ
俺はレットを連れて川に来ていた。
ここの川は、幅にして5メートルくらいあるだろうか。
なかなかにでかい川だ。
この川は、俺たちの風呂であり、飲み水であり、ライフラインである。
そして、今日はそれよりも川下の方に来ていた。
「で、ここに俺を連れてきてどうしたいんだ?」
「ホントは風車が欲しい!! 遠くまで歩きたくないから!!」
「何のことだ!?」
「でも森の中だから諦めて水車にしてやろう!!」
「何で作って欲しいというだけなのに、そんな偉そうな物言いになるんだ」
レットは鼻白む。
「やってみたかっただけ」
「さようか。ま、確かに村の近くに風車は無理だ。お前の考えてる通り、水車が無難だな」
そう言いながら、ぐるりと見渡した。
「家と水車を作って欲しいわけだな?」
「そうだ。できれば水車から……」
「家から作る!」
「いや、水車から……」
「家が先だっ!」
「なんでさ!」
「教育に悪い! 主にカーラが!!」
まぁ、何て可哀想な物言い。
「あいつの実験に巻き込まれる可能性もあるしな。あとは、子供達はまだ小さいがこれからのことを考えるなら、男女、年齢で分けた方がいいだろう。せめて視界を切る壁が必要だ。それに」
「それに?」
レットは、にぃっと口端を引き上げる。
「お前ら2人の部屋が必要だろ? そろそろ」
「2人の!?」
「何だ? 欲しくないのか?」
「あ、いや、欲しいような、欲しくないような……」
「まぁ、お前らの部屋は時間ができてからだな。水車までってなると材料の木材切り出すまでに時間が――」
俺は糸で周囲の木を切り倒す。
そして、倒れる間に板を切り出した。
「後どれくらい必要だ!?」
「まったく便利なスキルだな」
「そうか? 俺には水車を作れる能力の方が欲しかったけどな。ところで、水車の真ん中に空洞を作れるか?」
「空洞を? 作ろうと思えば作れるが…… 何のためだ? 正直、今のお前達には水車は不要だと思うんだが、何に使う気だ?」
「中麦を粉にするのに使おうかと」
「お前、粉挽きでえらい目にあったんだろ?」
「ここは商国じゃない。文句を言われる筋合いはない」
「そうかよ。でも、挽くだけなら中の空洞はいらんだろ」
「そっちは、別の用途だ」
「そうか……」
なるほどな、とレットは興味なさげに相槌を打つ。
「んじゃ、その辺は任せとけ」
◆◆◆
小屋に戻ると、サンとフウとライウはユキネやカーラと集めた野草を分別していた。
サンはわかるがライウとフウは珍しいな。
「わかるかしら? これとこれを混ぜると解熱の薬。で、こっちと混ぜると止血になるわ」
「……これは?」
「下剤よ。レットで試す?」
「な? マキト。あいつは教育上良くない」
苦虫でもかみつぶしたかのように顔をしかめるレットの肩をポンポンと叩いているとユキネがこちらに気づいてやってきた。
「私も父や母に少しは教えてもらってたんですけどね。ああいうのは薬師のお仕事だったんで詳しいところまではわからなくて。私も勉強しますけど、あの子たちが覚えてくれたらうれしいな」
「こっちのいかにも毒っぽいのは?」
「それは、エルフのお茶によく入ってるはずよ」
「あぁ、あの苦い奴か。じゃ、こっちのは? おいしそう」
「ちょっとなら気付け薬。大量に飲めば身体が痺れて1時間は昏倒するわ」
「おぉ! ローニ、これは罠に使える?」
「うむ、煮詰めれば使えるぞ。焼けば消える毒だからな。よくヒトが狩りに使う」
「おぉ! ちょっと僕、煮詰めてくる」
フウが楽しそうに外へ飛び出していった。
「あんなに、狩りに積極的なフウ初めて見たわ」
目に涙を浮かべてユキネが嬉しそうに笑った。
「なんかここにいる女のヒト達、全体的に教育に悪い気がするんだが」
俺がぽつりとつぶやくと、レットはぽんぽんと肩を叩く。
「お前も学んどけ。いつ毒盛られるかわからんぞ」
別に毒は効かない。
だけど、学ぶ必要があるのは理解した。
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● 本草学入門者
――うーん、これは……毒!!
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