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35:弐千年の孤独

第三弾

「サンだ!! サンが帰ってきたよ!!」

「ありがとう! サン!! お帰り! サン!!」

「サン!! 早くご飯を!!」


 久しぶりに帰ってきた村の歓迎っぷりったらもう。

 ……もう……なんでサンばっかり?


「あの、私たちもいるのよ? ほら、お客様も」


「あ、兄ちゃんにユキネ姉ちゃんもお帰り。お客さんもいらっしゃい」


 ライウは、振り返ってそれだけ言うと、サンを調理場まで連れて行った。


「てっきり慕われていると思ってたんだけど……2人とも嫌われてるのかしら?」


「そんなことはない……と思う」


 ぼやけた視界の端から赤髪の女性が現れた。


「2人ともお帰りなさい」


「ローニさん!? どうしたんですか!! 元気ないですよ!!」


 そこにいたのは、あのローニだった。

 どのローニと言われても困るのだが、いつもより覇気がない。

 どこか、はかなげな眼で俺たちを見つめるその女性は、なんというか……薄幸の美女だ。

 どこに行った、俺たちの発酵の美女は!!


「もしかして、こちらにも魔物が現れたんですか!?」


 しまった……魔物が流れることはないと思っていたが……


「魔物? ここには来なかったわよ。ご飯は、みんなで順番に作ってたからあんまりおいしくなくて困ってたけど、みんな元気で楽しく過ごしてたわ」


 そういって、ふふふ、と透明な笑顔を浮かべた。

 おかしい、これじゃあただの美人なお姉さんじゃないか。

 すると、ユキネがポンと手を叩いた。


「あ、もしかして……ローニさん……お酒が……」


「えぇ、最初に日に全部飲んじゃったのよ」


「ユキネ!! コップを急いで!! いや、もう、いい!! ローニさんビンごと!!」


 俺は慌てて酒瓶を差し出す。

 ローニは、それをにこにこと見てからその瓶に口をつけた。

 そして、一口。


「あら、おいしい! これは、オレーシャ(姉さん)がよく飲んでるやつだわ」


 そういって、一瞬で瓶を空けてしまった。


「ぷっはぁぁぁぁ! 生き返ったよ!!」


 よかった! あのローニさんが帰ってきた。


「ローニさん、本当にありがとうございました。そんなになるまで……」


「いやいや、別に酒が抜けただけだから大したことじゃないよ。それにそんなになるってどういうこと? なんか変わってた?」


 なんで酒が抜けただけで言葉遣いまで変わるのかは、意味不明だ。


「武器は売れたかい?」


「はい、全部売れました! お酒を大量に買い込んできましたから飲んでください!!」


 ユキネは嬉しそうにうなずいだ。

 ローニも嬉しそうにうなずく。

 2人とも別のことでうれしいんだろうな。すれ違い。


「ところで、そこの2人は誰だい? 酒蔵の主とかだったらうれしいけど」


「俺は、レット、こっちの娘はカーラです。先日、ユキネ様が商国(レイグラード)女王陛下の妹君となられまして、その護衛として鉄――」


「――長いわね。要は、私達、この村に引っ越してきたのよ。ところで、あんたは結局誰なのかしら?」


 レットの言葉を遮ったカーラは、荷車に乗っていた木箱の山を指さしたあとで、ローニを見つめた。


「カーラ! 黙れ! この方は伝説と呼ばれる鍛冶師の――」


「――長いよ。私は炎と鍛冶の神キュクロープスが地上に遣わしたドワーフ一族の末裔、ローニだ。ところで君たちは結局、酒と関係あるの? ないの?」


 どう考えてもレットのセリフの方が短い。

 いちいち酔っ払いには突っ込まないけど。


「ないわよ。でも、”弐千年の孤独”ならあるわ。飲む(やる)?」


 カーラの口端が引き上げられるのと同時にローニの口端も引きあがった。

 何やらよくない同盟が出来上がってしまった気がする。

 と、サンを神輿の要領で担いでいった子供たちにいの一番でまぎれそうなフウが唯一残っていた。


「兄ちゃん、ユキねぇ……」


「どうした? フウ」


 フウは、顔を真っ赤にして俺たちを見つめる。

 そして目もわずかに赤い。


「心配かけたな?」


 俺はグシグシと頭を揉み込む。

 そして、ユキネがフウを抱きしめた。


「ただいま」

「おかえり」

これにて第一章終わりです

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