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34:「何か悩んでるの?」

 ローニは、差し出された木の器を受け取ると一口なめた。

 キラキラと目を輝かせるフウに対して、少しだけ申し訳ないような気がしたが、それでも正直に伝える。


「まずい……」


「辛らつだね」


 エルフに料理という概念はない。

 あるのは、食べにくい状態のものを食べやすい状態に加工する『調理』だけである。

 ゆえに、エルフの村で供される食事は非常に粗末であった。

 まともなものと言えば、さまざまな野草や薬草、木の皮や根を使ったお茶くらいなものである。


 だから、ローニはあまりエルフの村に長居することはない。

 ところが、この村は違う。

 マキトとかいうヒトが入り込んだこのエルフの集団は、どうにも不思議な変化を起こしているようだ。

 悲しそうに鍋をかき混ぜるフウを慰めるべきか、いや違うか。

 ローニは最後の酒瓶を勢い良く開ける。


「同士フウよ。私は鍛冶が趣味のドワーフだ。料理についての知識があるわけではない。だから、不公平に感じるかもしれんが、今のは本当の感想だ。そして、物作りが趣味の私だから、本気で作った君の料理について嘘を言う気はない」


「別についたって罰は当たんないよ」


「別に私に罰が当たるならついてあげてもいいんだけどね。でも、同士フウが料理をやりたくてやってるようには見えないから。何か悩んでるの?」


「今、この村で僕が一番年上なんだ。でも、何もできないから……」


 ローニは、少しだけ安心した。

 思わずこぼれてしまった笑みにフウが口を膨らませる。


「バカにしてる」


「いや、バカになんかしてない。むしろ、感心した。立場が人を作るというが、本当にそうなんだな」


 ローニの中を若さに対する嫉妬にも似た、とても心地よい感情が満たしていく。


「ローニは、1人で旅してるんでしょ? 僕に何か教えてよ」


「教える? 何を?」


「何かだよ! 何でもいいから!!」


 フウはどうも真剣なようだ。

 その瞳が、ローニの心の一部をくすぐる。

 問題は、その一部が物作りを司る部分ということだ。

 このフウという少女をどのように育て上げるべきか、考えるだけでぞくぞくする。


「そうだな、何から教えようか」


 とは言え、教えられるものはそんなに多くない。

 ローニの戦い方と言えば、ドワーフの膂力を利用して鎚を振り回すもので、到底フウにできるものではない。

 かといって弓ならばユキネの方が上手いし、料理は無理だ。


「矢の作り方、そして罠の作り方を教えようかな」

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