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30:これってこういう花なんですか?

 ドラゴン討伐から2日が経っていた。

 街の方はそれほど被害がなかったので、避難していた領民たちは戻ってきている。

 おかげで、騎士団たちはほぼ寝ずに本日の叙勲式に出席させられる羽目になったらしい。

 俺はといえば、ドラゴン退治の後に美味しそうな部分だけ闇箱に入れて速攻でドワーフの工房に逃げ込んでいた。

 それが、夜中。

 朝までドワーフたちとドラゴンの素材でうひゃうひゃいってる最中に拉致された俺は、1日ほどユキネと二人で歓待を受けた。

 歓待というが、ユキネの機嫌を直すのに四苦八苦していたためほとんど記憶にない。

 そして、現在、女王が私的に開いた宴の席にいる。


「なんで俺が叙勲されるんだよ!」


 壁の花、いや鼻くらいか、になっている俺に肩を回してガザンは3度目の雄たけびを上げた。

 その右目には黒い眼帯が付いている。

 ドラゴンに吹き飛ばされた時に潰されたらしい。


「仕方ないでしょう。なにせ、最大の功労者がいらないと言っちゃったんですから」


 そういって、ローランドは俺の方を見た。


「だからって、なんで俺が! お前んとこの団長がよぉ」


 昼間に叙勲式が行われたのだが、ローランドの所属する鉄狼騎士団のレヴァインが団長から女王直轄の役職になったらしい。

 そして、今回のドラゴン退治で勲功を上げたガザンがその後釜に据えられたそうなのだが、それが気に食わないようだ。


「うちの団長はどちらかと言えば騎士団で団長してたことの方が間違いですからいいんですよ。あなたの嘆きの方が迷惑です。空っぽになった右目に牛の糞でも詰めたらどうですか?」


 と、そこへ大量の料理を皿に盛ったユキネがやってきた。

 ほっぺたには何かのソースが付いている。


「マキトさん、すごい美味しいですよ。これってこういう花なんですか?」


 魚を使った料理の様だが、どうにもそれが花に見えるようだ。

 これは、エルフの食文化の上昇は急務だな。


「それは、ユキダラとカブのクリーム煮です」


 凛とした、しかしどこか穏やかな声がユキネの後ろから聞こえた。


「陛下」


 ローランドとガザンは体勢を整えると敬礼をする。

 慌てたようにユキネは皿を片手にお辞儀をした。


「えっと、昨日からありがとうございます。えっと……」


「直ってよろしい。それと、ユキネさん、それほど堅苦しいパーティのつもりはありませんからあまり畏まらないでください」


 そういって微笑むユフィン女王の笑顔には、あのドラゴン退治の時の厳しさはなかった。

 俺やユキネよりも歳は上のはずなのだが、いまだに美しさと可愛らしさが同居している。

 幾分胸元の肉付きはさみしいものがあるが、その引き締まったウエストとすらっと長い手足のせいで恐ろしい程に整ったスタイルに見えた。

 着ている黄緑色のドレスが、幼い印象を与えるせいで見ているこっちが何か悪いことをしている気になる。


「ガザン、今回の叙勲が気に入りませんか?」


「恐れながら、今回の勲は私にはございません。すべてこの者がやってのけた事です」


「勲功無き戦闘となってしまうと帝国に妙な疑いをかけられるかもしれませんからね。あなたに受け取ってもらうしかないのです。本来受け取るべき人物に私の命令が通じるのであれば、また話は別なのですが……」


 そういって女王(ユフィン)は俺に視線を送る。

 こうやって見つめられるのは、叙勲式の直前以来だ。


「本当によかったのですか? この者たちがここまで言っているのです。例え他の誰が何と言おうともあなたが望むのであれば、騎士に取り立てますのに」


 叙勲式の直前にも同じ話をされた。

 俺を騎士に取り立てるという話である。

 周囲の人間たちは口々に異論を唱えたが、それを女王(ユフィン)は目で殺して、俺に迫った。

 しかし、俺は丁重にお断りをさせてもらった。

 そんな状況で騎士になっても針の筵だし、だいたい俺にはやるべきことがある。


「結構ですよ。こっちは村を1週間近く開けてるので早く帰りたいくらいだ」


「そうですか…… それならば、せめて褒美でも……」


 褒美かぁ、ドラゴンの素材をかなりの金額で買い取ってもらったからなぁ。

 あ、1個欲しいものあった。


「粉挽権をください」


 粉挽権があればピザが売れる。

 住民の食いつきがよかったし、いい商売になるかもしれない。


「粉挽権は……あれは王国が帝国に取り込まれる際に貴族に売り払われてしまいました……申し訳ございません」


 あぁ、いたな。名前も思い出せないけど。


「ん~あとは……あとは……」


 商売権?

 いや、売れるものがないのにもらっても仕方ないしなぁ。


 なんか伝説の装備でも貰うか?

 ダメだ、剣では子供たちの腹の足しにならない。


 金か?

 それは、ダメだ。

 次からの稼ぎがない状態で金なんか持っていても、欲のはけ口にしかならないだろう。


 というか、こんなことで悩むくらいなら早く帰りたい。

 俺とユキネがここにいるのは、王国と出来るだけよい関係を作りたいからだ。

 う~んと、悩んでいるとユキネが口を開いた。


「あの、人を……人を貸してください」


「人?」


「私たちの村には、子供しかいません。奴隷狩りにあったこともあります。私たちの村には人が必要なんです!」


 と、遠くから一人の男が歩いてきた。


「貸せませぬな。馬鹿らしい」

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