29:遅ぇよ、バカやろう。
ドラゴンに吹き飛ばされた俺は、地面にひっくり返っていた。
その俺に向かってドラゴンは空中より急降下してくる。
瞬間、自身が両手足が生えた芋虫であることを思い出した。
転がりながら近場の岩に糸を吸着させ、その場から脱出。
間一髪で俺のいた場所に大穴が開いた。
しかし息つく暇などない。
先ほどガザン達の戦闘で俺は見ていた。
恐ろしいのはそれだけではない。
予想通り、今度は尻尾が俺に叩き付けられる。
這うように逃れ、回り込もうとする俺に対してドラゴンが身体を独楽のように回す。
横なぎにふるわれた尻尾が俺の鼻梁を横に切り裂く。
そして、今度は顔面が襲ってきた。
大きく開けられた口に並ぶ鋭い歯はカミソリの様で、触れただけで俺の前髪は見事に切りそろえられた。
俺が飛び退くと、それを追うようにドラゴンが一歩踏み出した。
かかった。
俺は、ドラゴンの足元に這わせていた糸の網を勢いよく引っ張った。
ドラゴンは、倒されまいと足の爪を地面に食い込ませる。
また、力勝負か……
と、影が二つ飛び込んできた。
「ザッケンナコラぁ!」
ガザンとローランドである。
2人は、そのドラゴンの足に剣を振るった。
無理だ、と思ったが2人の狙いはドラゴンの足ではなくその足元であった。
爪の食い込んだ地面を砕く。
それと同時にドラゴンの身体が傾いた。
「人間なめんなぁぁぁぁぁ!!!」
糸がドラゴンの重さでブチブチと千切れていく。
それに合わせて俺の筋肉にも引き千切れるような痛み。
しかし、それは力を抜く原因になり得ない。
とうとう耐えきれなくなったドラゴンは空中に逃れようと翼を動かした。
浮き上がろうとするドラゴンの頭部に糸を吸着させると、俺は自身を上空へ引き上げる。
そして、ドラゴンの頭部に拳を叩き込んだ。
重硬な金属でも殴ったかのような痛み。
そんなことを無視するかのように気楽なファンファーレが鳴り響く。
今じゃないだろ! 糞やろう!
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【実績が解除されました】
● フライ級
――そんなのじゃハエも殺せねぇよ
【実績解除ボーナス】
浸勁:打撃の威力が内部に集中する
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遅ぇよ、バカやろう。
俺は、落下し始めた身体を再度糸で上空に引き上げる。
その段になって、ドラゴンが見ている景色と同じものを見ているのだと気が付いた。
ビルの2階建てくらいだろうか。
久々にこんな高さの景色を眺めた気がする。
なんだか心地がいい。
それとは反対にドラゴンの瞳には恐怖が浮かんでいた。
なぜだろうか。
その瞳に移った俺の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「楽しいだろ? ドラゴン」
俺は、そうつぶやいた。
ドラゴンは返事の代わりに頭を叩き付けてくる。
それを独楽の要領で回転し避けた。
俺は拳を構えた。
空中で踏ん張りは効かないし、ドラゴンの皮膚は固いし、スキルが通用するかもわからない。
それでも構いやしない。
これでダメなら、別の手を考えるだけだ。
【浸勁】
殴った感触は相変わらずの金属だ。
しかし、その音が芯まで響く。
ドラゴンの身体が大きく震えた。
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【実績が解除されました】
● 炎竜撃破
――レッドドラゴンに聞きたいことある人は挙手を願います。あ、じゃあ、そこの角の生えた青の方、どうぞ。
【実績解除ボーナス】
魔眼《増幅》:対象の[振動]を増幅する
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