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28:死ぬ気か?

 ドラゴンが上空を一周する。

 そして、悠々と舞い降りた。

 300メートルは離れているのにここまでズオンと地面が揺れたのが伝わる。

 ガザンの顔に笑みが浮かんでいるが、それは恐怖によるものだった。

 が、それはすぐに消える。


「お前ら! 俺に続け!!」


 ガザンが大きく叫んだ。

 しかし、残っているのは怪我をしていて立っているのがやっとの十数人。

 それぞれの顔には死相がはっきりと浮かんでいる。

 それに呼応するようにローランドが魔法を撃ちこむが、絶対的に威力が足りない。

 恐らくは、ガザンの突撃を意識させないためだけのものだ。

 ローランドもまた腹部が真っ赤に濡れていて顔面を真っ青にしている。


「死ぬ気か?」


 思わず俺はガザンの肩をつかんだ。

 ガザンはそれを振り払う。

 そして、余裕ある笑みを浮かべた。


「よく見てろよ。たぶん、あれはお前にしか倒せない」


 そう言ったかと思うと、ガザンは走り出した。

 それを先頭に、兵士たちが走り出す。

 王国万歳だとか、女王の名前を叫びながら。


 しかし、どれもこれも空々しい。

 一人の男が誰の者とも知れない女の名前を口にした。


 それに合わせるように誰一人として、俺の知っている名前を叫ばなくなる。


 そうだ、誰も彼もが死にたくないのだ。

 そして、死ぬのならば愛する者のために。


 ドラゴンが興味なさげに地面を叩く。

 強烈な地揺れとそれによって起こった烈風がガザンを吹き飛ばした。

 見てろって、どう戦うかってことだろうか。

 続いた兵士たちもまた、横なぎの腕を叩き付けられる。


 ドラゴンはぶんぶんと飛び回るハエでも見るかのように首をぐるりと回し辺りを見回す。

 そして、その口が大きく開かれた。

 ローランドが魔法で土壁を練り上げるが、ドラゴンはそれを尻尾で叩きつぶす。

 そして、また大きく息を吸い込んだ。


 限界だ。


「しゃがめぇ!!」


 俺は叫びながら走り出した。

 俺の声など届いていない。

 兵士達が恐怖と共に注視しているその口に向かって糸を射出する。

 最大限太くした糸をさらにねじり上げ作り出したロープでその口を締め上げた。


 ちょうど炎が出る直前だったのであろう。

 ドラゴンは目を白黒とさせるとと苦しそうに呻いた。

 同時に縛り上げた口の隙間から小漏れ火がチラリ。

 俺は力いっぱいその糸を手繰り寄せると、ロープがきしみを上げる。


「こっち向け! こっち向けよぉ!!」


 ドラゴンの方に引きずられ始めた。

 腕力勝負は互角、いや少しだけ分が悪いようだ。

 しかし、ドラゴンは俺のことを完全に認識したようである。

 俺の視線と、ドラゴンの視線が火花を上げた。


 好機か?

 俺は一か八か、【調教】をかける。

 一瞬その瞳孔が緩んだような気がしたが、次の瞬間にはその瞳に力が戻っていた。


 そして、同時に、ドラゴンを拘束していたロープが引きちぎれ燃え上がる。

 ドラゴンは周りの兵士から先に排除しようと動き出したので、俺は【威圧】を込めた【咆哮】を叩き付けた。


 ドラゴンの動きが止まり、こちらをにらみつけてくる。

 そして、俺の方に近寄ってきた。


 俺は、その隙に距離を詰めるとその首に細い糸を巻き付ける。

 髪の毛ほどしかない糸がドラゴンの首に巻きついた。

 力を込めてそれを引っ張る。

 しかし、次の瞬間プツンと音もなく切れた。


 どんだけ硬いんだよ。

 今までの敵ならばその首はするりと落ちたはずだが、ドラゴンの鱗というものは相当に硬いようだ。

 俺の当惑をあざ笑うように、ドラゴンはその鋭い瞳孔をさらに細める。

 そして、大口を開けた。

 噛み付きか? 炎か?


 違う、これは罠だ。

 脚力のみで垂直に飛びあがると、そのわずか数センチ下を恐ろしい速度で尻尾が通り抜けていく。

 安堵するのもつかの間、俺はここまでが罠だったとそこで気が付いた。

 俺の背中を翼が叩いたのである。


 目の前が赤くなった。

 心臓が一瞬、確実に止まった。


 目の前が黒くなる。

 肺の中の空気を全て吐き出し、足りない分は胃の中から吐き出す。


 そして、脳みそが空気を欲していることに気が付いたときには地面にひっくり返っていた。


 俺は眼球だけの生物になったような気がしながら、周囲を見渡す。

 俺の直上にドラゴンがいた。


 そらあの巨体を浮かせる翼だもんね。

 あれで叩かれたらそうなるよ。

 で、ドラゴンはなにしてんだろうか?


 そこまで考えて、俺を踏みつぶそうとしていることを理解した。


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