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27:伝説じゃなかった

 俺たちは魔物の軍団を退け、一息ついていた。

 しかし、その時さらに地面が揺れる。


「おい、何だ? 地揺れか?」

「地揺れじゃない! 森の向こうを見ろ!」

「なんだ、あれ…… 何か飛んで……くる……」


 兵士たちが指差す方向にいたのは赤いテラテラとした鱗をまとった巨大なトカゲ。

 う~ん、もしかしてだけどあれって。


「おい……あれ……ドラゴン……」


 兵士の一人がつぶやいた。

 そして、その場に膝から崩れ落ちる。

 その顔は流した血ではなく、恐怖から顔が青ざめていた。


「伝説じゃなかったとは、ははは」


 ローランドは皮肉気に笑う。


「ドラゴンに追われてたか。なるほど、それは逃げるわな……」


 ガザンがクツクツと笑う。

 そして、2人は目をあわせると、立ち上がった。


「レヴァイン様は、女王陛下を。時間を稼ぎます」


 レヴァインは、コクリとうなずく。


「ガザン隊はここを死守せよ! ローランド隊は援護を! 残りは私について来い! 領民を逃がす!!」


 叫んだレヴァインは、振り返らずに口を開いた。


「ガザン、ローランド。今までよくやってくれた」


 2人は、ニヤリと笑う。


「おらぁ! 立てお前ら!! 竜殺し(ドラゴンキラー)の称号をローランドの糞野郎たちに渡す気か!!」


「相も変わらず、うるさい男ですね。だからゴリラは嫌いなんですよ。さぁ、民のために立ち上がりなさい。始めますよ」


 2人の言葉に、兵士たちは何とか立ち上がる。

 そして、自身達を鼓舞するかのように叫んだ。

 そうしなければ立っていられないのだろう。


 周囲の人間を立ち上がらせたガザンとローランドは俺たちの方に向き直った。


「お前達は行け!!」


「ここからは商国の問題です。あなた達は村を」


「勝てる見込みは?」


 俺は、2人の言葉に疑問で返す。

 そして、その疑問を2人は清々しい笑顔で返した。

 勝算などない。

 ここにいる者たちは死ぬ気なのだ。


「そうか、あんたらに任せてたらエルフの村まで被害が及びそうだな」


「な! 無駄です! この人数でも何分持たせられるか、わからないのですよ!!」


「ユキネは…… といって帰ってくれないよね」


 俺はローランドを無視してユキネの顔を見た。

 疲労困憊、しかし意気軒昂。

 この人は最初からそうだった。

 誰かのためなら自分の命を平気で捨てられる。

 そのせいで疲労だとかそういうのがわからなくなるのは良くない癖だ。

 一番よくないのは、俺の前で死のうとすることだけど。


【催眠】


 俺は、ハーピーを倒した時に覚えたスキルを発動した。

 ユキネの身体から力が抜け、俺はそれを支える。


「この人を頼む」


 ガザンは、眉根をひそめた。

 しかし、それを解くと、近くの兵士に声をかける。


「お前は、このエルフを連れて下がれ」


「わ、私も戦います!!」


 その男は震えていた。


「お前、今度結婚式だろう。準備してこい」


「しかし!!」


「副団長命令だぜ?」


 男は、体のみんなを見渡した。

 誰も彼もが、にこにこと笑っている。

 男は、ユキネを抱え走り出した。


「副団長、俺の家にはまだ小さな子供がよぉ」


「うるせぇ、てめえよりしっかりもんじゃねぇか。お前がいない方が嫁さんも楽だよ」


「ちげぇねぇ」


 ガザンは、大口を開けて笑いこちらを見た。


「あいさつしなくてよかったのか?」


「いや、何かわかんないけど、俺はユキネの所に……みんなの所に帰るから」


 俺はドラゴンに視線を移した。


――――

レッドドラゴン

筋力   SSS

魔力   SS

耐久力  SS

精神力  S

持久力  S

反応速度 SSS

――――


 あれだな、勇者より少し強いくらいじゃないか。

 俺はもう一度自分のステータスを確認した。


――――

マキト アイクラ

ジョブ:実績蒐集家(アーカイブマスター)

筋力   SSS

魔力   S

耐久力  S

精神力  SSS

持久力  SS

反応速度 SS

――――


 やってやれないことはない……と思う。

 ドラゴンもまた、俺達を確認したようである。

 空中を大きく旋回する。


「来たぜ!! 弓兵隊! 射て()っ!!」


「残った矢全て打ち尽くして構いません! 地面に叩き落としてやりなさい!!」


 矢がドラゴンに向かって雨あられのごとく降り注ぐ。

 しかし、その皮膚はよほど頑丈なのか一本も突き通らない。

 それでも、わずらわしかったのだろうか、ドラゴンは空中に停止するとその翼を大きく羽ばたかせた。

 ビュオっと風が吹き荒れ鷹と思うと、放たれた矢がその風に阻まれ速度を失う。

 そして、ドラゴンへ向けてはなったはずの矢が今度は放った弓兵の方へ降り注いだ。


「しまった!!」

「逃げろ!」

「どこへだよ!!」


 阿鼻叫喚。

 打ち払える力量があるものは、何とか剣や槍で切り払う。

 しかし、全員が全員そうではない。

 辺りのうめき声が増えていく。

 助けるか、選択肢が浮かぶが、その思考をドラゴンが遮った。


 ドラゴンが大口を開けたのだ。

 辺りの空気がドラゴンの口元へ一気に吸い込まれる。

 喉の奥が一瞬赤く光ったかと思うと、次の瞬間その口から炎が吐き出された。


「下がれ!!」


 ローランドが叫ぶ。

 しかし、その巨大な炎の渦から人の足で逃れられるわけはない。

 俺は、その直撃地点下まで走ると、その頭上に即座に糸で布を張った。

 一面に広がった布に炎が直撃し一瞬で燃え上がる。

 布と炎と相性は悪いらしい。

 しかし、これは時間稼ぎだ。

 第二弾!!


 俺は頭上に布を作り出すのと同時に地面に大量に糸を這わせていた。

 地面に落ちている剣や盾、さらには石ころや砂を絡めとりながら。

 そして、一枚目の布を焼ききり、今度こそ地面に降り注ごうとした炎に二枚目の布を広げた。


 やはり燃え上がる。

 しかし、その炎は巻き込まれた不燃物に阻まれた。

 そして、その間に兵士たちはその傘の下から逃げきる。


「炎の勢いが弱まったな」


 俺は、布が燃え落ちるのを見届けていると、矢と炎の代わりに降り注ぎ始めた瓦礫を避けながらガザンが走り寄ってきた。


「助かった」


「いや、まだだ」


 しかし、俺はガザンではなく空を往く竜を見ていた。

 細い爬虫類特有の瞳孔と俺の視線がぶつかりあうと、ドラゴンは空を一度だけ仰いでから悠々と着陸態勢に入る。


「こっからは第2ラウンド開始みたいだ」

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