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21:さすが村長

 夕方になる前にすべて売り切ることができた。

 売り上げもかなりの金額になることだろう。

 その金額をサンが先ほどから数えている。


「15、16、17……あぁ、間違えた。もう一回……」


 ざっと暗算しただけでも50万はあるのに、2桁でこれではいつ終わるかわかったもんじゃないな。

 これも勉強だと思って放置していたが少し手を貸すか。


「サン、これが1だろ? 10こ集まったらいくつになる?」


「10……」


「10が10こ集まったら?」


「えっと10、20、30……100?」


「正解。んじゃ、それが10こで?」


「……1000!! そっか。お兄ちゃん、すごい」 


 俺の意図を理解したのか、サンは10、100と塊をどんどん作っていった。


「マキトさん、もの教えるのうまいですね。さすが村長」


 ユキネが、クスクスと耳打ちをしてきた。

 耳元がこしょこしょと心地よいので、その余韻に浸っていたいが、さすがに量が多いのでユキネと俺も1000の塊を作るのを手伝う。


「50万4206」


 サンは自慢げに鼻から息を吐いた。


「よくできたな」


「お兄ちゃんのおかげ」


 俺があたまをなでるとサンは目を細める。

 正直、あの程度の知識で天狗になれるほど能天気ではないが、こうやって尊敬されるのは気分がいい。


「これなら、ローニさんへ十分にお礼ができそうです」


「そうだな。酒を買い込んで料理の材料を買って帰っても余りそうだ」


 とはいえ、これはボーナスみたいなものだ。

 大事に使わなくてはいけない。

 自身を戒めていると、オレーシャがやってきた。


「数え終わったかしら?」


「はい、こちらは受け取ってください。皆様への感謝と報酬です」


 そういってユキネは売り上げを差し出した。


「まだ、受け取れてない代金があるのでこれは全部差し上げます」


「はぁ、エルフって意外と頑固よね」


 オレーシャはため息をついたが、その意味を理解できないユキネはニコニコと笑っている。

 全部差し出したのは、感謝の気持ちが大きすぎるということもあるが、単にどんぶり勘定というだけだ。

 しかし、そんなユキネの方が好きなので黙っておく。


「村長マキト、しっかり守ってあげてね」


「それは、もちろん」


「これは、今度君たちを支援する時に使わせてもらうわ。ところで、今日もご飯頼めるかしら?」


 サンはその言葉に目を輝かせる。


「サンは、好きに使ってください。ちょっと、俺は――」

「私たちは行くところがあるので」


 ガザンの代金を受け取りに行く、その話をしようとしたところユキネが割り込んできた。


「別にユキネが来なくても大丈夫だけど……」


「そうかもしれませんけど、私も見てみたいんです。この街をもっと」


 いやな予感がするので、出来れば来てほしくない。

 が、しかし、エルフは、いやユキネは頑固だというオレーシャの値踏みは俺も賛成している。

 俺は、了解の返事の代わりにため息で返事をした。


◆◆◆


 サンが飯を作り終えたころに、俺とユキネはオレーシャの工房を後にしていた。

 場所はエゴールに聞いていたので迷うことはない。

 赤い岩亭は、看板に真っ赤に燃えるようなドラゴンが描かれた飲食店であった。

 そこそこに繁盛しているらしく、客もしっかりと入っている。

 開けっぱなされた扉をくぐると、店員がこちらにやってきた。


「何名様で……マキト様ですか?」


「はい……どうして?」


「いえ、お連れ様からヒトの男とエルフの女が来るといわれておりましたので。こちらです」


「遅かったな」


 ガザンは、中身が半分ほどになったジョッキを掲げてこちらに合図をした。


「悪かったな、わざわざ来させることになって。ここは俺が持つから飲んでくれ」


「そいつはいいですね。でもその前に」


 俺は、通された椅子に座ることなくガザンに手を差し出した。

 ガザンは苦笑する。


「しっかりした奴だな。ほらよ」


 差し出されたのは、紫色に金糸で刺しゅうの入った、それだけで高そうなこぶし大の小袋であった。

 受け取るとずっしりとしている。


「でかいのが100万、派手なのが10万だ。俺は常々逆の方がいいんじゃないかと思ってるが、そうなってる」


 一通りコインについて習ったが、さすがに100万コインなどは習わなかったな。

 真贋は着かないが、ちょうど通りかかった店員の目の色が変わっていたので間違いないだろう。

 つか、そんなもんを普通に放り出すな。危ないなぁ。

 とりあえず、椅子に座る。

 ユキネもそれに倣って座った。


「よし、店員。この辺の料理を持ってきてくれ。酒はそうだな……こっちのエルフには甘いやつ。男には俺のと同じのを頼む」


「え、私お酒なんて……」


「まぁ、気にするな。まずかったら俺が飲んでやるから」


 ガザンは笑い飛ばす。


「来たな。乾杯だ」


 俺もユキネもその豪快なガザンの行動に乗せられるままに酒を口にしていた。

 そして、ユキネは驚いたようにそのコップを見つめる。


「これ……おいしい」


「そうだろ? 商国レイグラードは酒が特産品だ。だからこそドワーフたちがここに工房を持っている」


 ユキネは嬉しそうに耳をぴくぴくと動かした。

 一方の俺は、こんなうまいものを飲んでたローニにくっさい酒を飲ませたことを反省するしかない。

 ごめんなさい。


「どうしてですか?」


「いま戦争中の王国と帝国に挟まれてたおかげで商業、そしてそれ目当ての宿泊客が多くてな。酒作りが盛んなんだよ」


「そういえば騎士なんですよね? 帝国の方?」


 ユキネは首を傾げた。

 酔ってるのか少し頬が赤く染まっている。


「違う。帝国の騎士は帝国騎士と呼ばれている。工程直轄の金龍騎士軍とその配下の騎士団によって作られている。俺たちは商国の国家騎士だ」


「国家騎士……?」


「帝国に負け帝国に併合された国の騎士団を作らされるんだ。帝国の走狗となるために。つい最近までは王国とバチバチやらされてたもんさ。ちなみに俺は商国(レイグラード)国家騎士軍鉄鷲騎士団の副団長だ」


「副団長!? えらい人なんですね。あ、これもう一杯飲んでいいですか?」


「普通に訓練していればそれくらいになれるさ。才能があれば訓練さえしなくてもなれるけどな」


 一瞬ガザンの顔に緊張が走ったような気がしたが、俺が視線を合わせると先ほどと同じく豪快な笑顔であった。


「まぁ、帝国と王国を阻むように出来上がった大森林のせいでそれどころじゃないけどな」


 良くも悪くも……ガザンはそういって苦く笑う。


「ちょっとしょんべんいってくらぁ。食いたいものあったら適当に頼んでくれ」


 ガザンは立ち上がると、奥の方へ行ってしまった。


「騎士ってもっと怖いのかと思ってましたけどそんなことないですね」


 そういいながら、うるんだ瞳で俺を見つめていた。

 頬がさらに赤く染まっていて、その艶やかな唇がコップを挟み込むたびに、下半身のこう……なんというか……


「おい、お前ら、ドワーフの所のやつらか?」


 振り向くと目の周りに青タンを付けたヒトが数人いた。

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