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20:お小遣い稼ぎ

 翌日、俺達は、オレーシャに連れられて前回とは別の露店市場に来ていた。

 この前の場所とは違ってかなりの活気があり、突然いったところで端の端の方でも店を開けそうにない。

 だからこそ、オレーシャが来てくれたのだ。

 今日はもともと休みだからと、オレーシャ達がいつも使っている場所を貸してくれるらしい。


「何から何までありがとうございます」


「族長ユキネ、気にしないで。バッカスの神は、昨日のピザをひどく気に入っていたわ」


「はぁ……」


 よくわからないが、良いつまみに感動したということだろうか。

 そこへ、筋肉を震わせながらエゴールが歩いてきた。


「同士オレーシャ。そこの露店、ひどいの売ってるぜ」


「ひどい?」


「あぁ、族長ユキネ。俺達ドワーフ族は土から生まれ、槌を握って死んでいく。ゆえにヒトよりも金属の扱いがうまい。だから、俺たちが打った、というだけで値段が3割くらい違うんだ。だからこそ、偽物が出回る」


 確かに、武器を扱っている露店の多くは「ドワーフ」という言葉を多く使っているようだ。


「同士エゴールはそこの店と話しをつけてきて」


「相分かった」


 そういって筋肉をぴくぴくとさせて歩いていく。

 ”話しをつける”とは何かの隠語なのだろうか。


「さて、今日はここを貸すわ。好きなだけ売って頂戴」


 到着したのは、人通りが多く、さらに店の視認性がとてもよい、素人目から見てもかなり良い立地であることがわかる場所であった。


「この前の所と全然違いますね……」


「あの場所では、しょせんお小遣い稼ぎくらいしかできないわ」


「でも、本当にいいんですか?」


「気にしない、気にしない」


「また怒られない?」


「怒られない! この辺りでやらかすバカなんてそうそういないわ。堂々とドワーフ製を名乗って売りなさい。値段は負けちゃだめよ? そんなこという奴がいたらこう言いなさい。作ったのはあのローニだって」


 オレーシャはウインク一つする。

 確かにローニはすごいと思うのだが……何か効果があるのだろうか……


「あとは頑張ってね。私はその辺の店にいるから、困ったら探して」


 そういって、雑踏に消えていく……

 ことなどせずにはす向かいの立ち飲み居酒屋に入っていった。


「とりあえず……並べましょうか……」


 いくつか並べていると、さっそく一人の客が来た。

 赤い革製のベストを着た男である。

 ステータスを確認したところ盗賊(ローグ)の様である。

 素早さのステータスがBだ。


「なんでドワーフの店にエルフがいるんだ?」


「あ、今日は私たちがこの場所借りてるんです」


「借りてる? そりゃまた珍しいことも。あの一族至上主義者(ブランド狂い)達が貸すってことは、本物ってことか」


 そういって、男は右手で剣を手に取った。

 と、その瞬間左手が動いた。

 ユキネが置いた瞬間のダガーナイフを掠め取ったのだ。

 俺が動こうとした瞬間、男は俺を見た。


「冗談だ、冗談。()りゃしねぇよ。あんたらにこんなこともあるって忠告しようと思っただけだ」


 男は笑いながら懐にしまったナイフをテーブルに置いた。


「そんなに目がよさそうには見えなかったんだけどな。その変なジョブのせいか?」


 どうやら鑑定スキルを所持しているらしい。

 俺は前もって偽装のスキルをかけていたのでステータスばれはしなかったが、ジョブも隠しておくべきだったようだ。


「偶然見えただけだ」


「くっくっく、そういうことにしといてやる。俺の名前はレット。しがない冒険者だ。ちょうど武器を探していてな。このナイフいくらだ?」


 サンが、値段をつげるとレットは少しだけ眉をひそめた。


「それでいいのか?」


「間違いない……はず?」


「いや、なんでもない。藪蛇になりそうだしな」


 そういってコインをサンに差し出した。


「多い。レットは間違えてる」


「ホントか? まぁいい。さっきの詫び料だ」


 そういって、レットはナイフを右手で掴んだ。

 瞬間、その場からナイフが消える。

 サンが目を丸くした。

 いつの間にかそれは左手に握られている。


「ありがとよ、じゃあな。そうだ、お前の名前を教えてくれよ」


「マキトだ」


「覚えとく」


 レットはそういうと、右手を掲げて雑踏に消えていった。


「おい、いいか?」


 続いてきたのは剣士然とした男たち3人だ。

 3人は思い思いに剣を見繕っていく。

 そして、そのうちの1人が一本の剣を手に声をかけてきた。


「これは、いくらだ?」


「7万リウ」


「7万……高いな。お前たちが作ったわけでもあるまい。もう少し安くしてくれ」


「安く……えっと」


 サンが困ったようにこちらを見てきた。


「すいませんね、お客さん。こちらの商品はどれも負けられないんですよ。なにせ、ローニ製でして……」


 正直負けてもいいのだが、せっかくなので習った魔法の言葉を使ってみる。


「なに?」


 男たちの顔色が変わった。

 こそこそと話をし始める。


「おい、本当だと思うか?」

「いや、しかし、この店でそんな嘘つくわけないだろう。姉の店だぞ」

「フラフラしててめったに見つからんローニの武器だ。本物ならむしろ安いともいえる」


 男たちは顔寄せ合って話し合った結果を俺たちにつげる。


「こっからここまでくれ」

「な! ふざけるな! これは俺がいただくぞ!」

「いやいや、これは俺のだ。これも俺のだ!」


 ――ぎゃーぎゃーぎゃー


「いまいいか?」


 男たちが騒いでいるのを押しどけながら、男が入ってきた。


「ゴリさン?」


「ガザンだ!」


 ガザンはサンの間違いを丁寧に訂正する。


「昨日は悪かったな。 俺たちが余計なことしたせいで」


 どうやら、昨日の騒ぎについて聞いたらしい。

 サンに目配せをした後で頭を下げた。


「いえ、大丈夫です。あなた達のおかげでサンも自信が付いたみたいで」


 ユキネはサンを見てほほ笑む。


「そうか、まぁなんかあったら言ってくれ。金が必要だったら俺がいい仕事紹介してやるからよ」


 ガザンは俺をみてにやぁっと笑う。

 え? どんなお仕事? 怖い。


「ところで、それだけ言いに来たんですか?」


「この辺にいい武器屋があるって聞いたもんでよ。来てみたらお前らがいたんだよ。どちらかといえばそっちが偶然だ」


 そういって、壁にかかっていた大剣を指さした。


「それは売り物か?」


 金額にして120万リウ。

 この中で、というか、恐らくこの市場の中で最も高いものであり、誰も買わないからと客寄せに壁にかけていたものである。


「は、はぁ……」


 ユキネが気のない返事をした。


「な、ローニと聞いてきた輩か? それは私達が買う物だ! 騎士が横入りか!?」


 ガザンの肩をつかんだ。

 しかし、びくりとも動かない。

 ガザンのステータスには2つほどAがある上、力はSだ。

 男達のステータスの数段上にいるので仕方ない。


「ローニ? 誰だ?」


 ガザンは俺の顔を見て首を傾げる。

 そして、合点がいったのか、大きく息を吐いた。


「銘に金など出すから、その程度なんだ…… マキト、その倍額出す。お前達もそれなら文句ねぇだろ?」


「倍額……いや、確かにその価値はあるかもしれんが……」


 どうやら男たちは渋々ながら下がってくれた。

 サンが大剣を外そうとしだしたので、俺は慌てて手伝う。


「120万リウ……」


「倍額で240万リウだな……さすがにそんな手持ちがない……」


 ガザンは少し首をひねった。


「今日の夜、デラーライボ通りの”赤い岩亭”という店に来てくれ。金を持っていく」


 どうしようか考えたが、ガザンが嘘を吐くようには見えない。

 騎士というのも嘘ではなさそうなので、信じても問題ないだろう。


「わかりました。では、本日夜にお伺いしますね」


 ユキネはにこりと笑った。

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