2:スキルとかいう奴
一歩城の外へ踏み出した俺の脳内にファンファーレが響き渡る。
そして、視界を偽装やら鑑定やら文字が流れている。
スキルとかいう奴だろうか……
とりあえず、鑑定とかいうの試してみるか。
って、どうすりゃ使えるんだ?
試行錯誤していると思考がスイッチになっていることに気が付いた。
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マキト アイクラ
ジョブ:実績蒐集家
筋力 C
魔力 C
耐久力 C
精神力 C
持久力 C
反応速度 C
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おいおい、これ俺のステータスか?
確かに、オラクル装置と同じものだ。
とそれと同時にまた脳内にファンファーレが鳴り響く。
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【実績が解除されました】
● 特技の初使用
――得手不得手があるのはいいが、そのなんだ……お前はいつも調子に乗りすぎる……
【実績解除ボーナス】
偽装C:任意の物体一つまで視覚的に隠すことができる。鑑定C以下にのみ有効。
鑑定C:生物のステータスを表示できる。
全ステータスが大幅上昇。
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またかよ。
頭が追い付かないぞ。
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マキト アイクラ
ジョブ:実績蒐集家
筋力 A
魔力 A
耐久力 A
精神力 A
持久力 A
反応速度 A
――――
また上がってるな。
俺は、自分のステータスを試してみたくなった。
そこで、俺は1本の木に目をつける。
幹の太さは俺三人分くらいが巻き付けるくらいの超巨大な樹だ。
「怖いなぁ、素手で物なんて殴ったことねぇのに」
俺は、ぐっとこぶしを握りこむと、そのままに大木を殴りつけた。
樹木が揺れて木の葉がゆさゆさと騒ぐ。
俺の予想した反応。
しかし、その予想は見事に裏切られる。
軽く殴ったつもりであったが木片が飛び散り、樹の半分が吹き飛んだ。
支えを失ったように樹が倒れたので俺は慌ててその場を飛び退く。
「なんじゃこりゃ!?」
残ったのはむなしく立ち尽くす切り株ならぬ砕き株と、下半身を失い倒れ込んだ大木。
「やりすぎだろ……」
俺は、自分の拳を見つめながらつぶやく。
と、上部からシュルシュルシュルという音が聞こえた。
上を向くと砕けた樹の枝が落下してきていた。
ごつっ
意外と痛い。
耐久力の意味!!
俺はあたりをきょろきょろと探す。
口元辺りに長い髭が2本生えた緑色の芋虫のようなものが見えた。
そういえばさっきの報酬で鑑定のレベルがアップしたはずだ。
芋虫を鑑定してみるか。
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グリーンワーム
筋力 D
魔力 G
耐久力 D
精神力 E
持久力 G
反応速度 F
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倒せるものだろうか。
俺はそんなことを思いながらふと自分の拳と砕け散った樹木を見比べた。
殴りつけた場合、どうなるにせよ結果的には悲惨なことになるのは目に見えている。
俺は手近にある石を拾うと投げつけてみる。
ビュンと手元で加速したかと思うと石は緑芋虫に直撃した。
と、次の瞬間バシャンという固体にぶつかったとは思えない音がして、緑芋虫ははじけ飛んだ。
脳内にファンファーレが響き渡り、初めて芋虫を倒してことを称えてくれた。
そして、その結果【防毒】と【発糸】というスキルを手に入れた。
防毒は、そのまんま身体を侵す毒を防いでくれるらしい。
発糸ってなんだ?
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発糸:身体から糸を射出できる
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いろいろやってみたが、こちらも説明文のままだ。
指先やら手首やら意図したところから糸が飛び出す。
その気になれば尻からも出せそうだが、試してみたくもない。
この糸は、粘度や硬度、長さなどにおいてかなり自由が利く。
俺は3メートルほど人差し指の先から糸を出した。
そして、それを樹木に向かって振るう。
スン、と手ごたえは一切なかった。
が、直後、樹木に斜めに線が入りその線から切り倒れる。
すぐさま、今度は全指から計10本糸を絞り出し振るった。
一本の樹は板になり、板は棒になり、棒はさいころになり、さいころは粉みじんに吹き飛んだ。
当面の武器はこれになりそうだ。
せっかく異世界なんだから剣とか弓がよかった……
贅沢言えないけど……
それにしても、この芋虫の髭は何かに仕えないだろうか。
ねちゃりという嫌な音を立てながら髭を引っ張るとまた解除ボーナスをゲットした。
鑑定、解体、そして闇箱というスキルだ。
鑑定と解体は予想が付くが、闇箱ってなんだ?
鑑定スキルで確認すると、どうやら収納系魔法らしい。
MPを消費するようだが便利そうだ。
さっそく使ってみると手元に黒い霧のようなものが発生した。
これが入口だと直感的に理解できる。
試しにと髭を放り込んだがMPに変化はない。
スキル自身の消費が少ないのか、重さや大きさで変化するのか不明だが、とりあえず、負担になることはなさそうだ。
何をするわけもないが、狩りをしながら森の中を歩いていた。
そのころには犬に似たモンスター、牙犬を狩ったおかげで手に入れた嗅覚強化のスキルのおかげで周囲の状況を把握するのが非常に容易になっていた。
だから、最初に奇妙な匂いを感じた時、即座にそれが危険なものだとわかった。
汗の匂い、血の匂い、恐怖の香り。
俺は周囲を見渡す。
視線の端に人工物が確認できた。
そして、そちらの方からその匂いが漂ってくる。
心臓が跳ね上がるが、強引に引き上げられた精神力のせいで俺はいたって冷静にその場所に近づいていった。
かなりぼろぼろになった家屋が点々とある、かつては村の様であったようだが人がいなくなって久しいようである。
そして、どぶの様な匂いが6つ。
それを発するのは小汚い毛皮を巻き付けたモンスターの様だ。
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ゴブリン
筋力 D
魔力 D
耐久力 G
精神力 E
持久力 C
反応速度 C
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そいつらは、唸るような声と身振りで意思疎通を図っているようだ。
そして、ある一団を取り囲んでいた。
人数は14、5人の子供たちの様である。
ゴブリンたちはそれらを舌なめずりするように見ていた。
少女の内の一人が、自身を壁にするようにゴブリンたちと相対しているが、その手にあるのは心もとないナイフが一本。
俺はブルリと震えた。身体を恐怖が襲ったのだ。
しかし、悩む時間はない。
ゴブリンの1匹が少女に飛びかかった。
俺は即座に糸を射出させると飛びかかったゴブリンを拘束する。
糸の中で暴れるが、お構いなく近くの壁にそのまま叩き付けた。
ごふっと呻いたようだが、それを確認している暇はない。
気が付いたゴブリンたちがこちらに走ってきたのだ。
そのうちの一匹が矢を構えると射かけてきた。
恐ろしい速度で飛来する矢だが、俺はそれを完璧に見捉えていた。
矢がうねっているのが高速度カメラで捉えているかのように明確に見えている。
俺は、それを眼前でひっつかむと、腕力だけで投げ返す。
次の瞬間、ゴブリンの頭に矢が生えた。
その間に残りの4体が迫ってきた。
ところどころ錆びた斧を持った4匹は、かわるがわる俺に飛びかかってはそれを振るう。
俺は、回転するようにそれらを避けながら、一匹の頭部に回し蹴りを撃ち込む。
ごっと頸椎が折れる嫌な感覚が足を伝わるが、気にしてはいられない。
それに気を取られて斧が叩き込まれる愚を精神力が許してはくれない。
ついで飛んでくるゴブリンの胴に足裏を叩き込み距離を開けると右手五指から発した糸で絡めとり、飛びかかってきていた2匹に激突させた。
ギュウだとか、ギャアに似た悲鳴を上げながらぶつかり合う3体を左手五指から発した糸でまとめて絡めとると強く引き絞る。
ずりゅっという感覚の後で3匹は血煙に変わった。
恐ろしいと思った感覚はもうない。
恐怖だとか、罪悪感だとかそういう心の動きや感覚がすぐにニュートラルに戻る、そんな違和感を覚える。
「俺は何になっちまったんだろか……」
立ち尽くしていると少女の一人が駆け寄ってきた。
さっきゴブリンたちの前に立って他の子どもたちを守ろうとした白銀色の髪をした少女だ。
すらっとした四肢で薄汚れているものの美しいことは見てとれる。
日本の渋谷辺りにでも放り込んだら、すぐにでもスカウトされること請け合いだ。
「助かりました! ありがとうございます!!」
そんな少女は、そういってぎゅっと俺の手を取ると強く握った。
その手はじっとりと汗ばんでいて細かく震えている。
「あ、いや、えっと…… お加減いかがですか?」
「お加減? 怪我ですか? 怪我はみんなありません!!」
うるりんとした深い緑瞳が俺の目を瞳を射抜く。
こんな目を真正面から受け止められる男などいるでしょうか。
「うぇっへっへ」
自分でも気持ち悪い笑い声をあげながら眼球が勝手に明後日の方向に動いていく。
かなり成長した精神力だが、DT力よりはまだ弱いらしい。
しかし、それだけではない。
粗末な布をまとっただけの女性らしい体つきをした少女の胸に俺の手がぐいぐいと押しあてられているのだ。
「手が……」
俺は絞るように声を出した。
俺の言った意味が分かったのか、少女は耳まで真っ赤にしながら俺の手を放して頭を下げる。
耳が奇妙にとがっているのは、あれか? エルフかなんかなのか?
「ごごごご、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ、ごめんなさい。それより何かあったんですか?」
俺は手を後頭部に置きながら少女の話を聞き始めた。
●ワームキラー ――毛虫だって芋虫だって青虫だって生きてたのにな……
⇒ワーム系の魔物を10体倒した
【発糸】体の任意の部分から糸を射出できるようになる
●収集癖 ――ただでさえお前さんは手一杯なのに、まだ何かを集めるってのか?
⇒初めて魔物から素材をはぎ取った
収納:謎の空間が現れて物を収納できる。
鑑定S:物・人の本質を鑑定する。偽装を無効化できる。