表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/74

18:食べ物の恨み

 俺たちの屋台の行列に男たちが割り込んできた。


「散れ! 邪魔だ!!」


 4人組の男だった。

 そのうち三人は、腰に剣をぶら下げている。

 そして、並んでいた列を乱暴に散らしながらこちらに歩いてきた。

 乱暴ごとに長けていそうな3人とは別の気難しそうな眼鏡をかけた男がユキネを見つけて声をかける。


「おい、貴様が店主か?」


 ユキネは何のことかわからず、目を白黒とさせる。

 俺は、ユキネの前に立った。


「責任者は俺だ」


 眼鏡の男は、俺を値踏みするようにつま先から頭の先まで視線を泳がせる。

 残念ながらお眼鏡には適わなかったようだ。

 ハンっと鼻で息を吐いた後で憎々しげな表情を浮かべる。


「小汚い。よくこんな店で飲食物など買うものだ。だから騎士どもというのは野蛮なのだ」


「何かようですか? こっちはお客さん待たせてるんですがね」


「客ね……」


 男は後ろを見た。

 不満爆発と言わんばかりの客全員に視線を送った後で声を張り上げた。


「私は帝国貴族ドランザ様の使いのルドブだ! 文句があるものは進み出よ!!」


「ドランザだって?」

「帝国の大貴族じゃないか……」

「何しに来たんだよ」


 列に並んでいた奴らがぶつぶつとつぶやいている。

 俺はそいつらのステータスを確認する。

 ルドブに関しては特筆すべき点はない。

 残りの三人は剣士が2人と魔術師が1人である。

 魔術師は魔力がAとなっていて、恐らくは手練れなのだろう。

 他の数値も剣士に比べてそん色がない。

 大貴族の使いとしては申し分ないステータス、なんだと思う。

 その辺は詳しくないからわからない。


「ふむ、そのお客さんとやらに文句はないようだ。貴様は気にしなくていい」


「文句を握りつぶしたんじゃないか」


 俺は聞こえるように言ったが、そんなことなどお構いなしにルドブは話し始めた。


「貴様、これはなんだ?」


「ピザ」


「ふむ、質問を変えよう。これは何を使って作っている?」


「えっと、小麦? じゃないな。森に生えてたなんかの穀物だ。毒はないぞ。俺たちはよく食ってる」


 あったとしても俺には効果はないだろうが。


「ふむ、その穀物を粉にしたのか。勝手に」


「……勝手に?」


「そうだ。帝国では粉晩権(こなひきけん)とその粉の専売権が認められている。そして、この商国レイグラードでの両権利はドランザ様が所有している」


 つまりどういうことだってばよ。

 ルドブは汚いものかのようにピザをつまんだ。


「勝手に挽いた粉を使い、勝手に食べ物を作ってはいけないんだよ。つまり、お前たちのこのピザ? とかいうものは違法だ」


 そういってピザを地面に捨てると踏みつぶした。

 それに倣うかのように男たちが残っていたピザを地面に捨て始める。

 慌てたユキネとサンを俺は制した。


「貴族様は食べ物を粗末にしちゃダメって聞いたことないのか?」


「貴族が守るのは法と秩序だ」


 ルドブはあらかた屋台の上が片付いたのを確認するとピザをつまんだ指先を屋台の柱でこすり汚れを落とす。


「きれいになったな。よいか? これで終わらせるのは慈悲だ。次はないと思え」


「そうですか。ならお礼を差し上げますよ」


 地面に落ちていたピザが一斉に空中へ浮かび、そして襲い掛かる。


「わっぷ! なんだこれは!!」


「食べ物の恨みじゃないですか?」


「貴様何かしたのか!!」


 ルドブは俺を指さして叫んだ。


「どうやって?」


「魔法だろう!! こんなことができるとしたら!!」


「証拠は? その魔術が発動する瞬間を見た人は?」


 俺はあえて挑発的にルドブを見た。

 そして、その視線をわかりやすく魔術師に送る。

 ルドブはそれにつられるように魔術師を見た。

 魔術師は怯えたように首を横に振る。


「あなた、魔術師だったんですか? いや~初めて見た。さて、大貴族様のお連れの方が見破れない魔術があるんだったらそれ、魔術じゃなくて偶然じゃないですか?」


 俺はそして、くそでかい溜息を一つついた。


「言いがかりはやめてください。俺たちが悪かったのは認めますから。それにしても皆さん、小汚いですね」


 俺はニヤリと笑う。

 周りの奴らもくすくすと笑いだした。


「くそ! 笑うな! 笑うな!!」


 ルドブは顔を真っ赤にしながら踵を返して歩き出した。

 と次の瞬間、ルドブのはいていたズボンがずるりと落ちる。

 そしてそれに、もつれてすっ転んだ。

 周囲の人間は限界だった。

 どっと笑いが起きる。

 ピザもズボンも俺が糸を使って引き起こしたわけだが、魔術と思っているせいか。

 それともそれだけの力量がないのか気が付いていないようだ。


「落ち着いてください」


「くそ! 覚えてろよ!!」


「覚えろと言われても身に覚えがありませんから」


 手下に肩を借りながらルドブは遠ざかっていった。

 恨むなら世界一食べ物についての恨みが根深い民族にケンカを売った自分を恨め。

 振り返ると、サンがうつむいている。


「ピザ……」


 肩を震わせ、今にも泣きだしそうだ。

 俺は、頭をぽんぽんと叩いてからできるだけ明るい調子でしゃべった。


「みんな喜んでたな」


 俺はそういって、客の方に視線を送る。


「面白かったわ。また来てね」

「今度こそ食わせろ!! 待ってるぜ」


 口々に礼を言ってから去っていく。


「また作りに来ような」


「うん」


 サンはそういって俺に抱き着いた。

 俺もそれにこたえて抱きしてめてあげる。


「とりあえず、片づけて帰りましょうか」


 ユキネは、それをみてから微笑むと掃除を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
是非よければこちらも

忍者育成計画
https://ncode.syosetu.com/n7753es/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ