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17:ローランド・ガザン

 屋台を引いて数十分。

 たどり着いたのは大通りから少しそれた露店市場であった。

 本当は場所取りなどが大変らしい、のだが、ここはそれほど混んでいないので、すんなりと屋台を開けた。


「それを売りたかったのか」


 サンがコクリと頷く。

 手にしていたのは、以前作ったピザである。

 朝方にこっそりと作っていたらしい。


「私の料理を食べてもらいたい」


 サンはそういって、フンスと鼻孔を広げる。

 値段は近所で売っていた謎の麺類に合わせて300リウにしておくか。


「おい、こりゃなんだ?」


 店を開けてから、少しして男が2人来た。

 1人は顔に大きな創をつけた大男である。

 騎士っぽい身なりをしているが、その服の下には分厚い筋肉があることは容易に想像がついた。

 もう1人は、痩身だが、しっかりとした体付きをした色男である。

 サンがあんぐりと口を開けたまま、創面の男を見上げている。


「おい、この娘、大丈夫か?」


「やめなよ、こんな子供をいじめるなんて。かわいそうに」


「待てよ、俺は何もやってねぇぞ」


 大男が慌てたように抗議をする。

 色男の方はその様子をニヤニヤと見ていた。


「す、すいません。その子、あまりヒトになれていないもので」


「いいの、いいの。この男の悪人面が全部悪いんだから」


「んだと? 刻むぞ、コラ」


 大男の顔がひずむ。

 それを見てサンは震え上がった。

 目には涙を思いっきり溜めている。


「ほらほら、かわいそうに。ごめんね、このゴリラは別にとって食ったりしないから安心して。ほら、スマイル、スマイル」


 大男は、ング、と唸ったがサンの表情を見てそれを飲み込む。

 そして、口角を引き上げた。


「悪鬼羅刹の方が気の利いた笑顔だね」


 色男が爆笑した。

 少し間を押してサンも笑う。


「ったく。俺は帝国騎士のガザンだ。そして、このクソッタレが……」


「私はローランドだ。偶然にも私も騎士をしている」


「あ、私はユキネといいます。こちらの方がマキトさんです。そして……」


 ユキネは自己紹介に答えるとサンに視線を送った。


「さ……サンです」


 そういってサンはペコリとお辞儀をする。


「サン、いい名前だ。ゴリラが失礼したね。こいつが、これをいくつか買うから許してくれ」


 命令するなとゴリラ、もといガザンは呟きながら、懐からコインが入っているらしい袋を取り出した。

 来る前にコインの種類はオレーシャから聞いていたので問題ないだろう。


「3つくれ」


 サンは助けを求めるように俺をみるので、耳打ちする。


「きゅ、900リウです」


「よかったのか? サンちゃん。別にその5倍くらいふっかけてもよかったのに」


「うっせぇ。千リウだ。釣りはいらねぇよ」


 ガザンは1枚のコインを突きつける。


「いい? きちんと確認するんだ。偽コインだったら側面の意匠(デザイン)がないから。あ、今日はきちんとあるね」


「黙ってろ、もらうぞ」


 そういってガザンはピザを3つつかんだ。

 そして、その内の1つにかぶりつく。

 

「うまい!」 


 ガザンはかぶりついたピザを一瞬で食い終わる。


「ほう、一個くれよ」


「ヤダね」


 そういうとガザンは2つめにかぶりつく。

 うまそうなそれを見てローランドは舌打ちをした。


「私も1ついただこう」


「……ありがとう」


 サンはお辞儀をすると、1つ手渡す。


「ふむ、これはパンか? いや、それにしては膨らみが違うな。乗っているのは野菜と肉と……白いのはなんだ?」


 そういってローランドは一口。


「本当にうまいな。香ばしい脂の香りと、甘さ。それを野菜がさっぱりと引き締めている。そして2つの感覚をこの白いものがまとめている……」


 ローランドはぶつぶつとつぶやいている。

 何を言っているんだ、こいつは。

 一方、褒められたことがよほどうれしいらしく、サンは目をキラキラとさせている。

 尻尾が生えていれば、ぶんぶんと振りまわしていることだろう。

 代わりに俺が頭をなでてやる。


「まだあるか?」


 ガザンがピザを持てるだけ買い込む。

 帰りの段になって、それまで俺のことなど気にした様子のなかったローランドが意味ありげな視線を送ってきた。


「君、どこかで会ったことある?」


「いや、ない、と思いますけどね」


 辺りの気温がガクッと下がったかのような錯覚。

 ガザンの方はそんなことなど気にしていないかのようにピザを持って立っている。

 しかし、匂いでわかる。

 いつでも腰の剣を抜けるように準備している。

 そう、戦闘態勢に入った獣と同じ匂いを立たせている。


「質問を変えよう。何の目的があってここに来た」


「商売」


「……」


 ピリピリとした感覚。

 獣との立会では味わったことのない感覚。

 あの奴隷狩りたちとの戦闘でもここまでひり付いたことはない。


「やるのか? やんねぇのか? どっちでもいいぞ」


 ガザンはつまらない二択問題でも解くように言い放つ。

 ローランドの気が膨れた。

 俺は脚に力をたくわえる。

 が、その均衡は奇妙なことで崩れた。


「ありがとう、また来てね」


 その状況に気が付いていないサンだ。

 恥ずかしそうにうつむきながら2人にそういう。

 それに合わせるようにローランドの気がしぼんでいく。


「悪かったな。一目見ればわかる……君は強い。もしも、良からぬような者であれば斬ろうかと思ったのだがな。エルフにここまで懐かれてるヒトは久しぶりに見た」


 そういってニコニコと笑うサンを見た。


「……?」


「私の母はエルフなのだ。エルフ狩りで奴隷に落とされた、な」


「私達は……マキトさんの奴隷ではありません。マキトさんは私達を助けてくれてるんです!」


「そのようだ。失礼した」


 ローランドは頭を下げる。


「おいしかったよ、また食べにくる。先ほどの詫びにここの宣伝もしておくよ」


「おう、マキトとかいうの。もし、なんかやるんだったら俺の前でやれよ。せっかくだったら俺とやろうぜ」


「ふん、ゴリラのダンスなんて誰も見んだろう」


「てめぇ、戻ったら修練場にきやがれ!!」


 そういって二人は去っていった。


「はふぅ……緊張しました……」


 ユキネは腰を抜かしたかのように座り込んだ。

 ユキネは、俺とローランドが一触即発の空気にあてられてしまったようだ。

 俺は、笑いながら肩を貸して、木箱に座らせる。

 そして、それが最後の休憩となった。


「まだか!!」

「もうなくなるんじゃないの?」

「俺の分も残してくれ!!」


 昼を過ぎたあたりで大量に客がやってきたのだ。

 恐らくローランドの言う広告という奴なのだろう

 どんどんと増える人に俺たちはてんやわんやとなる。


「マキトさん! それ取ってください!」

「疲れた……」


 屋台の裏でてんやわんやとしていると、店の表で怒号が聞こえた。


「どけどけ! おい! 店主はいるか!!」

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