16:よからぬこと
商都レイグラード。
俺は初めてこの世界の「街」というものを見た。
召喚された城と同様に『中世ヨーロッパ』を絵にかいた感じだ。
石畳の上を馬車がさっそうと走っていく。
「ユキネ、きょろきょろしない。お上りさんだと思われたら一瞬でやられるよ」
「やられる!? ヒトの街は本当に怖いですね」
ユキネが自分を抱きかかえるようにして顔を青くする。
そんなこんなしながら、俺たちはローニに紹介されたドワーフの工房にたどり着いた。
声をかけると、ローニ同様に長身で髪の短い女が対応してくれた。
「えっと、初めまして。あなた達、同士ローニが言ってたエルフとヒトかしら?」
「はい、えっとこれを」
そういって、ローニが打った剣を見せる。
「間違いないわね。同士ローニの打ったものだわ。私はオレーシャ。ローニの姉よ。よろしくね」
そういって握手を求めてきたので俺はその手を握る。
ユキネもそれに続いた後で、奥の部屋に通された。
「お茶でいいかしら? エルフのお口に合うかはわからないけど」
そういって、茶器を準備していく。
「オレーシャさん、ローニさんとは似ても似つかないですね」
「まったくだな」
俺たちが類似点を必死に探していると、オレーシャは俺たちの分のお茶の準備を終わらせる。
そして、一つの瓶を机に置いた。
「二人ともお酒入れる?」
俺たちの返答など聞くこともなく、自分のコップになみなみと注ぐ。
「……いえ、結構です」
「……大丈夫です」
◆◆◆
「ということは、この街で行商がしたいということ?」
「はい。露店であれば商権? がいらないとかで……」
「あぁ、退勤稼がなきゃ税金を取られないで済むんのよ。2、3日売るくらいなら問題ないわ。この街もそのくらいは黙認しているのよ。お目こぼしした方が街の発展にはいいのかしらね」
枯れ木も山の賑わい、とかそんなもんなのだろうか。
「まぁあんまり派手にやってると取り調べ受けるだろうけどね。あ、奴隷なんかは奴隷販売権が必要だったはずだけど……私達ドワーフは金物くらいしか商売してないから、詳しいところはわからないわ。ごめんなさい」
そういって、ぐいっとコップを空け、またなみなみと酒を注ぐ。
「私達が使ってた一式貸してあげるから、適当にやってみるといいわよ。なんでも経験してみるのはいいことだしね。同士エゴールいるかしら?」
その声に反応して一人の男が入ってきた。
短髪で立派な髭をたくわえていて、そして全身に筋肉をまとった男である。
俺とユキネをみて、ウィンクすると胸筋をピクピクとさせた。
「どうせ、話は聞いてたんでしょ?昔使ってた屋台を整備してあげて」
「同士オレーシャ、俺たちはいつだって準備万端にしてるもんだろ? もう、いつだって発射寸前さ。窓の外に準備してある。君達にはちょっと豪華すぎるかもしれんけどな」
そういって豪快に笑う。
そこにあったのは、古びた屋台だった。
豪華、業かというにはほど遠いような気がするが、まぁいいか。
「ところで、この娘は君達の同胞か?」
エゴールは、そういうと背中の後ろからサンが出てきた。
「サン!? どうしてここに?」
「うん、荷車の中に隠れてたの。私も街に行ってみたくて」
「いや、言ったら普通に連れてきたのに!!」
「でも、フウが『あの二人は良からぬことを考えてるから黙って隠れていくんだよ』って。あ、『僕が言ったってのは内緒ね』ともいってた」
よからぬことってなんだよ。
「全くフウったら帰ったら……ふふふ……」
ユキネの動向が開いているような気がするが、見なかったことにしよう。
「迷子じゃないならよかった。さて、今日はどうするかい?」
「う~ん、今日の宿を探して……」
「宿? この街は高いぞ?」
「いかほどで?」
「3人、いや、その子はただだとしても、5千リウといった所かな?」
「5千リウ!?」
なんと……俺達の手持ちはローニが買い取ってくれた剣の前料金4千リウである。
俺たちの焦り具合を見てオレーシャはニコリと笑った。
「この工房に泊まるといいわよ」
「いいんですか?」
「いいわよ。どうせ、元々大所帯だし。3人増えたところで誰も気にしないわ」
「ありがとうございます!」
俺とユキネが頭を下げた。それを見てサンも続く。
「今日は、観光でもしてくるといいわ。さすがにすぐには動けないだろうし」
「そうですね……」
と、俺の視野の端の方でフルフルと何かが動く。
サンのツインテールがフルフルと振れている。
「私、売りたいもの作ってきた。今日売らなきゃダメ」
「売りたいもの?」
「なんだ、そんな急いでるならそうだな……ここのそばに露店市場があるからいってみるといい。人通りは少ない代わりに場所取りはしなくても空いてると思うよ」
「それでいいか?」
「うん」
俺はユキネに視線を送ると、頷きで返してくれた。
「ありがとうございました。とりあえず、行ってみます」
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