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13:ピッツァだ!

 食えるのか食えないのかわからない。

 そんな麦や稲に似た穀物を見つけたのは昨晩だ。

 俺はとりあえず刈れるだけ刈って持ち帰った。

 のはいいものの……どうしようか。


「これ、本当に食べられるんですか? ポチとハチの餌じゃなくて?」


「えぇ、食べられるはず……なんだけど」


 ライウがぶんぶんと振りまわして遊んでいる穀物を、ユキネが心配そうに眺めている。

 俺の世界で穀類っぽいものに毒があるとは聞いたことはない。

 うん、この世界は俺の知ってる世界じゃないから、そんな常識通用するかどうかなんてわからないけど。

 俺は記憶を頼りに、脱穀のマネをしてみる。

 木の臼と木の棒でゴリゴリとやっていると何とか中の身だけを取り出すことに成功した。


「これを水で煮ていけばいいんですか?」


「えぇ、たぶん……」


「ライウがやるぅ~」


 そういってライウは(かめ)を持って歩いていく。

 とりあえず、火を通せばどんなものでも食える、というおばあちゃん的発想である。

 毒見はするけど……俺じゃ役に立たないんだよな……


「こんな感じかな」


 俺はライウから瓶を受け取ると木の器によそう。

 見た感じはぐずぐずに崩れた粥の様である。

 一口食べてわかる、おいしくないやつや。

 と思ったのだが、エルフからするとそうでもないらしい。

 いつの間にか、ライウがその粥を勝手に口にしていた。


「おいしいね、これ。なんかベトベトするけど」


「勝手に食べるんじゃありません!! 毒あったらどうするんだ!!」


 俺は慌ててライウから木匙(スプーン)を奪い取る。

 と、そのスプーンを今度はフウが奪い取って粥をすくうと俺の動きよりも早く粥を口に運ぶ。


「おいしー!!」


「ホントか? 二人とも身体に変な感じないか?」


「ないよー」

「ない!」


 俺はほっと無でをなでおろす。

 それに食えるようだ。

 こいつはありがたい。

 水辺に生えていたことを考えれば、田んぼみたいなのを作ったほうがいいのだろうか。

 しかし、最大の問題点は……


「ホントにおいしいと思ってる?」


「うん、おいしいと思うけど……兄ちゃんおいしくないの?」


 こっちの世界、特にエルフは食に対してどん欲だ。

 しかしそれは、俺の思うものとは別の意味で、腹に入ればみな同じという意味だ。

 日本人としては、圧倒的にうま味が足りない。

 そして、塩気も足りない。

 これはただの病人食である。

 梅干しが欲しいけど……あれどうやって作るんだっけ。

 まぁ、ないものねだりをしても仕方ない。


「兄ちゃん、その肉と魚は焼いて食べるの?」


 フウが涎を垂らしながら俺の手元を見ている。

 それは、塩漬けにしたイノシシ肉と川魚だ。

 どちらも寄生虫が怖いのでとりあえず、塩漬けにしてみた。

 しかし、それでも怖いものは怖い。やはり火は通すか。


「いや、今回は鍋の中にぶちこむ。ライウは火を見ておいてくれ。フウはこっち来て手伝え」


「僕もこっちがいい!」


「ダメだ。お前ライウそそのかして食うだろ」


「ちっ」


 舌打ちをやめぃ。


「で、僕たちは何するの?」


 俺は、川から拾ってきたくぼみのある石の前にフウを座らせる。

 そして、そのくぼみに謎の穀物を入れると、フウに棒を握らせた。


「これが粉になるまでゴリゴリしてなさい」


「え?」


「粉になるまで擦り続けなさい」


「兄ちゃん……本気?」


「ホンキー。それか狩りどっちがいい?」


「……こっちの方かなぁ」


「さぼったら飯抜きな」


「えぇぇぇぇぇ!」


◆◆◆


 夜になって俺は粉ひき係をフウから引き継いでいた。


「マキトさん、それどうするんですか?」


「パン……とか?」


「パンですか! 昔ヒトが作ったのを食べたことありますけどとってもおいしかったです!! 作り方を知ってるんですか?」


 ユキネが目をキラキラとさせて俺を見る。


「安心してください。俺も知りませんから」


「なんですか、それ」


 ユキネはそういってくすくすと笑う。

 俺の知識からすると『イースト菌』が必要なはずだ。

 そんなもん、どうやって見つけりゃいいんだよ。

 ごりごりと削りながら思考をめぐらす。

 なんかいいものはないかなぁ……


◆◆◆


 翌朝、顔を洗っていると、服の裾をぐいぐいと引っ張られた。

 そこにいたのはサンである。

 エルフの子供にしては言葉少なな少女だ。


「ミルクが……」


 その妙にじとっとした目に涙をいっぱいに溜めながら俺に革袋を突きつけた。

 どこかで匂ったことがある香りがする。

 俺が革袋を開くと、中には白い塊が入っていた。


「ミルク入れてたの。そしたらね、臭くなった……」


 いや、臭いってかこの匂い……

 俺はその白い塊を指ですくう。

 そして、そのまま口に運んだ。


「マキトお兄ちゃん!! お腹壊しちゃう!!」


 サンが目を見開いた。

 それと同じく俺も目を見開く。


「うま!!」


「え?」


「サン! よくやった!! これチーズだ!!!」


 俺が指にもうひとすくいするとサンの目の前に突き出す。

 サンは、くんくんと匂いを嗅いで、少しだけ嫌そうな顔をしたが、ぱくりとくいついた。


「おいしぃ……」


 そういいながら、俺の指をちゅぱちゅぱとなめ続ける。

 俺から出汁でも出てんのか?

 と、それと同時に脳内が発火する。


「もっとうまいもん作ってやる」


 俺は、挽いた粉を水やら塩やら適当に入れてコネコネし始めた。

 出来上がった生地を平たく丸く伸ばす。


「何を作るの?」


「ピッツァだ!!」


 俺は、ツァの発音に力を込めていった。


「なんかその言い方ムカつくね」


 じとりとした目がたまらない。

 はっ、何を考えてるんだ俺は。


「ピザだ。さっきのチーズと、あと適当に野菜持ってこい!」


 ローニの炉を適当に改良して作ったカマを使い焼き上げると、出来上がったのは夏野菜――なのか不明だが今日の所はそうしておく――ピザ。


「すごい! パン……じゃないんですよね?」


「えぇ、ピッツァです」


「兄ちゃん、子供たちがマネするからそのどや顔やめて」


「えぇ、そんなどや顔だった?」


 ピザは好評であっという間になくなった。

 ピザはうまいからなぁ。

 と、ライウがサンを連れてやってきた。


「お兄ちゃん。ピザおいしかったよ。ね、サン」


「うん……」


「ほら、サン。お兄ちゃんにお願いがあるんでしょ?」


「お願い?」


 サンは、コクリとうなずいた。


「私もピザ作りたい……私にもできる?」


 眉をひそめて首をかしげる。

 俺は思わずその頭をぽんぽんとしてしまった。

 柔らかい髪の毛がくしゃくしゃになったので手ですいてやる。


「いいぞ。サンがいなかったらできなかったかもしれないしな」


 サンは嬉しそうに笑った。

 この笑顔を思い出せば、その後一週間ほどまったく同じピザが続いたことについて、思うところはない。

 思うところはないのだ。


条件達成の文章とか考えてるけど、間に合わんね

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