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10:もう黙っててくれ

 秋になって植えていた作物がいくつか実をつけていた。

 ホント適当に植えているので、いつか農業経験者にでも聞かないとやばいことになるのは目に見えている。

 連作障害なんてのがあることは知っていても、条件やら対応策なんやらは全く不明だからだ。

 なんとかしないとなぁ、という不安もあるがそれ以上にうれしさが勝っていた。


「祭りをしよう! 収穫祭だ!!」


 俺は飯を食っているみんなの前で提案する。

 子供のうち数人が目をぱちくりとさせて、残りは目を見開いた。

 きっと俺の素晴らしい案に心を打たれているのだろう。


「えっと、何やるんですか?」


「祭りと言えば踊りだな。そうだ、こんなのどうだ?」


 俺は、手を頭の上に置いて振り付けつきで熱唱する。

 ワイは猫や、猫なんや!!


 ――みんなでおどろう、にゃんにゃんにゃん――


「お兄ちゃん、私、そんなの踊りたくない」

「兄ちゃんはそれをママの前で踊れるの? ライウには無理だよ……」

「気持ち悪い……」

「兄ちゃん、僕に近づかないで」


 絶対的拒否感。


「マキトさん……私たちの村に続く祭りの歌がありますからそれじゃダメですか……」


「それでいいです……」


◆◆◆


 翌日、俺はユキネと2人で狩猟に出かけていた。


「俺の歌、どこがダメだったんですかね?」


「どこが、というか、なんというか…… 私は嫌いじゃなかったんですけどね。えっと……あの歌は、いつから考えてたんですか?」


「もう、麦の穂に実がなったときから……」


「そ、そんなに前から……」


 ユキネは、なぜか困ったように笑った。


「きっと、私達とセンスが違うんですよ! だから、ちょっと私達にはわからないのかな?」


「わからなかったんですね……」


「な、泣かないでください…… 私達、一所懸命に歌いますから。小さい時からみんな練習してるんで、気に入ってくれると思いますよ!!」


 ユキネがことさら元気にいうので、俺もつられて笑ってしまう。

 ユキネの歌、すこし、いやすごく気になる。


「あの、もし良かったら歌ってくれませんか?」


「え? ここでですか!?」


「ぜひ!!」


 ユキネは恥ずかしそうにもじもじとする。

 覚悟を決めてくれたのか、背負っていた弓を下ろした。

 が、それよりも先に俺がユキネの動きを止める。


「何かいます……」


 俺はユキネに小さく声をかける。

 ユキネはまだ気がついていないようだが、俺の嗅覚が違和感を感じとったのだ。


 それは、糞便を煮詰めたようなとてつもなく臭い生物だった。

 しかし、それは本物の匂いではない。

 本当の匂いは革の匂いと鉄の匂いだ。それを覆うような腐臭。

 走り向かったその先で、その匂いの下を見つけたユキネは、顔を曇らせる。


「あいつら……奴隷狩りです……」


 そこにいたのは5人の男達。

 ユキネが奥歯をギシリと鳴らせる。

 その怒りに震える横顔、何か言わないと。


 そんなことに囚われていた一瞬、ユキネはガサリと立ち上がる。

 その手には矢をつがえられた弓。

 しまった、後悔するには遅すぎる。

 ヒュッと一発風切り音。

 次の瞬間、男の内の1人の男の頭が爆ぜた。


「離してください!!!」


 二の矢を邪魔するために掴んだ俺の手をユキネは引きはがそうと掴み叫んだ。

 しかし、俺はその力を緩めるわけにはいかなかった。


「見ろ! エルフだ!!」

「こっちに逃げてるってのは本当だったな」


 仲間が1人死んだ。しかし、男達はうれしそうにユキネを見て剣に手をかける。

 なぜ男達から胸糞悪い腐臭がしたのか。それが品性の臭さだと気がつく。


「あなたは、子供達のために族長になったんじゃないんですか!!」


 俺の嗅覚は、恐らくこの奴隷狩りの別のグループの匂いを嗅ぎつけていた。

 すべてが、吐き気を催す邪悪な香りがしている。


「でも!!」


 もしも、この女に殿(しんがり)を任せたら、平気で死ぬまで戦い続けるだろう。

 それを俺は許せなかった。


「子供達の所に行ってください。俺がここを持たせます」


 俺は返事を聞くことなどしなかった。

 それより先に走り出す。

 ユキネがここを離れていくのを気配だけで感じながら、男たちの塊に突っ込んだ。


「ガキがなんの用だ? 人間の糞餓鬼なんかいらねぇよ」


 矢が射かけられる。

 何のことはない。避けることは可能だ。

 が、その時間も惜しい。俺は、眼前に来るそれをひっつかむ。


「バカな!」


 弓を構えていた男が、目を見開く。

 が、即座に立て直すと、再度射かけてきた。

 それに合わせるように左右から剣が振るわれる。

 左から来た男の顔面に掴んでいた矢を叩き付ける。プフッという皮膚がはじける感覚。血飛沫が舞う。

 俺はそれを浴びながら回転すると、右側の男の胸倉をつかみ俺の眼前に引きずる。その背中にドスッと矢が突き立った音。

 男が痛みか恐怖からか、目を見開くが、無視するようにそばの樹に叩き付ける。

 そして、矢を放った男に走り出そうとしたところで頭上からナイフを持った男が降ってきた。

 恐らく、気配を消していたのだろうが、俺の嗅覚はすべてを察知していた。

 俺にナイフがぶつかる直前に、進行方向を変更させる。


「へぁ?」


 男が素っ頓狂な声を上げた瞬間、その脇腹に拳を叩き込む。

 それを隙と見たのか、背後から気配が一つ。

 俺はそれを見ることなく、回し蹴りよろしく靴裏を叩き込んだ。


「ひ……ひぃぃぃぃいいぃ!!」


 4体の人間だったものを眺めて、弓を構えていた男は矢を取り落とす。

 そして、振り返ると走り出した。


 叫び声をあげ、何かを喚きながら走るそれを見ながら、俺は心の底がどんどんと冷たくなっていくのを感じていた。

 この世界に来てから、半年くらいたっただろうか。

 魔物を殺し、獣を狩った。


 俺は指から糸を作り出す。

 手首の振りの反動を利用して飛ばすと、その男の足首に巻き付けた。

 男がすっころんで顔面から地面にぶつかる。

 その男は逃げようと這いずるが、俺はお構いなしに糸を手繰り寄せる。


 この世界では命のやり取りというものは日常だった。

 殺したり殺されたり、奪ったり奪われたり。目の前に転がるものだ。

 そうだ、これは当然のことなんだ。


 殺されないために、奪われないために……


 目の前まで引きずってくると、男は泣きながら何かをしゃべっていた。

 恐ろしいほど俺の頭は冴えている。男の一挙手一投足が手に取るようにわかる。

 が、男が何を言っているのかわからない。


「もう黙っててくれ。急いでるんだ」


====

●同族殺し  ――本当にそれしか道はなかったのか? お前たちは仲間なんだろ?


《畏怖:対同族》同族へ恐怖を与えやすくなる

反応速度大幅上昇

====

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