1:ステータスオープン
「おい、起きぬか。おい」
体を揺らされている。俺は寝てるのか。
いたしかたなく目を開けた。
「まぶし……」
おかしいな、俺は学校で寝ていたはずだ。
こんな、まぶしいわけないんだけど……
目を思いっきり細めながらおもいっきり伸びをしたところ、後ろの何かに手が触れた。
「何をする」
「うぇあ、す、すいません」
慌てて振り返ると、そこには老人が立っていた。
緑色のローブを着込んだ老人は、俺の手があたったらしい頭部をさすりさすりとしながら俺をじっと見ている。
しかし、それは怒りからというよりも、値踏みをしているようであった。
老人と目をあわせているのがいたたまれなくなった俺は、辺りを確認する。
そこは、体育館よりも少し狭い、やけに煌びやかな内装の部屋であった。
そこにいる人間で、理解できる分としては、俺と同じく制服を着込み、不安そうにきょろきょろとしている女三人と、男が一人。
全員、俺が通っていた高校のクラスメートだ。
男はクラスのイケメン、学力、スポーツと三冠王を取っている赤坂 賢である。
そして、賢は怒りにも似た目で、剣を腰にはいた男達をにらみつけていた。
その後ろには、白いローブを着込んだ女性が一人立っている。
「ここはどこだよ!」
賢は、大声で叫んだ。
まったくその通りである。
学校に、というか俺の生活圏にこんな場所はない。
「うるさいやつだ。ほんにこの者たちが勇者なのですかな?」
「えぇ、ご神託によれば……」
ローブの女性は、困ったように持っていた赤に金の装飾の入った豪華そうな本をぱらぱらとめくっている。
「まぁよい。主たちすまんの。実は主たちに頼みがあってな」
頼み?
老人によると、この場所は神聖ラーナ帝国というらしい。
そして、ヨキト王国との戦争中に突然魔物が大量に発生する森が国家間に現れて、存亡の危機に陥っているそうだ。
うん、なんとなく予想ついてたけど、これあれだよね。
「ヨキト王国との戦争、そして国境にできた森を制圧してもらうために主たちを召喚したのじゃ」
やっぱりね!
異世界に召喚されちゃってるよ。
「嫌だよ! どうして私たちが!! 家に帰してよ!!」
ショートの黒髪の女、黒井 夏希が叫んだ。
まぁ、無駄だろうなぁ。
「無理じゃ。帰るためには手段は敵国の最奥部にある魔石を使わねばならん」
ほら。
「でも、そんなの私たちにできるわけないじゃん!! ただの女子高生だよ!!」
金髪のギャルチックな女、金森 亜紀がその場に座り込んでしまった。
「安心せい。主たちを呼んだのは偶然ではない」
「主たちって…… あいつ誰だっけ?」
亜紀が俺を見て首をかしげている。
「クラスメートの人ですよ。えっと……ほら……」
黄戸 冬美が、髪につけた白くてデカいリボンと同じように視線をゆらゆらと泳がしている。
どうやら俺の名前は記憶の海の底に沈んでいるらしい。
ひどい……
そんな三人の様子を見て賢がやさしく笑いかけてきた。
「ダメだよ。ごめんな。えっと、蟹蔵 月くん?」
誰が新世界の神だ。
「俺の名前は相倉 牧人だ」
「いたっけ?」
「いたよ。ダメだよ、そんなこと言っちゃ……」
女どもがこそこそと話している。
ちくしょうめ……
「話をつづけるぞ。主たちには勇者としての素質がある。ゆえに呼び出させてもらった」
「勇者の?」
黄色の派手なカチューシャを付けた黄戸 冬美が首をかしげる。
「さよう。よいか、今から主たちには聖選が与えられる」
「聖選?」
「そうじゃ。このオラクル装置に手をかざし、呪文を唱えよ。さすれば、主たちに秘められた『ジョブ』が顕れる。そして、それに合わせてスキルを手に入れることができるはずだ」
オラクル装置と言われた物体は、腰くらいの高さの機械であった。
歯車がむき出しでスチームパンク的な要素もあるが、そこに描かれた魔術チックな紋様が、この世界では魔術が発展していることを強調しているように見える。
「ジョブ? スキル?」
「まずはそこの頭の軽そ…… 金色の女、こっちへこい」
亜紀は恐る恐る言われた通りにオラクル装置とやらの前に立つ。
「手をかざして、『ステータスオープン』と唱えよ」
「……す、ステータスオープン……」
オラクル装置の歯車が軋みをあげながら複雑に回り出す。
ついで、装置の上に文字が書かれたホログラムが浮かびあがる。
――――
アキ・カナモリ
ジョブ:神弓師
筋力 A
魔力 B
耐久力 C
精神力 B
持久力 A
反応速度 A
――――
兵士達がどよめいた。
「見ろよ、なんだよあのステータスだぞ…… 騎士の平均がCだぞ?」
「ありえねぇ。A一つでもあれば騎士団長級だってのに……」
老人は、ほほぉ、とヒゲを触ると目を細める。
「なるほど、本に勇者であったか。ほれ、他の者達も」
促されるまま、残りの女の2人も神託を受ける。
夏希の方は聖法師、冬美は魔導術士。
どうやら、3人ともに恐ろしいステータスのようだ。
まずい、最後はまずい。
ここまで、しっかり振られると落ちはダメだ!
俺が、神託とやらを受けようと動くよりも早く賢はオラクル装置にたどり着いていた。
賢は、深呼吸すると口を開く。
「ステータスオープン!」
浮かびあがるステータスを見て辺りの兵士がどよめく。
ずっとポーカーフェイスを貫いていた老人すら、目を見開いている。
――――
ケン アカサカ
ジョブ:勇者
筋力 SS
魔力 SS
耐久力 SS
精神力 SS
持久力 SS
反応速度 SS
――――
「なんてことだ……職業に勇者がついてやがる……」
「待てよ、SSってなんだよ! そんなの聞いたことないぞ!!」
白いローブを着込んだ女は、腰でも抜けたのか壁をたよりに立つのが精一杯といった状況だ。
一方の女達はきゃいのきゃいのとはしゃいでいる。
さっきまで、びびり倒してた癖に……
「おいおい、最後の奴はどうなるんだよ」
俺ははっとした。
いや、ここまでしっかりとした振りの後はやばい。
しかし、この状況でやらないという選択肢はない。
俺は覚悟を決めるとオラクル装置とやらに手をかざす。
絶対絶命の俺には3つの選択肢がある。
①すごいジョブ
②すごいステータス
③どっちもすごい!
さぁ、どれだ!!
俺は目をつぶると叫んだ。
「ステータスオープン!!!!」
辺りがしんと静まる。
そして、どよめいた。
「ど、どうなってんだよ……」
「ありえねぇよ……」
この反応…… 当たりをひいたか!!
俺は目を開けると、ステータス表を見た。
――――
マキト アイクラ
ジョブ:実績蒐集家
筋力 Z
魔力 Z
耐久力 Z
精神力 Z
持久力 Z
反応速度 Z
――――
Z……もしかして高いのか?
「……Zって最低だよな?」
「生きてるのも不思議な虚弱体質だ……」
もしかして、俺のステータス低すぎ……?
そうか、ジョブがすごいのか?
俺の困惑を汲んだかのように、白いローブをきた女が老人に声をかけた。
「えっと、実績蒐集家とは……」
「ユニークジョブの一つでしょうな。私は知りませんが、かつて実績収集家というのはおりましたので、恐らくそれと一緒かと」
「その実績収集家は、どんなジョブでして?」
「初めて敵を倒したとか、何かすると自動で記録されますじゃ」
「それで?」
「それだけですな」
正解は④現実は非情である。
「……」
白いローブの女は憐れみがたっぷりとこもった視線を俺に送っている。
「えっと、あなたは……失敗かな?」
老人は満面の笑みで俺の前に立つ。
「50リウあげるから帰ってくんない?」
◆◆◆
まさか…… まさかマジで追い出されるとは……
あの賢やら勇者チーム――と名付けられてた――のやつらのドナドナされる子牛を見る目感はすごかったな……
というか、あいつらもあっさり見限りやがった……
なんて無為なことを思っているといつの間にか門の前にいた。
マジかよ。ホントに俺どうしたらいいの?
門番たちは少しだけ気の毒そうに俺に笑いかけながら門を開ける。
死んだな。確実の絶対的に……
俺はそんなことを思いながら門の外へ一歩踏み出した。
と、脳内にファンファーレのような音が鳴り響いたような鳴り響いてないような感覚があった。
そして、目の前に――実際には浮かんでないと思うが――文言が浮かびあがった。
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【実績が解除されました】
● 初めの第一歩
――君が大地に立った時、大地は君の全てを知っている。君は何も知らない。
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これか……
なんだよ、このポエミーな文書は!
何の役に立つんだよ!!
と続いて文章が流れる。
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【実績解除ボーナス】
偽装E:自身に関するものを偽装できる。鑑定E以下に有効。
鑑定E:自身のステータスを表示できる。
全ステータスが大幅上昇。
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ナニコレ。