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転生者

 

『転生者』それは死んだ異世界の人間の魂が時空を超えてこの世界の人間の体に宿ること。

『転移者』それは異世界の人間がなんらかの間違いでこの世界に迷い込んだ者たちのこと。


 この内、転移者だけに関して言えば召喚魔法によって呼び出されるということもある。

 レイはそんな知識を頭の中に羅列させていく。


「ハァ〜、そうか、ソウマ君は転生者だったのか」


 レイは寝室へと向かいながらそう呟く。正直レイはそれほどその事実に驚きはなかった。


 この世界において転移者や転生者といった異世界の存在は珍しくはなく一般の間でも周知されている。

 異世界から呼ばれた勇者。

 異世界から迷い込みその異世界の技術を提供した技術者。

 そして王族に転生してその圧政から解放した賢王、などなど数多くの逸話がある。

 他にも昨今までに知られている英雄の中には自分から申告していないだけで転生者、或いは転移者だったかもしれない者もいる。

 そして、レイ自身もそれらの存在とは決して無関係ではない。


 先が見えないほど真っ暗な廊下をレイはゆっくりと歩く。ソウマはまだ書庫で魔法の修練をしており、その様子をレイはしっかりと気配で捉えている。

 その扱いは拙いながらもある程度は完成されており魔力の扱いが今日が初めてでは無いことがわかる。


 レイはソウマの気配を感じる時は魔法の要素はあまり絡んでおらず、どちらかと言えば武人たちが使うような気配のつかみ方だ。

 そのため魔力の流れを今まではっきりとは見ておらず今日という日まで気づくことができなかった。


 そんなレイの面持ちは決して明るいとは言えず口を真一文字に閉めその目はどこか宙を見つめている。

 それはここではないどこかを見つめ何かを思い出しているようにも見える。


「ーーふぅむ、また厄介になりそうな案件だな」


 レイは意識を現実に戻しそう苦々しく呟く。


 ソウマが転生者である事については特に問題はない。レイ自身も同じく『転生者』であるため一般に知られている認識よりも深くその存在を理解している。


(まあ、私はその中でも特別なんだが)


 レイは世の人が聞けば傲慢ともとられかねない事を声に出さず心内で呟く。

 異世界の魂を持った存在はこの世界において特別な存在となる。次元の壁を越えこの世界にこれる魂は総じて強く、力を得やすいためか大成しやすい。

 しかし例えどれだけ特別であろうとも『人間』という種族である以上“寿命”という壁を越すことはできない。転生してもそれは同じ。長命種に転生すればその分長く生きれるがそれでも“寿命“という枠組みを超えたことにはならない。


 だが、レイはある事情から寿命という概念がなくなった。そのためレイはヒトが聞けば卒倒しかねないほどの永き時を生きている。

 それはある意味呪いのようなものだがレイ自身は、それをあまり苦に思っていない。


(まあ、ソウマ君が転生者だとしても今はそれに影響するものは何もない。だったら今は問題もない。それでいいか)


 レイは頭に思い浮かんだ苦々しい思いを振り払い、とりあえずそのことは端に置いておこうと決めた。


 自分の寝室に戻ったレイはベッドに入りながら、上体を起こして本を読んでいる。

 そして本を読みながらソウマの様子を気配でみている。

 レイが書庫の前を離れてからもしばらくソウマは魔法の出し入れを繰り返していたが、たった今彼はその作業を止め書庫から出て自分の部屋へと戻っている。魔力の消耗による体力の低下から眠気がきたのかその足取りはどこか覚束ないように感じる。

 レイはソウマが部屋に戻り眠ったのを知り自分も寝ようとベットに横になる。


 レイは寝るまでソウマの今までの赤子らしくない反応を思い出していた。

 あまり夜泣きせず、お漏らしをしたことも片手で数えれる程度しかしたことがない。それだけならまだ優秀だな、ということで許せる。レイも「ソウマは賢いな」と喜ぶだけですんでいた。


 だが今の今まで流していたが《身体強化》あれは決して赤子が使えるような技術じゃない。


 体に魔力を纏えばある程度身体能力を上げることはできる。しかしそれはある程度に過ぎない。そこから《身体強化》という技術に昇華させるのには少なからずの月日を必要とする。決して赤子が使える代物ではないのだ。


 そしてソウマがレイと共に風呂に入った時のあの態度、あれも前世がある故の羞恥からくるものだとすれば十分納得できることでもある。


 実はその羞恥心はレイとしてはとても共感できることだ。

 レイは今ではもうすっかり薄れほんの少ししか頭に残っていない前世の記憶を掘り返す。

 レイは今『女』として生きている。だがレイは前世、地球に於いて『男』として生きていた。

 いわゆる性転換という奴だ。

 転生した当初はそれこそ困惑した。

 そんなレイにとって、元男としては、大人の女性に付き添われながら風呂に入るというのはとても恥ずかしいことだというのはとても理解できることだ。


 ただ実際ソウマが恥ずかしがっているのはその要素も多分に含んでいるものではあるが、ソウマが恥ずかしがっているのはそれだけでは無い。


 それに加えて、レイ自身はあまり自覚はしていないが彼女自身、とても容姿やスタイルが優れている。

 艶やかで背中に流れるように伸ばしているサラサラな蒼みがかった銀髪に、まるで月を思わせるような金色の瞳、顔のパーツにしてもそれぞれが絶妙なバランスで整っており、一度街に出れば多くの人がその容姿を二度見してしまいそうなほどの美貌である。

 そして、レイは見た目以上にスタイルも良い。彼女は着痩せしやすく、一度服を脱げば普段からは想像ができないくらいに魅惑的なスタイルをしていることがわかる。


 ソウマはそれらの要素が合わさった上でなんとか一人で風呂に入ろうと抵抗し、最終的にどうにもならないことを理解し悟ったような表情をしていたのだ。


 レイ自身も自分の容姿が優れていることは理解しているがここ最近は街に訪れることも少なく、行ったとしても顔ごとフードで見えないように覆い隠すのでその容姿が外に晒されることもない。

 長い間そのようにしていた為フードを被るという行為も最早癖のようになっており、彼女は自身の容姿が優れているということを失念、というか忘れてしまっている。

 自分で自分の容姿のことを忘れるとは何事かと思うかもしれないが忘れたものは仕方がない。指摘されれば彼女もそのことを思い出すだろうがあまりヒトと関わらない現状でその可能性は限りなく低い。


 その事をすっかり忘れているレイは微塵もそのことを考えることなく、明日の朝は何を作ろうかな、と考えながらその意識を落としていった。




☆★☆




 ソウマが転生者だったことが発覚した夜のその翌日、レイは窓からうっすら陽の光が差し込む頃に目が覚める。一つ伸びをしてからベッドから降り朝のシャワーを浴びてから朝食を作るためキッチンへと向かう。

 ルンルンと鼻歌を歌いながら幾つかの作業を並行して朝食を作っている。流れるような手際で二人分の朝食があっという間に出来上がり、透明なグラスに牛乳を注いでからソウマを呼ぶ。


「ソーマくーん、ご飯だぞー!」


 レイが大きな声を出してから数秒、ソウマはドアを開けいつもよりも眠そうな顔をしながらゆっくりと歩いてくる。

 レイはそれを見てやっぱりか、と思い苦笑する。


「ふぁ〜、おはよう、レイ」


「ああ、おはよう、ソウマ君」


 ソウマはあくびをしながらレイに挨拶をし、レイもそれに挨拶で返す。


「じゃあ、食べようか」


「うん……いただきます」


 ソウマとレイは朝食を食べ始める。

 静かな部屋に食器の鳴る音、食べる音だけが響く。

 ソウマは未だに目が覚めておらず朝食を食べながらもその目はまだ完全に開ききってはいない。


「今日はなんだかいつもよりも眠そうだな?」


「っ! う、うん」


 レイはソウマが眠そうにしているのを見てそう悪戯っぽく声をかける。

 ソウマはレイにそれを指摘されたことに目を見開き、一瞬慌て、一瞬吃るがすぐさまなんでもないように返事を返す。


「あまり、夜更かしはしないようにな」


「ッ!! は、はい……」


「ふふ、そんな気にすることじゃない、寝ないと大きくなれない、それが言いたかっただけだ」


 ソウマはレイのその物言いに昨日していたことがばれていると悟り、悪戯がばれてしまったような、何か言いたげな顔をして黙り込む。

 そして、レイはそれっきり何も喋らず一旦止めていた食事を再開する。

 ソウマは何も聞かれないことが気になったのか外していた視線をレイに向けて尋ねる。


「……何も聞かないの?」


「ふむ? 何を言っているかは分からないが、私は何も“気にしていない”ぞ?」


ーーーそれに私にだって人に言えないような秘密の一つ二つはあるからな。


 レイは心の中でそう呟く。


 レイのその言葉にソウマは一瞬呆けたような顔をした後、その内容を次第に理解していき、顔を少し俯けてその口に笑みを浮かべる。

 そして顔を上げて言う。


「ありがとう、レイ」


「だから気にするなと言っている」


 その後はどちらとも何も喋らなかったがその間はいつもよりも暖かい雰囲気が漂っていた。



「たが、あまり危険なことはするなよ?」


 ただし釘をさすのは忘れなかった。



 なお、その後ソウマの要望によりレイはソウマが七歳になった時に魔法やその他もろもろの常識などを教えることが決まった。


 その日は特に何も特筆するべき出来事はなくいつも通りの日常を過ごした。




☆★☆




 日々が過ぎていく。


 ソウマの身長が成長期に入ったからか一気に伸びてきた。今ではもうレイの腰あたりの大きさまで大きくなっている。

 ソウマは時々レイの手伝い、主に料理の手伝いをするようになった。レイはそんなソウマの成長を喜び、ソウマに少しずつ料理のことを教え始めるようになった。ソウマも僅かながら料理のことを覚え始め、今ではすっかり簡単な料理であれば作れるようになった。

 そんなソウマは最近、体を鍛えるため筋トレをはじめた。レイはそれをいつも通り気づかれないように陰ながら見守る。


 ソウマは様々なことを覚え着実に成長していき、レイはいつも通りの日常を過ごす。

 最近はシャルとも夜限定ではあるが頻繁にやり取りができるようになり他愛もないことを互いに長時間喋っている。






 ーーーそして時が流れ、ソウマがこの家に来て六年。ソウマは今年で七歳になった。



次話の投稿は未定です。

誤字脱字や文章の違和感などの指摘大歓迎です。

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