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家具作り


 レイはミルクを飲んで満腹になり寝てしまったソウマ君を籠にそっと戻して、数分ほどその可愛らしい寝顔を堪能した後に外へと出ていた。


 彼女が住んでいるこの家はかなり大きい、それこそヒトが数十人単位で滞在しようとしても広さの点だけで言えば何の問題もないほどにだ。

 しかし、ここは本来彼女が一人で住むための場所である。客室も念のため幾つかは作ってあるが、赤子を泊めることを想定していないので、そこに幼児用の家具は全くと言っていいほど置いていない。


 そのため、今現在、この家はソウマ君という赤子をちゃんと育てるのには適していないのだ、と考えるレイ。

 もちろん普通であればそんな家具が一切ないような環境でも育てることはできるのだが、今のレイの頭にはそのことはすっぽりと抜けている。

 だが、それでもそれ用の家具がある方が便利であることは変わらず、あるに越したことはないので今そのことが抜けていても特に何の問題はないのだろう。


 レイは家の門の外に出てすぐのところに立ち、目の前に広がる森を見ながらソウマ君のために作る家具を頭の中で思い浮かべる。


(先ずは柵付きのベッドは必須だとして、小さい椅子も必要だな。今家にあるのよりもうんと小さいやつ。

 他に何がいるかな? まあ、とりあえず作りながら考えるか)


 よし、と一つ頷いたレイは手の平を前にまっすぐ伸ばし、魔法を放つ。


 風の刃がレイの手から無数に放たれ幾つもの木を切り倒す。強度としてはこの島に自生する木はそこらの木の数倍は硬いため特に問題はない。


 レイは大きな音を立てながら倒れる数十本ほどの大木を見ながら、少し倒しすぎたかな、と反省する。


 それでも材料は多いに越したことはないか、と思い直し一番近くに倒れている木を魔法で宙に浮かせる。

 その宙に浮かせた木にレイは再び手をかざして先ほどよりもサイズを小さくした風の刃で枝を切り落とし木の皮をはぐ。

 それをさらに様々な大きさの板に切り分ける。

 その板の四隅に穴を開けそこに細く切った棒切れを差し込み固定する。

 それと似たような作業を何度か繰り返しながら完成した最初の作品。


 ここまで僅か数十分。


 それは最初にしてはまずまずの出来と言える柵付きのベッドだった。

 歪みもそれほどなくベッドを支える足の長さも全て等しいためぐらつくこともないだろう。

 形もそれほど悪くはない。

 角の部分も何かの間違いで赤子の柔らかい頭にぶつかって陥没などされてはたまらないため、丸くなめらかに削られている。


(うむ……やり直し)


 しかし、それの何かが気に入らなかったレイは出来上がったそれをそこらへんに放りながら、また新たに家具を作り始めていった。



 家具を作り始めてから数時間ほどがたった。


 満足のいくものができるまでいくつもの試作品を作り上げる。

 そしてその満足がいくものができるまでに何本もの木が犠牲になった。


 途中で何時間かごとに作業を一旦止め、何度か家に戻りソウマの様子を覗き込み、彼のお腹が空いてそうであればミルクを与え、漏らしていた時はおしめを変えた。

 レイはソウマのおしめを変えるのにかなりの時間がかかった。

 なんせそんな経験は一度もない。

 なんとか悪戦苦闘しながら変え終わった時は思わずへたり込んでしまった。

 ソウマはそんなレイを尻目にすっきりした表情でまたスヤスヤと眠りに落ちていた。


 そしてまた家具作りを再開する。そのようなサイクルを何回か繰り返した。


 そして家具造りを始めて十時間ほどが経過した頃、レイは全ての家具を作り終えた。


 レイは完成した家具たちを家の中に運び込み並べたそれらを見て満足そうに頷く。

 この屋敷とも言える家の玄関をくぐったところには大きなスペースがありできた家具は今そこに並べられている。

 もちろんの事ながら、今はもうすでに日が沈み、ソウマにはもう既に夜ご飯のミルクを与えぐっすりと寝かしつけている。


 作った家具は全部で五つ、柵付きのベッドに赤子用の椅子に机、またこれはソウマ君に直接使うわけではないのだがソウマ君用のタオルや食器をしまう棚を二つ作った。


 この五つの家具を作るのに彼女は木を百本近く使ってしまった。

 一番最初に切り倒した時はだいたい三十本だったので、ざっと三倍くらいの木を使用してしまった計算になる。


 環境破壊も甚だしいが幸いこの島には木が腐るほどあるので彼女一人程度の破壊では特に影響がない。


 彼女はこれらを作っていくうちに、あーでもないこーでもない、と謎のこだわりを見せ始める。

 店で売ってもなんら問題がない出来でありながら、なんか気に入らない、というだけで容赦なく幾つもの試作品をそこら辺にポイと捨ててきた。

 そんなことを繰り返すうちに最初に切り倒したぶんでは全然足りなくなりまた新たに木を切り倒すことになった。

 そのため結局全てのものが仕上がる時には既に夜になっていた。

 それでも普通であれば一つの家具を作るのにも何日とかかる事もあるのだから、それを考えればレイの作業の腕と精密さ、スピードはどれも異常とも言える程であり破格の速さと出来と言えるだろう。


 レイ特製の、そのこだわりの成果である家具たちはとても素晴らしい出来となった。

 角は何一つとして角ばっているところはなく全体的に丸みを帯びたような形となっている。

 所々に馬やウサギなどの動物を可愛らしくデザインした彫刻が彫られており、何処と無く愛嬌と高級感が漂う出来となっている。

 この家具たちを売るだけで一般市民の年収数年分を優に越すくらいの額にはなるだろう。


 レイはこの仕上がりにとても満足していた。


(よし、あとは塗装もしておくか。

 何か塗料に使えそうなものはあったか?)


 レイは普段使いそうにないものを放り込んでおく倉庫へと向かう。


 ちなみにこの倉庫は二階の書庫の隣にある、と言っても二階にあるのはこの書庫と倉庫しかない。

 書庫ほどではないがこの家にある倉庫も無駄に大きい。余談だが、生活スペースは全て一階に存在している。

 倉庫には様々なものが雑然として置いてある。

 よくわからない置物やら、何時のものか分からないチーズ。

 劣化防止の魔法がかけられているためこのチーズはまだ食べれるかもしれない、まあ食べれたとしてもレイは絶対に食べようとしないだろうが。

 他にも剣や鎧などの武器や防具なども置いてある、むしろこの倉庫の大半はこのような装備で占められている。


 中には世の蒐集家やマニアにとっては垂涎ものの装備も探せば数多くあることだろう。

 何故これほどのものが多くあるかというと、以前にレイが唐突に、なんか強い装備が欲しいな、と思いそこから集められた物たちだ。

 だが可哀想なことにこの九割以上が未使用のまま無造作にこの倉庫へと放り込まれている。


 塗料を探し始めて約数分、塗料は意外なことにそれほど時間をかけずに見つけることができた。

 塗料はこの家を建築した際から一度も使われていない。

 そのため奥の方にあるだろうとあたりをつけていたのが当たった形となった。

 レイは塗料のすぐそばにあった艶出しのためのワックスと共に倉庫から持ち出す。


 レイは家具に塗る色を無難に白に決定する。

 家具を無駄に華やかな色にしても目に痛いだけだろう。

 だがそれだけでは流石に味気なさすぎるので綺麗な花柄模様などを書いていく。


「よしっ! 完成だっ!」


 レイは全ての家具に塗料を塗り終えワックスを塗り乾かした後、その達成感のあまりに声をあげて喜ぶ。

 レイは久々に充実した時間を過ごせたと満足しながらソウマ君の部屋となる場所に家具を浮かせて運び込む。

 これからソウマ君専用の部屋となるのは今まで空き部屋だったところのうちの一つで、一番リビングから近い所だ。

 この家の一階には客室としても使われていない手つかずの部屋が幾つかある。この家を造る際に張り切りすぎて余計な部屋を幾つか余計に造ってしまった。

 だが特に邪魔になるというわけでもないので何を弄るでもなくそのまま放置されていた形になっていた。


 部屋に置く家具の配置にも気を使いようやく家具作りからのすべての工程をやり終える。


 そのやりきった達成感から特にかいてもいない汗を拭うような仕草をしながら満面の笑みを浮かべた。




 ☆★☆




 レイは今、いつも休憩する際に来る少しおしゃれに気をつかった部屋でゆったりと紅茶を飲んでいた。

 つい先ほどぐっすりと眠っているソウマ君を籠から新品のベッドに移動させたところだ。

 ついでにソウマ用の皿やスプーンなどの食器類も新たに作った棚にしまい終えている。


 レイは今、窓の外の景色を眺めながら自家製の紅茶を飲んでいる。

 この部屋から見える景色はこの家の裏手部分であり、裏手部分の外壁の位置は他のところよりもかなり遠目に建てられており、そこには大きなスペースが出来ている。いわば中庭のような部分だ。

 そのスペースではレイが植えた作物や木々が存在している。


(やはり、この場所で飲むお茶は落ち着く……

 久々だ、こんなに何かをするというのは。明日からまた忙しくなるな)


 ソーサラーにカップをカチャリと置きふと外へと視線を向ける。

 今作られている作物たちはまだ蕾すら出ておらず実がなるまでに数ヶ月はかかる。

 実がなる頃にはソウマ君も離乳食を食べれるかな、と考えながらお茶のおかわりをカップへと注ぐ。


「ーーーん?」


 ちょうどその時、服の左胸に付けていたブローチが光り輝いた。


 このブローチは二対一組の魔道具でありこのブローチを持つ者同士であればどれだけの距離があっても会話ができるというものである。

 この魔道具が光ったということはもう一つのブローチが起動したからに他ならない。

 つまり相手は決まっている。

 レイはそのブローチを起動し、そのもう一つのブローチの向こう側にいるだろう人物に話しかけた。


「お前か…… 久しぶりだな、シャル」


『ええ、お久しぶりです。お姉様』




誤字脱字や文章の違和感などがあれば指摘お願いします。

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