赤子
本日二話目です。
17/10/8 描写を追加
彼女、レイ・ウィストリアは森の中で発見したそれを見て頭を抱える。なぜここに赤子がいるのかと。
レイは何をどうすればいいのかわからず手と膝に草や土がつくのも気にせず四肢を地面につきガックリとうなだれる。
とりあえずレイは籠を抱え家へと戻ることにした。
歩くこと数分、レイは大きな門の前に来ていた。
彼女はその巨大で重厚な門に魔力を注ぎ込み門を開く。これは彼女が手ずから作った特別製であり力を込めずとも魔力を込めるだけで勝手に開いてくれる彼女自慢のものである。今の所それを自慢できたのは弟子兼友人である女性一人しかいないのだが。
音を立てながら開いたその門の向こう側、そこには周りが森で包まれているとは思えない程の大きな屋敷が見える。
彼女は門に潜る前にカゴを抱えなおしてからその門を潜った。
彼女が住む屋敷とも言える規模のこの家はこの島に住むと決めた際に建てたものでかなり大きく建ててある。
建物自体の高さは二階までしかないがその敷地の広さと、建物の規模だけで言えば貴族の家と比べてもなんら遜色がないほどの大きさだ。
そしてその屋敷周りにはぐるっと一回りするように外壁がたてられている。もっともこの壁はレイが、あったらかっこいいんじゃないか? というノリのためだけに造られた物のため、頑丈に造られてはいるがこの屋敷の周囲には《結界》が張ってあるためそれが必要になったことは一度もない。
この家には使用人の類は一人もいないので、今現在この家はレイ一人で使っている状態である。
「ふう……ん?」
レイはこの家での居間に当たる場所にある机の上に籠を置き一息つく。
ふと籠の中を眺めてみると、この赤子が入った籠の中に紙が一枚入っていることに気づいた。
レイはそれを手に取って書いてあることを声に出して読む。
「んーと、なになに? 『ソウマという名前です。
これからしばらく親友であるあなたの手でこの子を育ててください。ただそれほどの時間はかからないと思います。ことが済めばすぐにでもそちらへ向かいます。キリア・アスタリス』って、誰だ?」
いきなり親友と呼ばれ、その名前に覚えが全くないレイはさらに困惑する。そしてその手紙にはご丁寧にその子の誕生日らしかものまで書いてある。その周到さにレイはこの子の親の安否が心配になった。
レイはなんらかの事故でこの子がここに飛ばされたと推測する。暫し考えたのちに「いや、あり得ない、だが……」とブツブツ呟き始める。
実は彼女には今回のような事故が起こる原因にあれだろうな、という心当たりがあった。しかしその“事故”が起きる確率の低さにまた呆然となる。
もはやなんらかの運命なのではないかと疑ってしまうレベルだ。
レイは遠い目をしながらあらぬ方向へと顔を向けた。もちろんそちらには何があるということもなく今してる行為はただの現実逃避である。
レイは暫くしてから現実逃避をやめ、手紙から見るにソウマという名前らしいこの子を籠の上から覗き込んだ。
目の色はまだ開けているところを見たことがないためわからないが、髪はサラサラとした黒色で見た感じ赤子ながらなかなかに容姿も整っているようにも感じる。
(ん〜、本当にどうしようか?)
手紙を片手に持ち眺めながらもう片方の手を顎におき今回遭遇したことについて考える。
だがしばらく頭を回すうちに考えても特に意味ないな、と思いとりあえずそのことについて考えるのをやめた。
彼女は考えても仕方ないだろう、と開き直りこれからのことを考え始める。
それはつまり、拾ったこの子をどうするか、ということだ。
今のままではレイがこの子を育てるということになる。
この子の親を探すという選択肢もあるが、この広い世界でたった一組の親を探すというのは到底無理な話だ。もしそれをしたとしても最低で数年はかかる。
旅に出たとしてもその間この子の面倒は誰が見るのかという話になる。
結局の所、今しばらくこの子の世話はレイがしなければならない。
しかし彼女は生まれてこの方、一度も子育てというものをしたことがない。それもまた彼女がこの子の面倒を見るという選択をためらう原因となっている。
厳密には子供を育てたことはあるがそれは既に言葉も覚え始めているくらいの年頃であったため、子育てに関して全くの初心者というわけではない。
しかし赤子を育てたことは全くない。
知り合いが結婚して子供を産んだときたまにその子供の面倒を見たときもあった。
しかしそれは適当にあやしたりしていただけであり、しかもそのこともだいぶ昔のことなのでろくに記憶に残っていなかったりする。
彼女は今更ながらその時にいろいろ聞いておくべきだった、と少し後悔した。それを覚えていられるかということは別にして。
これからは一人で試行錯誤しながらやっていくしかない。
この子にはちゃんと親のような人がしっかりと存在する。
今はこの子の世話に専念しなければならないが、いずれ本格的に探さなければならないだろう。生きているかは分からないがもしかしたらこの子の親類も生きているかもしれない。
この子がある程度育ったらレイと共に外へ出て親を探すか、この子が自立できるまで育った時に旅に出させるか、ということも考えなければならない。
(まあ、最終的にはこの子にその判断をさせなければいけないんだけどな)
レイは、この子の両親は今頃さぞかし心配しているだろうな、と感じる必要のない罪悪感を感じ重い溜息を吐く。
しばらくウンウン唸っていると籠の方からガサゴソと動く音がする。
「あー!」
「おっ、目が覚めたか」
レイは一旦考えるのを止め赤子のもとへ歩み寄る。
レイは目が覚めたソウマ君の顔を上から覗き込むようにしてじっと眺める。
彼は黒髪で、少し蒼みがかっているくりくりとした大きな目をしている。
この子はずっと見られることにむず痒くなったのか眉をしかめ手足をわしわしと動かす。
この子の容姿を見て、将来はなかなかの美男子になりそうだな、と思いながらこの子の近くになんとなく指を近づける。
そしたらその指をソウマ君はその指をじっと見つめた後にぎゅっと掴んだ。
レイはその赤子特有の柔らかさと手の小ささに思わずキュンとなる。
(か、可愛い! 昔あいつが自分の子にデレデレなのを見て情けないと思ったが……
初めてあいつの気持ちがわかった気がする)
そんなことを考えながら彼女はとりあえず、今こんなことを悩んでも仕方ないか、とかぶりをふり悩むのを止める。
そして覚悟を決める。
(よし、とりあえずこの子が独り立ちできるまで育てようか)
レイは諦観の念を浮かべながらも、迷いのない表情でそう決意した。
ある程度の指標が決まったところで、レイは何気なく外の方をちらっと見やり今は何時くらいかを確認して既に昼になっていた事に気づいた。
「お、もう昼か。さて…… 私はともかく、この子の食事をどうしようか?」
レイは差し当たって赤子を育てる上での最初の難関、食事をどうするか、ということに再び頭を悩ませるのだった。
(とりあえず子育てに関する本がないか探してみるか…… あったかな〜、そんな本)
彼女はとりあえず子育てに関する本がないか書庫で探すことにした。
☆★☆
彼女は書庫の本棚から子育てに関するものを掘り出しまだ歯が生えてない子の食事をどうすればいいか調べていた。
この家には本を貯蔵し保管しているとても大きな書庫がある。
この豪邸とも呼べる家の二階の半分以上が本を保管する書庫用のスペースとなっている。
その蔵書量は彼女も数えたことがないため詳しくはわからないがその数は優に万を越すぐらいはある。
何故そんなにあるのかと言えば、彼女がこの家を建てる際に『せっかくだから暇つぶし用の本をたくさん買おう』 と考えあらゆる街にある本屋から本を買い占めたためだ。
そんなことをしたら迷惑がかかると思われるかもしれないが意外とそうでなかったりする。
当時、本というものは総じて高価なため、一般層で売れることはほとんどなかった。
レイはその時、有り余るほどの金が手元にあったため王侯貴族ですら出し渋るような値段をぽんと払うことができた。
本を買い占めた際の帰りにその店の店主がわざわざ店の前に出てきてレイのことを見送ってきたことは今でも彼女の記憶に残っている。
そしてその衝動買いが功を奏したのかだいぶ昔のではあるが子育てに関する記述が載っている本を発見することができた。
そしてさらにその本たちには劣化防止の魔法がかかっているため腐って朽ちるようなこともない。
この二階の半分を占めるほどの巨大な書庫はレイの密かな自慢だったりする。
「ふむふむ、赤ちゃんに飲ませるための母乳の代用は山羊の乳を薄めたものが良いと、なるほど……」
しかしここでまた彼女は困りはてることになった。
それと言うのも今この家にはあっても牛乳しかなく山羊の乳は置いてないのだ。牛乳でもいいのかもしれないがここは初めての子育て、確実に行きたい。
本に書いてあることが何でも正しいとは限らないがそれでも自分の頼りない知識よりは役に立つ。
今はもうすでに昼時、今はソウマ君が眠っているからいいもののまたいつ起きだすかわからない。もしかしたらぐずって泣き出してしまうかもしれない、と焦りつつ早くしなければという焦燥感を感じる。
レイは山羊の乳を入手すべくその場で何処かの人里の近くへと《転移》した。
数十分ほどの時が経ち再びレイは家へと《転移》で戻ってくる。
彼女が訪れた最初の村、そこは運良く山羊の特産地だったらしく多くの山羊が育てられていた。
最初は村の人たちも見知らぬ旅人といった格好のレイに警戒していたが拾った子供のために山羊の乳を買いに来ただけだと話した途端に態度を軟化させ快く山羊の乳を売ってくれた。
子供を拾ったと話したレイに並々ならぬ事情があるのだと思った村人たちはさらに自分たちの畑で採れた作物を幾つか分けてくれた。
それは流石に悪いとレイも最初は断った。
しかし村人が言うには今年は作物が豊作だったらしく少しぐらい減っても全然彼らは困らないとのこと。
最終的にはレイの方が折れて採れたての新鮮な野菜などを受け取った。
レイは久々に触れた人の心の優しさに思わず心が温かくなった。
レイは早速山羊の乳を温めて水を入れて薄める。
それを人肌まで冷ましてから清潔なカップに注ぎ込む。それから水でひと洗いしたスプーンを手に取りカップを持ってソウマ君のいる居間へと向かった。
ソウマ君はすでに目が覚めていた。
レイはすでに目を覚ましていたことに気づき慌てつつも泣かないで静かに待っていたことに感心した。
ソウマ君の首にナプキンを巻きミルクをすくったスプーンを彼の口に近づける。
彼は器用に溢さないようにしながらミルクを少しずつ飲んでいく。だがそれでも口の端からこぼれていくミルクを見てレイは可愛いと思いながらほっこりとした気分になる。
(おお! ちゃんと飲んでくれてる! )
そう内心で喜びながら少しずつ彼にミルクを飲ませていく。
あとスプーン三杯ほどまで減ったときお腹がいっぱいになったのか飲むのを拒否し始めた。
それを見てレイは先ほど本で読んだ『お腹がいっぱいになった赤ちゃんにすること! 』の内容に書いてあったことをやってみることにした。
「よしっ……こう抱きかかえて、と」
レイはソウマ君を抱いてその背中をトントンと優しくたたく。
そしたらソウマ君はけぷ、と可愛らしいげっぷをする。それを見たレイは本の通りだったと感動し、ミルクを吐き出さなかったことにホッとする。
レイは満腹になってスヤスヤと寝始めたソウマ君を籠の中にそっと戻す。
その可愛らしい寝顔をレイはにやにやしながらじっくりと眺める。
数分ほどソウマ君の寝顔を堪能した後、彼女は家の外へと移動した。
あと三話ほど連日更新してから不定期更新となります。
指摘された誤字の訂正完了しました。