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プロローグ

以前投稿していたものを手直ししたものです。


9/21大改稿しました。

 

 爆音が鳴り響く。

 巨大な木々が立ち並ぶ森の中、その中の拓けた場所、そこの中心には一人の少年が倒れ込んでいた。


「ハぁ、ハァ、強すぎだよ……」


 諦観の念を込めたつぶやきが思わず漏れてしまう。それ程に少年と相対者との実力は絶望的に離れていた。


 そこに地面から伝わって聞こえてくる足音、今まで相対していた相手がここに近づいてくるのをその音で察する。

 今の攻撃で吹き飛ばされた際に手から落ちてしまった剣を拾って、すぐさま立ち上がり、前をゆっくりと歩いてくる敵を見据えながら構える。

 目の前を悠然と歩いてくる女性。少年、ソウマの育ての親であり師匠でもある彼女、レイは普段の穏やかな風貌は鳴りを潜めその絶世とも言える美貌には何の表情も浮かんでいない。

 その顔が普段とのギャップを生みさらなる悪寒がソウマの背に走ってくる。


「ふむ、まだ立てるか」


 冷たく、何の感情も読み取れない平坦な声。しかし美しく響くような声がソウマの耳朶を刺激する。


「まあ、あれだけの啖呵を切ったんだ。それぐらいやってもらわないと、なっ!」


 ドゴンッ! と地面が割れるほどの踏み込み。次の瞬間目の前には師匠である彼女の顔が迫ってくる。


 瞬時に反応しきれないソウマは場違いながらもその彼女の非常に整った顔に美しいと思ってしまう。


 体が特大の危険信号を鳴らし反射的に剣を持った手を前に構える。

 迫り来る超速の足が剣にぶつかる。ガィン、という鈍い音とともにソウマは再び吹き飛ばされるが先ほどとは違い剣を構えると同時に体を浮かしていたソウマは倒れることなくどうにか持ちこたえるに成功した。


「ほう、持ちこたえたか」


「それぐらい、当然だよ!」


 感心した声を上げるレイにソウマは挑発するように声を上げる。勿論それはハッタリであり心の中では心底ヒヤヒヤしていた。

 何気ない一つ一つの一撃が命取り。そんな薄氷の上を渡るような戦闘に短い時間ながら身体はおろか精神もだいぶ磨耗していた。


 そして声を上げると同時に魔法を放つための距離を稼ぐため足に力を込め一足飛びで後方へと移動する。


「炎よっ!!」


 膨大な魔力がソウマのその手に集約される。

 そしてその手から小さな火の玉が、徐々に徐々に巨大化していき最終的には少年の身長と同じほどのサイズになる。

 ソウマの使える魔法の中で最も等級及び威力の高い魔法。

 それを全力、これで仕留めるという意気を込めて放つ。


「ハァッ!」


 気合の声とともに放たれたその炎球はその大きさからは想像もできないようなスピードで地面を融解しながらまっすぐ進む。

 当たればひとたまりも無いだろう。それだけの力がその炎から感じられる。

 当たれば、だが。


「やっぱり、避けるよね〜」


 着弾したところには既に人の姿はなく、爆発による巨大なクレーターが作られるに留まる。


「当たり前だ。威力は大したもんだが、そのぶん直線的。もっと他の選択肢があっただろう」


 その声は上から聞こえてくる。魔法を放った瞬間に飛んで避けたのだ。

 しかしそれくらいは少年も予想している。


(けど、そこなら避けれないよね!)


 先ほどの炎よりも威力は下がるが、そのぶん大量の、決して避けれないような弾幕を張るようにして魔法を一斉に放つ。


(当たれ!)


 心から願うようにして放たれたその魔法。その魔法を放たれたレイは、以前冷たい表情のままだった。


「考えたな。だが、それくらいは脅威にすらならんと、言っている!」


 レイの腕が霞む。


 そしてそれと同時に鳴る空気を叩くような轟音。

 思わずその音に驚き目を瞑ったソウマ。その響くような音が止んだ時、その結果を予想しながらもおそるおそる目を開ける。


 そこには一切魔法を受けた形跡のない無傷のレイが立っていた。


「ま、まさかさっきの音って、拳圧?」


 ソウマは信じられなかった。拳圧一つで魔法を全て弾かれたことに。レイとソウマ、二人の間には彼の思っていた以上の実力差があった。


「その通りだ。で如何様にする? ソウマ君。降参か?」


 ソウマは折れそうになる心を奮い立たせる。

 そしてレイをキッと睨む。

 その目には先ほどまでと委細変わらぬ戦意が宿っていた。

 それを見たレイはこの戦いで初めて表情の変化を見せる。しかしレイの前身の挙動を注視していたソウマはその表情のわずかな変化に気づかない。


 彼女は今、微かに微笑んだ。


「では次はこちらから行くぞ」


「来い! 次こそは当ててやる!」


 レイが腰を落とし、構えて、消えた。

 そして次の瞬間、ソウマの視界は暗転した。




 ☆★☆




「……さすがに耐えきれんかったか」


 今の一撃で倒れ伏したソウマを見てレイがそう呟く。

 しかしその顔には失望などの感情は欠片も浮かんでいない。むしろその逆、とても温かい目で彼を見つめていた。


「よいしょっと」


 倒れたソウマを担ぎ、自宅へと向かう。

 レイは肩にかかる重みを実感しながら彼の成長を感じ取る。


「大きくなったな、本当に……」


 万感の思いが込められたその一言は彼を育ててきた今までの歩みを想起させる。


 レイはソウマの体を労わりながらゆっくりとした足取りで自宅へと向かっていた。





 時は十二年前に遡る。





誤字脱字の指摘大歓迎です。

次話は明日投稿します。

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