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24. 掘り出し物

「よいか。一流の人間になるには、一流の物に囲まれなければいけない」

 

 父上の口癖だった。

 領主である父上は自分の跡継ぎとして育てるために、惜しみなく様々の物を与えてくれた。子供だからといって、妥協せずに与えられた物は全て一級品であった。

 物だけにとどまらず、人間もその業界における第一人者と呼ばれるものを呼んで家庭教師につけてくれた。


 そのおかげか、物の良し悪しがわかるようになっていた。さらに、人に対しても愚鈍であるもの、有能であるものも区別がつき、人を使う際にどういった配置がいいかということも考えるようになっていた。


 やがて父上から領主の座とともに屋敷も引き継いだ。

 屋敷には父をはじめとしたご先祖様たちが集めた数々の一級品が集まっていた。

 それらを見ることで目の保養にはなったが、どこか物足りないと感じるようになっていた。


 あるとき、町を歩いているときにとある露天商で売られている品物に目が入った。

 雑多な品にまぎれて置かれていたが、それはまぎれもなく一流の匠によってつくられた品物であった。

 二束三文の値段で手に入れたとき、私の心は満ち足りた。

 どうやら、私という人間は、自らの手で一流のものを堀り当てるということに達成感を得ることができるようだ。


 それから、私は暇を見つけては色々な場所を巡っては掘り出し物を探していった。

 あるとき、奴隷商の視察に出かけたとき、とある少女が目に入った。

 みすぼらしい身なりだが、それに見合わない意思の力を感じさせる光を目にともした少女だった。

 私はピンと感じ、エミリーという名のその奴隷の少女を購入した。


 礼儀作法を教え、メイドとして雇うと彼女はメキメキと頭角を現すようになっていた。

 飲み込みが早く、何よりも明るく人に好かれる性格のおかげで屋敷における使用人の中心になっていた。


 そんな彼女の働き振りをみながら、今回も掘り出しものを探り出せたと満足感に浸っていた。しかし、まだ何かが物足りないような気がしていた。

 

 次に目に止まったのは、町の衛兵隊に志願してきた孤児院出身の青年ウィリアムだった。

 彼は貪欲に仕事をこなしていったが、孤児院出身ということもあって、その働きに見合う出世は望めなかった。

 不満そうな顔をしている青年を見て、私は彼を王国軍に推薦した。王国が所有する軍のうち3割が、各地の領主からだされた兵士によって構成されている。そのため、補充用の兵士を送る必要があったので、彼に行ってもらうことにした。

 王都から定期的に届く報告書に彼のことも書かれており、彼は訓練は大変だがやりがいがあるといって、充実した様子で、上官からも覚えがよく、小隊長にまで昇進したらしい。

 今回もいい人材が発掘できたと満足感を得ることができた。それでも、なにかが物足りなかった。


 

 何が足りないのだろうと思いながらも、領主としての仕事を執務室でこなしていると、廊下の方からガチャンというなにかが割れる音が聞こえた。


 音のしたほうにいってみると、そこにはメイドの少女エミリーが青い顔をして立っていた。その足元には砕けた壺の破片が散らばっていた。


 我が家に飾られている調度品は全て先祖代々つたえられてきたもので、使用人である彼女もそのことは知っていた。

 彼女が割ったのは、その内の一つで100年以上前に作られたもので、今では値段をつけることができないようなものだった。


「も、申し訳ありませんっ!! 一生働いてでも弁償いたします」


 彼女は必死になって謝ってきて、その表情はいつもの笑顔ではなく絶望の色に満ちていた。


「気にするな。次からは気をつけるのだぞ」


 私はそういったが、彼女の顔色は戻らなかった。

 割れた壺と青い顔をする彼女を見ながら、不思議と物足りないと思っていたものが満たされて行くような気がした。


 壺は修理にだされ、接合されて元の形には戻ったが、割れた跡がヒビとして残っていた。

 壺は元の位置に飾られ、ヒビを見るたびに彼女は暗く沈んだ顔をしていた。

 彼女は以前のような笑顔をみせることはなくなり、他の使用人からも心配されていた。


 ある日、彼女が執務室にやってくると


「旦那様、どうかわたしに罰を与えてください」


「なんだ、壺は元に戻ったのだ。それでいいだろう」


「……旦那様はお優しすぎます。奴隷だったわたしを拾っていただき、さらに屋敷で雇っていただいたというのに、わたしは恩を仇で返してしまいました」


「ふむ、そうだな……。それじゃあ、前のような笑顔を見せてくれ。それが君への罰だ」


 私の言葉を聞いて、エミリーはおずおずと顔を上げて口の端を少しだけ上げた。


 それから、最初はぎこちなかった笑顔だったが、会う度に笑顔をみせてくれというと、少しずつだったが元のような笑顔を見せるようになっていった。

 他の使用人も元のように明るくなった彼女を見てホッとしていた。


 私もうれしいはずなのだが、またあの空虚さを感じていた。


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