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20. ナイトノッカー

 旅人や巡礼者が道中休むための施設として、教会は各地に休憩所を設置している。

 山の中腹にある建物も休憩所として作られたもので、そこには管理人として一人の男が派遣されていた。

 現在、管理人である男の姿はなく、その娘である幼い少女が一人で留守番をしていた。

 少女は父親がいない不安からか、早く戻ってきてほしいと夜になっても起きて待っていた。

 

 おとーさんが昼間におでかけして、いい子で待ってるんだよといわれたけど、おとーさんはなかなかおうちに帰ってこなかった。

 でも、さびしいけど、あたしはいい子だから泣かないんだ。


 涙をこらえていると、玄関の扉をノックする音が聞こえた。


「おとーさんっ!!」


 ようやく帰ってきたのだと思って、鍵をはずしてドアを開けた。

 あたしは目が悪くってはっきり物がみえないけど、目の前にはおとーさんと同じぐらいの大きさの人が立っていた。


「おとーさん?」


 いつもだったら、ただいまっていうのに今日は何もいってくれない。

 もしかしたら、別のひとだったのかもしれない。うちはきゅーけいじょっていう旅の人を泊めるところで、たまに泊まりにくるひとがいた。


 そういえば、夜にノックするひとがいたら、最初にだれがきたか聞きなさいっていわれてたな。この前、うっかりして開けようとしたら、すごく怒られてしまった。

 でも、ずっと前から夜になるとノックしている人がいて、おとーさんったら無視してていいっていうんだもん。


 黙って玄関の前でずっとたっていたと思ったら、また外に出て行ってしまった。

 どうしたんだろうと思って、不安に思いながらしばらく待っていると帰ってきた。


 手には何か持っていてわたしにくれた。

 それは、甘い匂いがしていてわたしの好物の果物だった。

 あたしの好物だとしってて、お土産にとってきてくれたんだから、やっぱりおとーさんなんだとわかった。


「ありがとう、おとーさん」


 笑顔でお礼をいったけど、おとーさんはまた黙って外にでていってしまった。


「おとーさん、早くかえってきてねー」


 おとーさんはふらふらしながら暗い中を歩いていて、その背中に向けてあたしは精一杯声を上げた。

 

 次の日も、おとーさんは夜になると帰ってきて果物を置いていってくれた。

 すぐに帰ろうとするので、手をにぎって引きとめようとしたら、なんだか冷たかった。もしかしたら風邪でも引いているのかと心配になったけど、おとーさんは外に出ていっちゃう。


 追いかけたいけど、おとーさんに夜になったらお外にでちゃいけないって言われていたのを思い出して我慢した。

 でも、おとーさんは外にでてるけどいいのかなって少し不思議に思った。

 

 昼間、おとーさんがいない間は家の中を掃除していた。

 泊まりにくるお客さんがいつきてもいいように、キレイにしておくんだよって教えてもらっていた。

 雑巾で床をきれいにしていると、玄関が開いた。


「ただいま、アリス、戻ったぞ!!」


「おとーさん、おかえりなさい!!」


 今日のおとーさんはちゃんとただいまっていってくれて、駆け寄ったあたしを抱きとめてくれた。


「アリスごめんよ。大丈夫だったかい」


「大丈夫だよ?」


 おとーさんは変なことをいっていた。ずっと会っていたはずなのに、なんかひさしぶりに会ったみたいなこといってる。


「おとーさん、今日は果物ないの?」


「果物? アリス、あれは自分でとってきたのかい?」


 おとーさんはテーブルの上においてある果物を指差していた。


「ううん」


「じゃあ、だれが……。まあいいか、おなかすいたろ。すぐにごはんにするからな」


 夜になって、おとーさんと話しているとまた扉をノックする音が聞こえた。

 あれ? おとーさんがいるのになんでだろ?


「……また、きやがったのか」


 おとーさんがビクリと身をふるわせて、玄関の方に顔を向けていた。


「こんばんは、教会のものですが、泊めていただけないでしょうか?」


「ああ、はいはい、少々おまちください」


 おとーさんはさっきまでの緊張とは打って変わって、軽い足取りで玄関を開けて旅の人を中に招きいれた。

 入ってきたのは、おじさん1人と、おにーさん2人、それとおねーさん1人だった。

 挨拶はちゃんとしなさいって、おとーさんにいわれているのでぺこりと頭を下げた。


「こんばんは」


「こんばんは、ちゃんとご挨拶できてえらいね」


 おねーさんは頭をなでながら褒めてくれた。

 おねーさんたちは教会のひとたちで、白い服をきていた。


 それから、テーブルにすわって休憩しているおねーさんたちに、水の入ったカップを配った。


「よくできたお子さんですね」


「ええ、自慢の娘です」


 褒められて、照れながらえへへと笑った。


 そこに、また、玄関の扉をノックする音が聞こえた。


「おとーさん、また、お客さんだよ。開けるね~」


「アリス、まて!!」


 おとーさんが注意する声をあげていたけど、あたしはもう開けてしまっていた。

 そこには、甘い匂いのする果物をかかえたおとーさんが立っていた。


「あれ? おとーさんがもうひとり?」


「アリスちゃん、離れて!!」


 おねーさんが大声をあげていた。

 なんで慌てているんだろうとわからないまま、おねーさんが早口で何かを唱えた。


「主よ、かの不浄なるものに救いの手を!!」


 すると、おとーさんの形がなくなって土くれになっていた。

 わたしが首をかしげていると、おにーさんが話しかけてきた。


「ふう、あぶないところでしたね。それにしても、ノックをしてくるアンデッドとか初めてみましたよ」


「……えぇ、私も驚きました。娘を助けていただきありがとうございました」


 おとーさんが頭を下げてお礼をいっていたけど、おねーさんは体を硬くして黙りこくっていた。

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 鎧の人が登場せずにおかしいなと思ったり、ユミルと呼ぶ人が誰もいなかったり、神子さまが好戦的だったり、違和感を感じながら読んでおりましたが先代の神子の物語だったのですね。そういえば護衛騎士たち…
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