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13. 湧き続ける死体

 朝日に目を細めながら教会に戻ると、ハンスさんとヘンリーさんが慌てた様子で、教会の神父やシスターたちに指示をだしていた。


「あの……、ただいま、戻りました」


「神子様!? どこにいらしたのですか」


 驚いた顔をしたあとほっとした表情をする2人に、倉庫で起きたレド司教とのことを話した。


「そうでしたか。まさか、レド司教がそのようなことを……」


「これは縛られたときの痕ですか。護衛でありながら神子様から目を離してしまうとは、申し訳ありませんでした」


「いえ、そんな、今回のことは、だれが悪かったなんてわたしにはわかりません」


 わたしの手首にのこった縛られて赤くなった痕を見て、2人に謝り倒された。


「それよりも、レド司教と奥様のことを弔ってあげたいです」


「はっ!! 了解しました。直ちに手配いたします」


 すぐに人を手配してもらい、倉庫に倒れているレド司教の遺体を回収した。

 その後、レド司教のやったことに対して教会内で話し合われた結果、教会内部で処理し、町の人に対しては公開しないことにし、事故死ということになった。


 次に葬儀を執り行うことになったのだけれども


「本当にわたしでいいんですか? 葬儀の作法とか知識でしか知りませんよ」


「いえいえ、ここは神子様にやっていただいたほうが、町のひとびとも安心してレド司教のことを見送ることができるでしょう」


 葬儀を取り仕切る役を任されそうになっていた。

 ずっと黙って立っているだけでもいいといわれたが、大勢の人前に出たことなどなく想像するだけで足が震えそうだった。


「奥様を浄化していただいた神子様に見送ってもらえれば、彼らもきっと安心して逝けるでしょう」


「そうですね……。わかりました」


 しかし、この一言でわたしの心は決まった。わたしが彼女にできることが少しでもあるなら、やっておいたほうが後悔しないだろう。


 それからレド司教夫妻の葬儀が行われると、たくさんの人が来ていて、それだけ人に慕われていたのだというのがわかった。

 ようやく葬儀が終わりほっとしていると、声をかけられた。


「大変だったようだが、無事やりおおせたようだな」


「ボルゾイ様っ!?」


 声をかけてきた人はボルゾイ様だった。1週間ずっと不在だったため会うのはひさしぶりだった。


「どこにいらしたのですか?」


「すまんな、本部への報告に手間取ってしまって、思いのほか時間がかかってしまった。レド司教のことは聞いている。無事に浄化を成功させたようだな。よくやった」


「いえ、そんな、わたしはただ必死になってやっただけです」

 ボルゾイ様に初めてほめられたことにびっくりして、わたわたと慌ててしまった。


「これからもその調子で精進するのだぞ」


 教会は神子としてのわたしに期待をかけていて、ボルゾイ様の言葉はずしりとのしかかってきた。

 旅が終わるまでに、はたして自分は期待にこたえられるような人間に成長できているのか不安になった。


 

 旅の支度を整え、教会の人に見送られながら次の町に向けて旅立った。

 毎回、旅の行き先は本部からの指示によって決まっていた。

 アンデッドの浄化の際に死者に引きずり込まれないように、心を強く保つために旅先で様々な経験をさせるという配慮があるらしい。

 そのための事前情報を、ボルゾイ様が本部の連絡員から受け取り、わたしたちを導いてくれている。

 

 次に着いた町の中に入ると、町中から感じる気配に違和感をもった。

 町の通りはきれいに整備され店が軒を連ねていて、普段だったら活気にあふれているはずの場所だったのだろう。しかし、今は警戒するように店の扉は固くとじられ、通りには人の姿がなかった。

 人の気配はしないが、別のものの気配がはっきりと感じられた。


「ボルゾイ様、この町に入ってからたくさんのアンデッドの気配を感じます。なによりも瘴気がひどい」


「そのために、本部からこの町の状況を改善することを命じられた」


「どうしてここまでなったのでしょうか?」


 町の中が、ここまでひどいことになっているのは初めてだったため、戸惑いながら聞いてみた。


「1週間ほど前から、町中に多数のアンデッドが出没するようになり、この町の担当者が浄化していっているようだが、処理が追いつかないらしく協力要請がきた」


 どうやら、すでに他の神父たちもきて協力しているようだが、それでもどんどん出現するアンデッドへの対処が追いつかないらしい。


 教会に到着すると、疲れた表情の神父やそれに随行してきた神殿騎士たちが休んでいて、さながら戦場の休憩所のようだった。


「ボルゾイ到着しました」


「おお、お待ちしておりましたぞ。あなたがボルゾイ殿ですね。おうわさはかねがね聞いております。さらに神子様までおられるのでしたら、この町の救済も時間の問題となりましょう」


 わたしたちを出迎えたのはこの町担当のトマス司教だった。白髪で見事なあごひげをたくわえていて、貫禄のあるいでだちであったが、その顔からは疲労をにじませていた。


「くわしい状況をきかせていただけるだろうか」


「1週間前までは瘴気もなく、アンデッドの発生もありませんでした。しかし、次の日から急に瘴気が濃くなり、アンデッドが湧き始めました」


「湧き始めた?」


 普通死体が起き上がりアンデッドと化すため、妙な表現の仕方に疑問の声を上げた。


「それが、遺体は教会の定めるとおり火葬をしているのでアンデッドになるはずがないのですが、今回出現しているアンデッドたちは町の往来などに突然でてきています」


「なるほど、それで湧き出しているということですか」


「そういうわけでして、遺体を処理したとしてもアンデッドの出現を防ぐことができず、町の住人もいつ襲われるかわからずみな怯えています」


「大変な状況のようだな。ケガを負った方の治療は間に合っているだろうか」


「それがですね……けが人はおりません」


「まさか、みんな亡くなられたのでしょうか?」


「ああ、いえ、そういうわけではなく、今回出現したアンデッドに襲われた方がひとりもいないのですよ」


「え、どういうことですか??」


 アンデッドになったものは最期に強く心に残っていた人物を襲ったり、近くにいる人間を無差別に攻撃してくるはずだった。

 だけど、トマス司教が口にしたのはそんなアンデッドの習性からまったく外れた存在だった。


「アンデッドたちはとくに攻撃してくることもなく、ただ立っているだけでして、それでも放置するわけには行かず浄化してまわっています」


 トマス司教が教えてくれたことに戸惑いを感じながらも、アンデッドたちの動きが活発になる夜を待った。


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