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気まぐれ日和Days  作者: 長塚マダラオ
1/1

夏は…あっづい…。

――シュシュウィーシュッ!シュシュウィーシュッ!シュシュウィーシュシュシュシュシュッ!!!――


 進む先や背後まで、そして通りすぎる木の枝から聞こえてくる(セミ)の呻き声。

「……やっぱり、あづゔいぃぃ」

「……せからしかぁ」

 今度は直接背中から聞こえてくる、悲壮感と苦悶の混じった呻き声。

「……やっぱり、冷房ガンガンのあの空間(てんごく)が恋しぃわぁ…」

「うん、だね」

 それに同意しながら早速、下校途中に立ち寄った楽園(コンビニ)から去った事を香織(かおり)と共に悔やんでいた。

――シュシュウィ(略)

ソレはまるで追い討ちを掛けるかの如く、せからしい(セミ)の鳴き声が複数重なってやかましさが増した気がした。

「あのさぁ…」

胡乱気(うろんげ)な声音をあげながら彼女は私の両肩に両手を乗せて来て、またも切り出してきた。

て言うか暑苦しいから退いて。

「どったの…?」

振り払うのも振り向く事さえも気怠くて億劫なので、正面を向いたまま聞き返した。

「アイス買い忘れたからさぁ、それと今聞こえてる蝉の鳴き声の数だけネジリ殺したいから、殺虫剤(キンチョール)とハーゲンダッツ一緒に代わりに買ってきてぇ?」

子供が親にねだるような、猫なで声での申し出に対し。

(セミ)がせからしい上に、蒸し暑さと刺すような日差しであなたの精神が削られてアホに拍車が掛かって幻聴が聞こえているダケサァ、アッハッハー(棒)」

「うわー罵倒が棒読みにも程がある、じゃあ一緒に付いてきてよー、カモーン?」

「嫌だよ、1人で買って()ぃよ?ここで待ってるから、ついでに私の分も買ってきてよ?」

「嫌だ面倒いかったるい時間 ()かるし労力を考えると(だる)くて億劫!つか金欠、しかもガリ○リ(ボーイ)がハズレてたりしたらと思うと腹立つからヤダネっ!!」

「……うん、そんだけの怠惰のボキャブラリー吠えられるなら大丈夫だろ?1人で行って来い」

「うええぇぇえ……」

どんだけ嫌がってんのよ、絶対私にタカる気でしょコイツ。

「もー仕方ないなぁ、じゃあ代わりにセミ殺す?」

「代わりに駄菓子にする?的なイントネーションでサラッと軽やかに怖気(おぞけ)誘う事抜かすな、てかそっちの方が労力使うわっ!!」

アイス買い忘れたからって、八つ当たりでセミの命を(おびや)かそうとするな。

「ぢゃぁあ、こるぃかるぁ、どぅおぅするぅノゥでぃすくぅわあ?」

「なぜに巻舌?て言うかセミよりウザったいわ!」

「フッ、夏の日差しがアタシをアメリカンへと(いざな)い、(そそのか)すノサッ」

もう夕方だし天気荒れてきてるし、セリフをそれっぽく言おうがキメ顔かまそうがお馬鹿さは変わらないぞ?

「て言うか、いつまで私の肩によっかかってんのよ」

「ハイハーイ無駄口叩いてる間に、新たな宝島を発見したぞーぃ?」

「おいこら」

さっきあんだけ多彩なボキャブラリー無駄に連発してたくせに、話題逸らすなお調子者め。

進行方向から見えて来たのはセ○ンイレ○ンだった。

すると彼女はこっちの言う通りにした訳では無いのだろうが、私を追い越して蜂が花畑に吸い寄せられる様な足取りで向かって行った。

彼女の後を辿るようにして入り口へと進むと、途中に何かのキャンペーンの旗らしき物をチラリと一瞥(いちべつ)しながら自動ドアを(くぐ)った。

すると無気力な掛け声が聞こえて来るよりも先に、冷気が身体を包み込んできた。

「ホァァアアア……アタシ、この先の人生何が有ろうと、エアコンを憎む事は絶対にない。例えカビ臭さが部屋の中に充満しようと涼しむ事が出来る、ただそれだけで愛せる気がする!」

入店一発目に感じる冷房に、彼女は心からのくどい賛辞を述べた。

「そして例えエアコンが効きすぎて、風邪ひく事になろうとも!」

「本末転倒じゃんそれ、まぁ確かに涼しいけど……予想以上に冷房効いてて汗で濡れてる部分が冷えて何か気持ち悪いけど」

「そこは副作用(ジレンマ)?」

「何か一種の矛盾を感じた気がするんだけども」

「タイムパラドックス的なものさ」

「合致しない例えだなぁ」

「おお!ハーゲーダッツ又の名をスタンディングトレンディー斎藤さんが、アタシを招き呼んでおる〜」

「最近のハゲ芸人絡みの名前を使って商品に変なあだ名付けるな」

商品と全国の斎藤さんに謝りなさい。

「ていうか、金欠ならそんな高いアイス買えないでしょ?やっぱりガリ○リ君にしときなさいよ」

「フッ、ガリ○リ君信者の誘いには乗らないよ!アタシはそこらのボンヴィグゥアールゥではないのだ!」

又も巻舌でほざきながら財布から一万円札(ゆきちさん)を人差し指と中指の2本で挟み、某カードゲームの主人公並の切れで抜き取り掲げてきた。

「…あんたさっき金欠って言ってたじゃないの」

「嘘も方便?てへぺらろ♪」

「あんたねぇ…」

彼女はこちらの抗議を最後まで聞かずにそそくさと店の奥まで進み、覗き込む形で陳列されているアイス達を拝見したその時、

「はぅあっ!?」

「今度はどしたの?」

そんな忘れてた呼吸を驚いて再開させた淡水魚みたいな顔をしちゃって。

「ハ、ハゲダツが…ガリ○リ(ボーイ)も…どっちも、無い」

「え?」

曲がりなりにもアイスの主力商品を置いていないコンビニが有るだろうか?天下のセ○ンイレ○ンが?※個人的感想です。

「アタシの好きな味が、無い…」

「あー、品切れか」

人気商品故の避けられない運命(さだめ)か。

「何で?ねぇ何故アタシの手元に無いの?このアタシが求めて無いとはどう言う了見でしょうか?この落胆と持ち上げといて落され(おとしめ)られたこの傷心を誰にぶつければ宜しいのでしょうか?」

死んだ目で淡々と物騒なセリフを矢継ぎ早に語る光景は、なかなかの衝撃と見て取れた。

「どんだけショック受けてんのよ、日頃の行いが性格以上に悪いからなんじゃないと?」

「せからしいわ!だって夏だよ!?サマーだよ!?セミを自転車で轢き殺す季節でしょ!?」

「夏の見どころそこじゃないでしょ!?そんなおぞましい季節であってたまるか!」

てかさっきからテンション可笑しんですけどこの子。

確かに死体を間違って弾いちゃった時は罪悪感に苛まれるし、申し訳ないけども。

「ねぇ考えてみてよ……既に弾かれてグチャってるセミをもう一度タイヤで踏み付けたとするじゃん?」

グチャってるって言うなや。

唐突に問われたが、取り敢えず思い返してみた。

「…まぁ、やっちゃった事が無いとは言えないけど」

「そうそう、そしてその時『あっ、やっちゃったぁ』って思うでしょ?」

まるで念をおすように聞いてきた。

「まぁ、うん」

「つまり、二度楽しめるってことでしょ?」

「腐れドSか!!」

そりゃ日頃の行い最悪だからアイスの在庫も切れとるはずだわ!

「あっ、ラブアイドルライブマスターのクジやってるぅ!」

「おいアイスはどこいった」

「?」

だが彼女は唐突にキョトンとした顔で首を捻り。

「売り飛ばされて、買い主の手元にじゃないの?」

「んなことわかっとるわ!急に真顔でそこだけ冷静に回答すな!」

しかも語弊(ごへい)のある言い回しだし。

「そるぃぢゃぁあ、こるぃかるぁ」

「巻舌はもういいわ!!」

◆◆◆

「…っんく…ぷはーっ!学校帰りのコーラは五臓六腑に染み渡るぅ!」

「普通、疲れ切った体に美味しいご飯を食べて渇望した時のセリフでしょそれ」

「わざわざ解説どうも!そして5秒後に忘れるぜぃ!」

「忘れるな」

『アイスはやっぱり好きな味じゃないとイヤ!』と彼女は頑なに意地を張るので、妥協案としてジュースにする事にして店を後にしていた。

「にしてもホント、暑いよねぇー」

「うん…ニュースでも梅雨が明けて、これからどんどん暑苦しくなるってよ?」

「あのさ、毎年必ずニュースで異常気象って言ってるけどさ、異常気象(そう)じゃなかった年ってある?」

そう問われて、視線を斜め上に向けながら思い返すと。

「…ないかも?」

「だよね…なんか、詐欺臭くね?」

「ニュースにケチ付けんな」

そんなやり取りに割り込むように をしていた、そんな時。

『はぁっ!かっ!たぁのっ!塩っ!』

「あ、ユウからだ」

「毎回思うんだけど、彼氏の着信音ホントにそれで大丈夫なの?」

塩のCMで使われてたけど、音源どうやって設定できたのだろうか。

「良いの良いの!アイツぱっと見地味だし、こういう所で個性出してあげないと!」

「いやいやそれ本人関係ないでしょ、て言うか何気に自分の彼氏若干ディスってる気がするのだけど…」

彼女はこちらのツッコミを華麗にスルーして、送られてきたメール本文に目を通すこと数秒。

「なぬ!?」

読み終えたらしい、彼女はスマホから弾かれたように顔を持ち上げてこちらを見やった。

「今度はナニ?」

流石にさっきから続くハイテンションに、夏の湿気混じりの暑さで辟易(へきえき)して来てるのだが。

「アニュメ○トでお○松様のBD限定版の予約が始まってるって!!」

「そか、五分で買って来い」

「まさかのパシリ!?」

「まぁ冗談は置いといて」

「もー、冗談は顔と性格とテストの赤点だけにしといてびょグボッ!」

「それで、実際どうすんの?」

「……オオォウ、ヒトの脇腹に貫手かましといて何も無かったように話進めんといてよ」

パチクリ…。

「え……ヒト?」

「ヒトだよ!ホモサピエンス!ヒューマン!人類は皆兄弟!」

「ハイハイラヴアンドピース、ラヴアンドピース~」

「あしらい方に愛を感じない!愛をください!」

「せからしく欲張りなやつだなぁ、じゃあ」

私は彼女の肩を掴み引き寄せ顔を近づけた。

「え…ちょっヒョ!?」

私は彼女の耳元で小さく、しかしハッキリと(ささや)いた。

「あんたを見てると、思わずトイレに行きたくなるょ」

「…うん、何か壁ドンされるヒロインの境地にいたけどそのセリフでリアルに帰ってきた来ました」



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