二人の対抗策
1話
この地には、富と幸福が溢れている。
それを狙う他国も、この国、セグネアの圧倒的な軍事力によって追い返されてしまう。
王の政治は完璧と言ってもいいほどで、小太りしてはいるがまぁ民にかける想いからすれば良い王だろう。
その王が統べるこのセグネアの軍事力の秘密、それは巨大な城の隣にある、これまた巨大な研究所。
そこで強化される兵士たちは凄まじい強さを授かり、戦場に赴く。
その兵士たちで構成されているからこそ軍は強いのだ。最近は他国からの進軍も全くなくなった。だが、それから少し経ったある日、異形の者達、魔族の軍が姿を現した。魔族は王を殺すこと、そして研究所を潰すことを狙って行動している。彼らの前では屈強な兵士達も強化すら何の役にも経たず、魔族には負け続きだった。そんな折、さらなる強化に成功した者達を集め、魔族達への対抗策とした。
「そして集められたのがお前とシグレ君だ」
「おおお!それでは我らは国の為に戦えるのか!」
「はいはいテンション高すぎ。わかってる?二人で戦えるわけないよね?ね?」
白衣のメガネをかけた男は、モニターに映された過去の映像をもとに自分の暑苦しいとも言えるほどに熱血の息子マソラと、飄々とした佇まいをしており、男と思えぬほどスラリとしているが、二人で幾つもの危険を乗り越えた息子の友達、シグレに説明を終えたところだった。
「シグレ君、その通りだ。二人で約30000の大群に立ち向かうのは無理だ」
「あれ、数こっちに比べて少なくね?」
「魔族は一体一体が強すぎるんだ、そのため数のハンデくらいは欲しいものだよ」
ため息を吐き首を振る自分の父、ソラウにマソラは力強く声をかける。
「我らがその役目、立派にこなしてみせましょう!」
「我が息子よ、その意気だ!」
「暑苦しいのは抜きにして、人数集まる予定は何人なわけ?」
「7人」
「少ないよ!明らかに足りないよ!」
目の前の机をバンバンと叩くシグレにソラウは苦笑する。
「以前の強化よりも強い強化を受けられたのはこれだけ、ということでね。それに丁度いいんだ」
「何が?」
「軍があるんだから、未成年である君たちにこれを頼むのはおかしいと思わないかね?」
「それはまぁ....確かに」
「紅魔、という軍があることが明らかになったんだよ。捕らえた魔族に吐かせた情報だがね」
ソラウが二人のもとに資料を配る。
「今までわかっている軍はその3つだ。水棲系魔物で構成された、『水魔』。天使系の魔族で構成された、『天魔』。アンデッド系魔族で構成された、『霊魔』。その他の魔族はそれぞれがどの軍につくか決めることになる」
そして、一旦言葉を切り、今度は一枚だけのプリントを二人に配る。
「そして新しくわかったのが、女性型魔族だけで構成されているという紅魔の存在だ。紅魔は単独行動のみで、他の軍と手を組むことはもちろん、戦争に参加することもないらしい」
「なら始末する必要はないのでは?」
「もっともだ、マソラ。だがな、こいつらは『単独行動で』研究所を潰すことを狙っているんだ。この紅魔のボスを含めた幹部が丁度7人なんだよ」
「その情報、信頼できるの?」
「何人かの魔族に吐かせた。それに頼るしかないだろう」
またため息を吐き、言葉を続ける。
「他の5人もそろそろ到着する頃だろう。私も一応は最高責任者なんでね。研究に戻るとしよう」
そう言って去ったソラウの背中を見送り、二人が言う。
「良い方々であればいいが」
「嫌な予感するんだよねぇ」