プロローグ 3
俺はルーゼリアと出会って三か月、彼女からこの世界のことをたくさん教えてもらった。
その中でも特に驚いたのが、この世界の文明レベルは中世程度のものだということだ。
すなわち、電気もなければガスもない。不便極まりない生活を強いられざるを得ないということだ。
「タロー、薪割りお願い」
「承知した」
この世界――エーデルワイスについてからというもの、行く当てのない俺はルーゼリアの家に居候させてもらっていた。俺は理系なので、もちろんただでというわけにはいかない。それゆえ、こうして彼女の小間使いをするのが最近の日課となっていた。
(……本来ならばこのような肉体労働は文系の仕事なのだがな)
そう思うものの、口には出さない。
なぜなら俺は理系だからだ。口だけ達者な無能は文系のすることだ。
理系の俺は黙って言われた作業を黙々とこなしていた。
………………。
…………。
……。
日が真上へと昇り、正午にもなるとルーゼリアは自宅裏の山中で薪割りに励む俺のもとへ、昼食を運んでくる。
「タロー、ご飯にするわよ」
「了解だ」
薪を割る手を止めルーゼリアの元へと足を運び、彼女の隣の切り株の上にどっかりと腰を下ろす。
この匂いから察するに、今日の昼食は昨日のシチューの残りのようである。
彼女から木皿に盛られた熱々のシチューを受け取り、無造作にそれを頬張る。
「……うまい」
「ほんとに? それはよかった」
ルーゼリアと二人で取る昼食は、嫌いではなかった。
理数系の勉強ができないのはいささかむず痒いが、こんな生活も悪くないかもしれない。
そう思い始めていたころ人里離れた山小屋に暮らす俺とルーゼリアの元に、王都から一通の手紙が来たのだった。
――ルーゼリア・カルロッサ
貴殿を王都警備隊近衛隊長に任命する。