プロローグ
――理系。
それは学物上では文系の上位に君臨する学問といわれている。
頭のいいものは理系に進み、頭の悪いものが文系に進学する昨今。
理系の人間の需要は日に日に高まりつつある。
「おい、見ろよ。特進クラスの山本だ……。なんでもあいつ、国立の理系に行くつもりらしいぜ……」
「こ、ここ、こここ、国立!?!?!? しかも理系!?!? 化けものかよ……」
「ああ。この間の数学のテストでも満点取ったらしいぜ……」
「マジかよ!? やっぱあいつ、俺らとは頭の作りが違うんだな」
外野のざわめき声がうるさい。
そんなくだらないことを話している暇があるのなら、数学の問題の一問でも解けばいいのに。
そう思い、彼らの方を見るとどうやら二年A組の生徒のようである。
やはり文系か……。
「おう、山本。今から昼食か?」
二年E組の教室にから一階の食堂へと向かう途中、体育教師の里田に声をかけられる。
「ええ。今日は一年生が郊外活動でいないので、久しぶりに食堂で食べようと思うんです」
俺がそう言うと、里田は感心したような表情を見せた。
「ふーむ。なるほど、今日は食堂がすいてるからな。そこに気が付くとはさすがは理系だ!」
「いえ、そんな。簡単なロジックですよ」
俺はそう言い残すと里田に会釈をし、食堂へと足を運んだ。
俺が食堂に行くと、周囲にざわめきがおこる。
「ねえ、あの人、国立理系志望の山本くんじゃない?」
「え? どこどこ? あ……ほんとだ!」
「かっこいいよね~、山本くん」
「あんた声かけてみたら?」
「ムリムリ! わたし文系だもん! 頭の構造が違いすぎて会話が成立しないよ」
周りの女子たちが俺の方をちらちらと見てくるのがわかる。
(ふう……やれやれ)
毎度のことながら、俺は小さくため息をつくと食券機の方へと足を運んだ。
食券機の前に着く。今日のおすすめメニューはカレーライスと、焼き肉キムチ定食であった。
さて、どちらにしたものか……。
カレーライスを選んだとするならば、俺は原材料である『カレー粉、小麦、食肉等(牛肉、鳥皮)、牛肉だし、トマトペースト、マンゴーピューレ、濃縮りんご果汁、ビーフシーズニングエキス、食用油脂、たんぱく加水分解物、カラメル色素』などを口径から接種したことになり、逆に焼き肉キムチ定食ならば『白米、豚肉、はくさい、だいこん、にんじん、にら、果糖ぶどう糖液糖、とうがらし、食塩、たんぱく加水分解物、発酵調味料』をカレーと同様に口径を通して接種することとなる。
もし仮に俺が文系だったら、パッと見たくさん原材料の含まれている前者を選択するであろう。
だが俺は理系だ。文系とは違い、ものごとを多角的に考える術がある。
もう一度券売機を見る。
そこには【今週限定 焼き肉キムチ定食】と書かれていた。
そう、何を隠そう、焼き肉キムチ定食は期間限定なのだ。
それも一週間という限られた期間。365分の7の割合でしか食べられないのだ。
ならば答えはきまっている。
――俺は焼き肉キムチ定食を購入した。
俺が部屋の片隅で食事を終え、俺の身体の細胞周期がG1期から分裂期へとめぐりめぐっているであろう頃、事件は起こった。
なんと俺が休憩しているスペースの空間が、急に光り始めたのである。
「なっ!?」
この時ばかりは、さすがに理系の俺であっても動揺を隠せなかった。
これは――魔法陣!?
気が付くと俺は異世界に飛ばされていた。