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紫閃心理

歪。


今日この握島本部に新しく司令官が着任するとの事だ。


可哀想に、もう何も残されていないこの国に、国の命令によって嫌が負うもこうして握島に流されてきたのだから。


自らの状況を差し置いて、同情すら覚えてしまう。


もうじき司令官がやってくる、可哀想に、可哀相に。



疑。


これが新しい司令官?


百七十くらいの身長の私も超える、百八十余りの背丈。


顔はあまり格好良いとは言えないが、不細工とも言えない中間的な顔。


主に三日月眼で一重の司令官は、何か、失礼だが戦場に立つ様な顔ではない。


きっと、帝国軍の本部、安全圏に居た為だ、でなければこんな優しそうな人間、居る訳が無い。


何にしても、私は彼を信用するつもりは無い。


所詮、私達戦姫を道具として見るだけ。


戦場の犬なんて、結局は自らの名誉の為の人間ばかりなのだから。



驚。


今、何と言ったのだこの男は。


戦争に勝つために此処に来た? 嘘吐きが、こんな、見捨てられた地区だ。


勝てるはずが無い。


妄言か、それとも偽善か。


どちらにしても、彼は普通では無い。



呆。


こんな危ない時期に、腹が減っては戦は出来ぬだ?


馬鹿かこの男は、所詮死ぬのだ、腹を満たそうが満たされまいが、結局は同じ事。


なのに。


なのにこの男は。






「どうした? 紫閃ト級。早く案内してくれたまえ……あぁ、手負いだったな、肩を貸そう、立てるか?」


どうしてこうも、私に優しくするのだろうか。


貴方達戦場の犬は、私達戦姫を人間として見ていない筈なのに。


貴方達金の亡者は、私達の事を道具として見ている筈なのに。




「―――ありがとう、ございます」




彼の優しさが、こうも胸の内を抉ってくる。


何なの、彼は。


何故、私をぞんざいに扱わないの?




「司令官」




私の声は、雑念で、本来ならば誰にも聞こえない声。


いや、聞こえる声、けど、周りの人間は、私達の言葉を無かった事にしていた。


道具を前に、声を傾ける人間は居ない。


道具わたしたちの声は、 道具わたしたちしか聞こえない。


のに。




「何だ、紫閃。痛むのか」




彼はその言葉を聴いていた。


私の言葉を理解してくれた。


彼の一言が、その度に私の心を抉るのに。




「―――紫閃?」




もう一度、私に問いかける。


私を心配している声。




「な、んで」




体が熱くなる、だんだんと、体の構造がおかしくなる。


兵器としての私が、私でなくなる様に。


だんだんと、壊れて、崩れて、変になっていく。




「なんで、そんなにも、私を、戦姫を…………」




喉元が裂ける様に熱く、目の奥から何かが溢れてくる。


司令官は、八木吉屋と言う人間は、少しばかり程考えて、息を吐く様に口にした。




「君たちは私の部下だ、故に、部下の面倒を見るのが 司令官わたしの役目だと思うのだが………」



「―――あぁ」





あぁ、そうなのか。


その優しさも、その思いいれも。


妄言と思っていた言葉も、偽善と思っていた言葉の意味も。


全ては彼が、戦場の犬だから。


けど、違う。


彼は、本物の犬だ。


誰よりも戦場に恋焦がれ、誰よりも戦略を頭に詰めている。


故に、誰よりも兵を大事にし、誰よりも戦場に恐怖している。




「司令官、貴方は、誰よりも、戦場がお好きなのですね」




その問いに、見透かれたか、と言わんばかりに顔を歪ませた。




「―――曲がりなりにも軍人だ、戦場にて生きるのが本業、しかし、死ぬ事は許されない、難しい仕事だよここは」




まるで、自らが戦場に立つような口ぶりで、彼はそう言った。


純粋な人。それでいて、可哀想な人。


けど、私の、私達の命を無駄にしない、それだけは、彼の本心だと、微かにそう思えてしまう。


そんな事を思う自分が、果てしなく理想を抱いている事に気が付いて、涙が毀れた。


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