番外編 ベルデとリュイの長い一日 第一話
第25話の後で、第26話より前の話です
ー リュイの休みの日には2人で買い物に行く ー
特に約束した訳ではないが、結婚してからずっとそうしていた暗黙の決まり事をベルデは初めて拒否した
リュイとベルデが結婚してから1年ちょっとたったある日のことだった
2人でソファーに座ってくつろいでいる時に、ベルデが隣に座るリュイと少し距離を詰めてリュイに話しかけた
「明日、一人で買い物に行って来ていい?」
ベルデの言葉に、リュイが不思議そうに聞き返した
「どうしても?それは、明日じゃないと駄目なもの?」
「そう」
真剣な顔でリュイの顔をしっかり見ながら深くうなずいたベルデに、リュイが渋々答えた
「わかった、行っておいで、気を付けてね」
「リュイ、ありがとう!」
ベルデがリュイに飛びつくとふわりと浮遊感に襲われた
思わず目を閉じたベルデはそっと背中にまわされた腕に安心したように体から力を抜いた
そのままリュイの上に重なるように倒れたベルデは、耳から聞こえるリュイの穏やかな心音にゆっくり目を開けた
ソファーから落ちていないことに一安心したベルデが顔を上げようとすると、リュイがベルデの頭をゆっくり撫で始めた
「勢いつき過ぎたみたいで、ごめんね、大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
答えたリュイがくすくすと笑い出してしまったので、もう少しこのままでいたい誘惑を振り切ったベルデが無理矢理顔を上げると幸せそうな顔をしたリュイと目が合った
「ベルデ」
「何?」
「愛してるよ」
「え?」
ニッコリ笑ったリュイの言葉に、先に呼びかけられてしっかり視線を合わせていたベルデが驚いて声を上げた後真っ赤になってリュイの上に崩れ落ちた
リュイはしっかりベルデを受け止めるとギュッと抱き締めながらくすくす笑った
「私も、愛してます!」
叫んだベルデをチラリと見下ろし服から出ている部分が真っ赤に染まっているのを、満足そうにじっくり見たリュイが呟いた
「ベルデは、暖かくて、柔らかくて、いい匂いがするね」
「な!?」
暴れ出しそうになったベルデを抱き締めている腕の力で抑えながら、リュイが微笑んだ
「もうしばらく、このままでいたいな」
リュイの腕の中でピタリと動きを止めたベルデが小さく呟いた
「それなら、私は頭を撫でて欲しいな」
「仰せのままに、喜んで」
リュイがベルデの頭をまるで髪の感触を楽しむかのようにゆっくり撫で始めると、ベルデが嬉しそうに笑い声を上げた
リュイはソファーの肘掛に頭をもたせかけ、ベルデはリュイの胸元に頭を預けながら幸せそうに微笑んでいた
次の日の朝、ベルデは買い物鞄の中に財布と買い物リストが入っていることを確認してから鞄を肩にかけ静かに家の扉を開けて外に出た
「よし、リュイが起きる前に帰ってこなくちゃ!」
ベルデは朝日を反射してきらりと光った指輪を反対の手でそっと撫でながら微笑んだ
このときベルデが振り返って寝室の窓を見上げていれば何かが変わったかもしれないし、変わらなかったかもしれない
寝室の窓から不機嫌そうなリュイがベルデの後ろ姿をじっと見つめていた
門を出たベルデの後を少し距離を開けて数人の影が追いかけて行く
その中の一人が一瞬こちらを見上げ緩く頭を振ってからベルデの後を追いかけて行った
その後ろ姿を眺めていたリュイが呟いた
「もし、ベルデに何かあったら分かってるよね」
最後まで自分の傍を離れるのを渋った男の顔を思い出しながら、リュイがニヤリと笑った
ー お前が警護につかないなら、喧嘩してでもベルデの外出をやめさせるから ー
ー 可哀想なベルデ、聞き分けの悪いお前のせいで一人で買い物にも行かせてもらえないなんてね -
ー え?家って、お前が抜けたくらいで隙が出来るような警備体制なの? ー
いつもいつもさり気なくベルデとの時間を邪魔してくる男の顔をじっと見て無表情で畳み掛けるリュイに、段々男の顔が険しくなっていった
ー 大事な大事なベルデの警護をお前に任せてあげるよ ー
そう言って満面の笑みを浮かべたリュイに、無表情で返した男の口元が僅かに緩んでいたことは見て見ぬふりをした
夜、ベルデが眠った後のことを思い返していたリュイの鼻に、ふわりとお茶の香りが漂ってきた
僅かに開いているドアを開くと、ティーセットを載せたワゴンが置いてあった
ワゴンを部屋に入れて、ポットのお茶をカップに注ぎソファーに座って飲み始めたリュイが不機嫌そうに呟いた
「そつがないのも考えものだな」




