第七十一話 クラースとローザとジヴィ
「兄さん」
「何だ?」
「このためにあんなに必死になって稼いでたんですね」
ローザは兄と遊べなくなって寂しくて泣いて困らせたことを思い出していた
「ああ、ニヴィに送るものはその時の俺が送れる中で最善を尽くした」
きっと両親を通せば融通がきいたはずなのに、それをしなかったクラースをローザは誇らしく思った
「ちょっとだけ、見直しました」
そう言ったローザを見て、クラースが少し笑った
「世話になっている店が毎年これを送ってきてくれる」
クラースが机の上の冊子に嬉しそうに手を重ねた
「そうなんですか」
「あの指輪を買うときも俺の望みをくんでくれた店だ」
「いい店ですね」
「ああ」
「私にも紹介してくださいね」
「ん、ジヴィから聞いてないか?」
「何をですか?」
ローザが満面の笑みを浮かべてからクラースを見ると、自分の失言に気付いたように慌てて口を押えた
「聞かなかったことにしておきます」
「ああ、すまない」
「全くです」
しばらく会話が途切れた
「兄さん、包装してある箱の中にメッセージカードは入っていますか?」
「最初のものだけ入れてある」
「そうですか、でしたらそれは兄さんが直接渡した方がいいですね」
「そうか」
「ええ、シンプルなネックレスを添えて渡すといいことがあるかもしれませんね」
「わかった、他の年はメッセージカードじゃ足りなくてな」
「全部、ちゃんとニヴィに渡すことをお勧めします」
「ああ」
「兄さん、あえて確認しますけどいいですか?」
「ああ」
「まさか、今の流れで今年の贈り物はシンプルなネックレスにしようとか思っていませんよね?」
「駄目なのか?」
「駄目に決まっているでしょう?」
「ネックレスはここにある指輪に添えて渡すだけです!」
「ネックレスに全力注いでどうするんですか・・・」
「ローザ、相談にのってくれてありがとう、助かるよ」
「ニヴィの次くらいには兄さんのこと好きですからね」
「それは嬉しいな」
ローザとクラースが微笑み合っていると、穏やかな空間に突然不機嫌な声が響いた
「ローザ、もちろんニヴィの前は俺だよね?」
ローザが慌てて振り返ると満面の笑みを浮かべたジヴィがドアにもたれかかるように立っていた
「クラース、邪魔するぞ」
「ああ」
ジヴィはローザに目を向けたまま部屋の主に許可を取ると、ローザに歩み寄った
「ねえ、ローザ、クラースの次なんて言わないよね?」
ジヴィはローザの前まで来ると、ローザの顔を見て不思議そうな声を出した
「何でそんなに嬉しそうな顔をしているのかな?」
ローザは嬉しさを噛み締めていたので、ジヴィの声が思ったよりも近いことに驚いてとっさに後ずさった
バランスを崩して慌てたローズをジヴィが支えるとそのまま自分の方に引き寄せた
ローザを引き寄せて抱き締めたジヴィにクラースが苦笑いを浮かべた
それを横目でみたジヴィがにやりと笑った
「クラースがニヴィを俺の目の前で抱き締めても、俺は何も言わないぞ?」
「わかった」
「で?答えてローザ」
ジヴィは腕の中にいるローザの顔を見つめながら答えを促した
「ニヴィと同列、ではないですよ、ジ、ヴィは誰とも比べられません」
一瞬悲しそうな顔をしたジヴィにローザが微笑む、ローザは恥ずかしそうに名前を呼びながらもジヴィから目をそらさずに答えた
微笑みながら自分を見上げるローザに、ジヴィが口元を緩めた
ローザを抱き締めたまま動かないジヴィに、クラースが本棚から取り出した本を渡した
「クラース、ありがとう」
「ああ」
すると、律儀にこちらを見てから礼を言ったジヴィに本を手渡した礼ではなく邪魔をしなかったことへの礼だと察したクラースが苦笑いを浮かべた
「今日は天気もいいし庭でローザとお茶でも飲んでいったらいい」
「ああ、ありがとう」
「ローザ、いいかい?」
「はい、喜んで!」
嬉しそうに連れだって出て行った2人を見送ったクラースが呟いた
「よかったな、ローザ」
机に向い冊子を開くとネックレスが乗っている部分を見始めた
数枚ページをめっくたクラースが冊子を閉じると椅子から立ち上がった
クローゼットからシンプルな形の落ち着いた色の上着を出して手に持つと部屋を出た
―――――――
さて、ジヴィはいつから聞いていたのか?(笑い)




