第五十五話 シンザとセールとアズールとランと少々ニヴィとジヴィ
シンザがうとうとしていると何かが触れたような気がした
もう少し眠っていたくて、横向きに寝返りをうった
寝返りをして顔に落ちて来た髪を、誰かがはらってくれた
そのまま、頭を撫で始めた大きな手が心地よくてシンザの口元が緩んだ
一瞬離れた手が今度はシンザの頬に添えられた
思わず、温かくて少しごつごつしている手に擦り寄ると、近くから誰かがくすくす笑う声が聞こえてた
とても楽しそうに笑う声につられてシンザが目を開けると、椅子に座って笑っているセールが見えた
自分が笑われていることを察したシンザが頬を膨らませると、まだ触れていた手をぱっと離したセールがシンザを見た
「シンザ、起きたのか?」
「・・・起きてません!」
シンザは布団に潜って顔を隠したが、布団越しにセールの笑う声が聞こえた
ムッとしたシンザが上体を起こしてセールをキッと睨み付けると、不意に真剣な顔をしたセールがシンザの顔を覗き込んだ
シンザが顔を逸らそうとすると、セールがシンザの顎を手で掴んで固定した
文句を言おうとしてセールを見上げると、目が合ったセールがホッとしたような顔をしてシンザの顎から手を離した
そのまま離れて行こうとしたセールの頬にシンザが咄嗟に手を伸ばした
自分に向って手を伸ばししたシンザに驚いたセールがわずかに目を見開いて固まった
シンザがセールの頬に手を添えながら心配そうに尋ねた
「セール、泣いた?大丈夫?」
「え!?」
「目の縁が赤くなってる・・・」
シンザがセールの頬に添えていた手を少し浮かせると親指でセールの目元をそっと撫でた
「っ!?」
セールがシンザの頬を撫でる様に手を動かし、顎をすくい上げると驚いたように目を見開いるシンザを見下ろした
そのまま見つめ合っていたセールとシンザの距離が少しずつ近づき始めると、ドアの向こうが突然騒がしくなった
「お姉ちゃんのお見舞いに行く!」
「ちょっと、ニヴィ待ちなさい!」
「父さん、何で駄目なんですか?」
「セールのためだ!」
「セールさんの?なら仕方ないですね・・・ってニヴィ!!」
「「あ!?ニヴィ・・・」」
ニヴィの叫び声に始まり、ランの声とジヴィの声、アズールの声が続けて聞こえた
皆が止める声が響く中、勢い良くドアが開くと満面の笑みを浮かべて手に花を持ったニヴィが部屋に駆け込んで来た
セールがニヴィに椅子を譲って立ち上がった
「あれ、お姉ちゃん顔が赤いよ?大丈夫?」
「大丈夫よ、ありがとう、ニヴィ」
「お花を持って来てくれたのね、ありがとう」
「うん!」
ランがニヴィに花瓶を渡した
「お花を水につけてあげなさい」
「はい」
花瓶を手に持ったニヴィが嬉しそうに部屋を出て行った
ジヴィが花瓶を持ったニヴィを心配そうに見ながら追いかけて行った
一瞬部屋に気まずい沈黙が流れたが、ベッドの上でシンザが首を傾けた
「あれ?」
「どうしたの?シンザ」
「私居間の出窓で皆が来るのを待ってたのに・・・」
「ああ、そのまま寝てしまっていたからセールに部屋まで運ばせたのよ」
「え!?」
「ああ、俺が運んだ」
「あ、ありがとう、重くなかった!?ごめんね!?」
急に慌てだしたシンザを不思議そうに見ながらセールが答えた
「重くなかったぞ・・・むしろ柔らかくていい匂いがした」
途中で顎に手をあてると、ボソッと呟いた
「セ、セール!何を!?」
「何って、シンザが聞くから答えただけだぞ?」
「っ!?そ、そうだわ、きっと疲れているのよ!」
「疲れて眠り込んでいたのはシンザだろう?」
「う・・・」
「シンザちゃん、どうしたのかしら?」
セールの呟きを聞き逃したランが、悔しそうにセールを睨むシンザを見て首を傾けた
「ねえ、アズール、どうしたのかしら?」
ランがアズールに声をかけたが、返事が無いので振り返るとアズールが口を手で押さえて涙目になりながら声を出さないで笑っていた




